かつては共産党員だったが、民主化運動に参加したことが習近平政権下の怒りを買い、亡命を余儀なくされてしまった顔伯鈞。逮捕、拷問、そして脱出の過程をまとめた『「暗黒・中国」からの脱出』(文春新書)が話題となっている。
前編に続き、共産党政権下の中国の真実をえぐる、顔氏の迫真の証言をお届けする。(前編はこちらをクリック)
北京五輪後、何かがおかしくなった
――しかし、議会制民主主義を個人の知識として知っていることと、それを中国社会に導入しようと市民運動を起こすこととの間の距離は大きいですよね。あなたがそのラインを踏み越えたきっかけは何だったのですか?
顔: 私個人に限らず、中国の知識層の多くの人々は、2007~08年ごろまで現体制をやむを得ないものだと考えていたのです。国家が前に進んでいくためには、相対的に小さな社会問題の解決には目をつむらざるを得ない。まずは社会の発展だ、とね。少なくとも経済発展の面において、中国共産党の統治は成果を挙げていましたから。しかし、その発展の一定の成果の象徴となった北京オリンピックの成功を境に、「何かが変だ」という思いが強まったのです。
以前、安田さん(筆者)から日本の小説『坂の上の雲』の話を聞きましたが、まさにそういうことですよ。日露戦争なり北京オリンピックなり、新興国がある目標に向かって坂を駆け登っているときは、周囲が見えません。しかしいざ坂を登り切ってみると、そこにあったのは美しい世界ではなかった。周囲には濃いモヤがかかっているだけで、行き先がわからない世界が広がっていたのです。
――個人の体験としては、考えが変わる契機はありましたか? 中央党校の修了後、しばらく北京市通州区長の秘書として勤務してから、官界を去っておられますが。
顔: 私個人の要因としては、当時みずから見た中国社会の現状への疑問も大きなものでした。例えば、私が通州区で勤務していたころ、大稿村と小稿村というふたつの地域の住民を強制退去させて、タバコ会社の建物を作るプロジェクトがおこなわれました。
中国の土地制度上の問題から、土地の自由な売買は許されないため、取り引きの中間には政府機関が入ることになります。以下、細かい数字を忘れたので「例えば」の話になりますが、政府は住民から1ムー(15分の1ヘクタール)あたり30万元(現在のレートで約460万円)くらいで土地を買い取り、それをタバコ会社に150万元(同、約2300万円)で売りつけるような行為をおこなうわけです。利ザヤとなった120万元の一部は、利益関係者のあちこちにバラ撒かれ、そのポケットに入っていきます。
土地を差し出した住民はいい面の皮でしょう。しかし、そんな彼らの陳情を聞くのが私の職務上の立場だったわけです。社会においてこんなことが許されていいわけがない、と考えるのは自然なことではないでしょうか。
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