イラク戦争報告 英国の検証を評価する
イラク戦争に関する7年越しの調査である。2003年3月の米英軍による開戦について、英国の元内務省高官ら5人で構成する独立調査委員会は「平和的な解決手段を尽くす前に侵攻した」と断定した。当時のブレア政権だけでなく、戦争を主導した米ブッシュ政権への厳しい批判であるのは言うまでもない。
イラク戦争に関する英国の報告は今回が4回目だ。同戦争で179人の兵士を失った英国民は以前の報告に満足せず、09年から再調査が始まった。新たな報告書は260万語に達する。イラク戦争にまつわる問題を置き去りにせず、徹底検証しようとする英国の姿勢を評価したい。
報告書はイラク戦争が招く結果を軽く見ていたと指摘し、戦後イラクにおける英国の施策も不適切だったと結論づけた。フセイン政権崩壊に伴う宗派対立やイスラム過激派のテロに加え、過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭して大きな勢力となったことを指していよう。
また、ブレア首相が開戦前、一蓮托生(いちれんたくしょう)を意味する書簡をブッシュ大統領に送ったことを明らかにした上で、英米は国益が異なるので無条件の支持は必要なかったと指摘した。イラク戦争をいち早く支持した日本も耳を傾けるべき意見だろう。
日本政府は12年、「対イラク武力行使に関する我が国の対応」という短い報告書を公表し、開戦の大義名分とされた大量破壊兵器(WMD)が発見されなかったことを「厳粛に受け止める」としたが、徹底検証とはほど遠い。オランダの独立調査委員会は10年、イラク戦争は国際法違反とする報告書をまとめている。
米国では04年に中央情報局(CIA)主導の調査団が、翌年には独立調査委員会が、それぞれ情報収集の誤りを全面的に認める報告書を公表した。14年の上院委員会による報告書は、拷問や過酷な尋問など、イラク戦争を含めた「テロとの戦争」時の問題点を指摘している。
だが、ブッシュ政権にとってWMDは方便に過ぎず、「戦争ありき」が本音だったとの見方が強い。そもそもイラクのWMD保有には多くの中東専門家が懐疑的だった。1991年の湾岸戦争後、イラクのWMDは国連が廃棄を進めた。経済制裁で疲弊したイラクが、あえてWMDを持つ意義があるとも思えない。
湾岸戦争は父親のブッシュ大統領の時代であり、息子の大統領はイラクの実情を知りつつWMDを大義名分としたように見える。では、そんなにフセイン政権を倒したかったのはなぜか。それがイラク戦争最大の謎ともいえよう。この疑問を「ヤブの中」とせず、今度は米国が新たな徹底調査を始めるべきではないか。