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 米韓両国は8日、高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の在韓米軍への配備を最終決定したと発表した。遅くとも2017年末までの運用開始を目指す。北朝鮮に対する弾道ミサイル防衛は強化されるが、朝鮮半島への影響力を巡る日米と中国の綱引きはより激しさを増すことになる。中国は同日、配備への不満を表明した。

 米韓両政府は配備の理由として、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を挙げた。北朝鮮は韓国に向けた短距離スカッドを約800発、主に日本を狙う中距離ノドンを約200発、米領グアムを射程に入れる中距離ムスダンを約40発、それぞれ保有しているとみられる。

 これに対し、東アジアでの主な防衛体制は、韓国の地対空誘導弾パトリオット2(PAC2)、日本のパトリオット3(PAC3)とイージス艦に搭載される迎撃ミサイルSM3、米国のSM3とグアムに配備されたTHAADで構成されている。

 韓国国防省によれば、在韓米軍に配備するTHAADは1個部隊で、発射台6基とミサイル48発などで構成される。射程数十キロのPAC2やPAC3に比べ、高度150キロでの迎撃も可能で、1個部隊の展開により韓国全土の2分の1から3分の2を防衛できる。

 THAADと同時に、弾道ミサイルを探知するXバンドレーダーも配備される。1800キロの範囲まで探知が可能とされ、すでに青森県、京都府にも配備されている。軍事関係筋は「複合的な運用で、SM3の迎撃能力を向上させることができる」と指摘。日本やグアム、さらには米本土の防衛にもプラスになるとする。

 一方、米韓は「朝鮮半島のTHAADはいかなる第三国にも向けられない」とし、配備を警戒する中国やロシアに向けては運用しない考えを示した。韓国国防省は8日、中ロ両国に配備決定を事前に説明したことを明らかにした。

 ただ中国外務省は8日、米韓の決定を受けてただちに声明を発表。THAAD配備を「中国を含めたこの地域の戦略上の安全保障の利益と戦略均衡を著しく損なう」と反発した。

 韓国は従来、経済的な結びつきが強い中国に配慮し、日米のミサイル防衛体制に入らないと繰り返し強調してきた。ただ、北朝鮮の脅威の増大から、6月末に日米韓で初のミサイル防衛合同演習を実施。THAAD配備も決めるなど、徐々に事実上の日米韓ミサイル防衛体制に傾きつつある。

 米韓関係筋は中国の反発について「THAADの配備阻止は既に諦めたと思う。さらに日米韓の防衛協力が進まないよう、韓国に圧力をかける思惑が強いのではないか」と語った。(ソウル=牧野愛博)