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異世界温泉へようこそ! 作者:虹咲 春

第二章

28/28

第二話 勘違いした二人

 28話

「いやぁー。流石に調子乗りすぎたわ。ごめんやで二人とも」

 教会のリビング。

 ソファに座るリズが、たははーと後ろ手に頭を掻いて謝罪した。

 その対面には俺と七瀬さんが同じくソファに腰掛けている。

「ごめんなさい、上条君。反射的に叩いてしまって……」

 制服姿の七瀬さんが至極申し訳なさそうにしょんぼりしている。

「いやあ、大丈夫だよ。七瀬さんの対応が普通だから」

 まあ、親父にもぶたれたことのない俺からしてみれば、七瀬さんのビンタは強烈極まりないものだったが。

 ヒリヒリと痛む頬を擦りながら、俺は気にしてないよと笑みを浮かべた。

「まったく。リズは昔から悪ノリが過ぎるところがあるからな」
「面目あらへんわー」

 リズの横でエイリがやれやれと両手を上げる。

 いや、貴方もわりと悪ノリしていた気がするぞ。

 当人たちは特に悪びれている様子もなく、してやったぜと言った風にニコニコしている。

「お待たせしましたなのです! お風呂上りの水分補給なのですよ~。」

 キッチンからティナが、人数分のコーヒー牛乳を持ってきてくれた。

「おお! 気が利く娘やな!」

 パッとリズは瓶を受け取り、そのままギュボンと栓を抜いてコーヒー牛乳を一気に飲み干した。

「くぅー!! このために生きてるなー!」

 ビール飲んだ後のオヤジかよ。

「ありがとうティナちゃん」
「えへへ~。どういたしましてなのですよー」

 ぽすんっと、ティナが七瀬さんの隣に腰掛ける。

 蓋をきゅぽんっと開け、小さな両手で瓶を持ち、んくんくとコーヒー牛乳を飲み始めた。

「ぷはーっ。美味しいのですー!」

 リズと同じ動作をしたはずなのになんだろうこの差。

「上条君ッ上条君ッ」
「ちょ、どったの七瀬さん?」

 七瀬さんが口を手で覆ってぷるぷると震えていた。

「なんなのこの可愛い生き物はっ!?」

 どうやらティナから溢れだすプリティオーラにやられたようだ。

 ポンッと七瀬さんの肩に手を置いて、俺は頷く。

「わかるよ七瀬さん。この笑顔、守ってあげたくなるよね」
「なんの話をしてるのです?」

 ちょこんと小首を傾げて頭上に疑問符を浮かべるティナ。

 汚れのない純粋無垢な瞳が不思議そうにしている。

「あああー……かわいいぃぃ……!!」

 アンタも充分可愛すぎるわ。

 頬を緩めて小声で悶える七瀬さん。

 クラスで見てきた彼女からは想像のできない表情に、思わず胸がドキリと高鳴る。

 もしかして七瀬さんは、猫とか子供とかが大好き系の女の子なのだろうか。

「あ、ティナちゃん。鼻にコーヒー付いちゃってる」
「わわ、ほんとなのですか?」
「袖で拭こうとしちゃダメ。ほら、じっとしてて」

 ポケットからピンクのハンカチを取り出して、ティナの鼻下を拭ってあげる七瀬さん。

「はいとれた」
「ありがとうなのです! えっと……」
「伊織でいいわよ」
「イオリおねえちゃん、ありがとうなのです!」

 ずきゅーんと、七瀬さんがなにかに撃ち抜かれた。

 息を乱し、至極真面目な表情で俺に向き合って、

「上条君、お願いがあるの」
「だが断る」
「この子、私が連れて帰っていい……って、まだ何も言ってない!」
「ダメったらダメだ。ティナは大事なスタッフの一員だからな」

 言うと、七瀬さんは見るからに残念そうに肩を落とした。

 捨てられた子猫みたいな顔されてもだめなんだからねっ。

 そんな俺達のやり取りを見ていたリズが立ち上がって

「さて、もう時間も遅いし、そろそろ私らは退散するとしましょか。エイリ、久々に二人で飲み明かさん?」
「名案だな。ちょうど私も、リズと飲みたいと思っていたところだ」

 エイリも立ち上がる。

「えっと、じゃあ私も……」

 便乗するように帰り支度を始めようとする七瀬さんに、リズが片手を差し出して、

「アンタはここに泊まっていきなされ」
「「え?」」

 俺と七瀬さん。

 二人して耳を疑った。

 今、なんつったこの人?

「もう夜も遅いからな。こんな夜道を若い娘一人で帰らせるなんて危険極まりない」

 いやたしかにそうだけども。

「えっと、じゃあ私、リズさんとエイリさんと一緒に……」
「悪いなナナセ。私らが飲みにいく店は王城とは反対方向なんや」
「ええ……」

 おろおろと困った様子の七瀬さん。

 いつまでもリズの掌の上で踊らされるわけにはいかない。

 ここはひとつ、俺が助け船を出してやらねば。

「えっと、じゃあ俺が王城の近くまで送って」
「ノリの悪い言葉はいらへんでタクマくん?」 
「ごめん七瀬さん。権力には逆らえなかった」

 誰が温泉の資金出したと思うとるんや?

 目でそんなことを語ってこられたらどうすることもできなかった。

「で、でも私には防御壁を張れるスキルを持ってるので! いざとなればどうにでも……」
「最近では、闇の中から気配を消して後ろから忍び寄り、命も金品も奪い取る新手の通り魔が出現しているらしいぞ?」

 サーッと、七瀬さんの顔から血の気が引いた。

 ……。

 …………。

 七瀬さんは動かない。

 おーい、生きてますか?

 キッ!!

「うおっ?」 

 目尻に涙を浮かべた七瀬さんが睨んできて、

「こ、今回は仕方なく! 仕方なくなの! 変なことしたら、許さないんだから!」

 ……マジすか?

 信じられないことに、今宵の夜は我らが委員長と一つ屋根の下で過ごすことになったみたいです。

 嬉しいのか、申し訳ないなという気持ちなのかわからないまま、

「お、おう……」

 と首を縦に振るしかなかった。

 なんというか、唐突な展開過ぎて脳がついていけてない。

「わー! イオリおねえちゃんもお泊りですか!? とても楽しみなのですー!」

 いつものように目をキラキラさせてはしゃぐティナだけが、唯一の救いだった。


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