飲み会は業務@最高裁
本日、最高裁が飲み会から会社に戻る途中の交通事故を労災と認定しました。
労働法の基礎の基礎みたいな本で必ず出てくるのが、会社からまっすぐ家に帰れよ、途中で吞みによったりしたら、そのあと交通事故で死んでも一切労災にはならないぞ、という脅しですが、今日の最高裁判決で書き直さなければならない本でいっぱい出てきそうです。
その判決はこちらにアップされています。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/000/086000_hanrei.pdf
その理屈の部分を引用しておきます。
(1) 労働者の負傷,疾病,障害又は死亡(以下「災害」という。)が労働者災補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには,それが業務上の事由によるものであることを要するところ,そのための要件の一つとして,労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であると解するのが相当である(最高裁昭和57年(行ツ)第182号同59年5月29日第三小法廷判決・裁判集民事142号183頁参照)。
(2) 前記事実関係等によれば,本件事故は,D社長に提出すべき期限が翌日に迫った本件資料の作成業務を本件歓送迎会の開始時刻後も本件工場で行っていたBが,当該業務を一時中断して本件歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため本件会社の所有に係る本件車両を運転して本件工場に戻る際,併せて本件研修生らを送るため,本件研修生らを同乗させて本件アパートに向かう途上で発生したものであるところ,本件については,次の各点を指摘することができる。
ア Bが本件資料の作成業務の途中で本件歓送迎会に参加して再び本件工場に戻ることになったのは,本件会社の社長業務を代行していたE部長から,本件歓送迎会への参加を個別に打診された際に,本件資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにもかかわらず,「今日が最後だから」などとして,本件歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示される一方で,本件資料の提出期限を延期するなどの措置は執られず,むしろ本件歓送迎会の終了後には本件資料の作成業務にE部長も加わる旨を伝えられたためであったというのである。そうすると,Bは,E部長の上記意向等により本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ,その結果,本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために本件工場に戻ることを余儀なくされたものというべきであり,このことは,本件会社からみると,Bに対し,職務上,上記の一連の行動をとることを要請していたものということができる。
イ そして,上記アの経過でBが途中参加した本件歓送迎会は,従業員7名の本件会社において,本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で中国人研修生を定期的に受け入れるに当たり,本件会社の社長業務を代行していたE部長の発案により,中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり,E部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し,その費用が本件会社の経費から支払われ,特に本件研修生らについては,本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのである。そうすると,本件歓送迎会は,研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ,中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより,本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり,本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。
ウ また,Bは,本件資料の作成業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻る際,併せて本件研修生らを本件アパートまで送っていたところ,もともと本件研修生らを本件アパートまで送ることは,本件歓送迎会の開催に当たり,E部長により行われることが予定されていたものであり,本件工場と本件アパートの位置関係に照らし,本件飲食店から本件工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことにも鑑みれば,BがE部長に代わってこれを行ったことは,本件会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであったということができる。
(3) 以上の諸事情を総合すれば,Bは,本件会社により,その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ,本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり,本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻るに当たり,併せてE部長に代わり本件研修生らを本件アパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから,本件歓送迎会が事業場外で開催され,アルコール飲料も供されたものであり,本件研修生らを本件アパートまで送ることがE部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても,Bは,本件事故の際,なお本件会社の支配下にあったというべきである。また,本件事故によるBの死亡と上記の運転行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができることも明らかである。
以上によれば,本件事故によるBの死亡は,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項,労働基準法79条,80条所定の業務上の事由による災害に当たるというべきである。
もちろん、会社の飲み会なら業務というわけではありませんが、こういうケースのような状況下では、業務上と認めないわけにはいかないということですね。
こういうのを見ると、法律の本来の趣旨と日本の労働社会の現実、とりわけ職場の現場でみんながそれが当たり前だと思って行動している原理が乖離している場合、日本の裁判所はその労働社会の現実に身を寄せた解釈をしないわけには行かず、そういう判決が積み重なって、六法全書に書かれていた本来の姿とはかなり乖離した「判例法理」が確立してきたという戦後日本の歴史が、依然としてなお脈々と息づいていることがわかります。
そりゃ、日本型雇用のまっただ中で生きてる人々にとって、この飲み会は業務中の業務、業務以外の何物でもないというのが、その「生きられた現実」なのであってみれば・・・。
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コメント
まずは大陸法のスタートアップを経験主義的な英米法スタイルに替わってきた、あるいはそもそもルールですから当たり前で、労働者にとっては今更かよと、遅きに逸したということです。しかし判決?そのジャッジメントたちの所得源泉ってなんなんでしょうね。独立してます?させています?でも源泉はいずれにせよ裁かれる立場への依存ですよね。独立機関といういわば西洋神話へのある時代黎明期の創造物ですよね。変な話ですよね。
ところで、本件は社内飲み会=上意下達=同質強要=隣組的気味悪さの根元を時間を止めて日本型雇用に還元されておられるように誤解(笑)しましたが、なにしろバブル経済時代は強要でも人的時間的余裕があり堂々と接待であれ社内飲み会であれ、余裕によりすべては会社持ち。懐かしのタクシー待ちにもチケットの等価原理、ましてや今や問題となる(当たり前ですが)領収書も”白紙”doのような景気環境もあったわけで本当に景気循環があるとすれば今はそのなが~いパラドクスですし、一転今やプロセスイノベーションの行き着く先にこうした強要だけが生き残っているのが日本型だとすればある学問お得意の”稀少性”なるものに夢も希望も競って椅子取りゲームに奔走せざるを得ないこれまたお得意の”代替性”なき就活学生諸君の疲れた顔で車内居眠りを毎年見るに耐えないと思っている私も夢も希望も語れませんねえ。資本のあり方を換えたら変わるのかもしれませんねえ(笑)。ウィンブルドン型にしたらいかがでしょ、かの国に見習って(笑)。毎度すみません。
投稿: kohchan | 2016年7月 8日 (金) 21時37分