イラク戦争への参加は正しかったのか。英国の判断を7年間検証してきた独立調査委員会が下した結論は明快だった。

 「平和的な方策を尽くす前に侵攻した」と、過ちを認めた。フセイン政権による大量破壊兵器の保有を示す確かな情報はなかったのに、武力行使という重大な決定に踏み切ったのだ。

 英国が「米国の戦争」に巻き込まれる過程も調べられた。開戦8カ月前にブレア首相はブッシュ大統領に「何があっても行動を共にする」と約束。強固な同盟国も米国をいさめるどころか追従した現実に慄然(りつぜん)とする。

 国民の求めに応じて政府が設けた独立調査委が、政治家や官僚の抵抗に屈さず、過ちを暴いた努力は評価されるべきだ。

 「学びうる教訓を特定し、将来同様の状況に置かれた際に適切に対処するため」。委員会の趣旨説明はそう明記している。

 過去の政策を冷徹に評価し、過ちを繰り返さない努力を尽くす責任は、どの国家にもある。

 残念ながら、日本政府にはその自覚がうかがえない。今回の検証について高官は「(イラクで)人道支援と後方支援のみを行った我が国を同列に論じるのは適切ではない」と語った。

 そもそも安倍首相が昨年夏の国会答弁で、イラク戦争について、フセイン政権の責任を強調し、米英などの武力行使は国連安保理決議で正当化されていたとの認識を示している。

 戦争を主導した米英も過ちを認める開戦の根拠について、安倍首相はじめ日本政府はいまだに正当化し、自ら加担した責任も認めようとしていない。

 開戦直後、当時の小泉純一郎首相は大量破壊兵器の拡散を防ぐのが戦争の目的だとして、武力行使への支持を表明した。国際社会の合意を得られなかった米英を明確に支えたのだ。

 大量破壊兵器はなかった。何を根拠に「大義なき戦争」を支持し、自衛隊を派遣したのか。戦争そのものが国際法に抵触しないか検討を尽くしたのか。

 日本国民はいまなお納得できる説明を受けていない。外務省が4年前に公表した省内対応の検証でも「米英支持」の是非については対象外とされた。

 「日米同盟ありきの判断だったのでは」との疑念がぬぐえないまま今年、安全保障法が施行された。自衛隊が米軍と一体化した軍事行動をとるシナリオはより現実味を帯びている。

 「米国の戦争に巻き込まれることはない」。安倍首相の断言に説得力をもたせたいなら、日本にとってのイラク戦争を検証することから始めるべきだ。