祝 ウルトラマン 50 乱入LIVE!怪獣大感謝祭

インタビュー 監督・プロデューサー 庵野秀明氏

「エヴァンゲリオン」シリーズの監督・庵野秀明氏は、独自のざん新な映像で数々のヒット作を生みだされていますが、その原点のひとつは、小学校1年生の時に見た『ウルトラマン』。「こんなの見たことない!」と銀色と赤の巨大ヒーローに衝撃を受け、心をグワッと鷲づかみにされたそうです。毎週、『ウルトラマン』を見られて本当に幸せだった、という庵野さんに「ウルトラマン」の魅力をうかがいました。


デザインにムダがなく、動きに色気のある宇宙人。

初めてウルトラマンを見た時のことは、今でも鮮明に覚えています。
「こりゃカッコいい!」と。
モノクロテレビだったから、よけいにリアリティがありました。色は雑誌で見て知りました。それまで怪獣は見たことがありましたが、銀色に赤の色彩の巨大宇宙人は初めて。衝撃でした。毎週、ウルトラマンと怪獣を見られるのが、本当に幸せでした。巨大ヒーローに憧れて、ウルトラマンになりたい、って思ってました。
マスクをしていて、しゃべらない、人にあらざるものなのが良かった。デザインの特徴は、あのシンプルさ。ムダのない形が、美しかった。筋肉のラインを赤色で表していて、最低限の記号だけで創られているところが素晴らしいと思う。カラータイマーも好きでした。危なくなると赤になって点滅するのがわかりやすくて、子供たちのことも考えてつくられている。巨大宇宙人というアイデアと、怪獣をリアルに倒すために必要とされてウルトラマンが生まれているというところがすごいと思います。怪獣と戦う時の動きが本気で、やられ方に色気がある。スーツアクターが殺陣師ではなく俳優の古谷敏さんだったからあの魅力的な動きが出せたんだと思う。背の低い怪獣に、猫背で立ち向かう時の、紳士な感じもいい。
「ウルトラマン」は、いろんな事情がすべてプラスになっている。役者さんも、演出も、脚本も、デザインも、音楽も、効果音も、「ウルトラマン」には、すべてが揃っていた。まさに奇跡の集合体です。
完璧。日本中の子供たちがひきこまれた作品だった。子供の頃に、あんな風にできあがってるものを見てしまったから、僕は、常に「ウルトラマン」みたいな面白い映像を創りたいと思ってやってきた。
僕の人生の根幹のひとつ。ウルトラマンを意識しないものは創れないんです。


“大人の本気”が、50年経っても面白い作品を創った。

子供にはわからない、むずかしい言葉が出てくるところもよかった。そこには子供におもねらない、“大人の本気”が詰まっていた。悪い意味での子供向けに創られていないところがよかったですね。
50才を過ぎて、今、全部を通して見ても、充分、おもしろい。大人の鑑賞に耐える作品。今になってみると、大人たちの創作の意志を感じます。こういう新しいものを創るんだ、なかったから創るしかない、という意志がないと無理だったと思う。日本の土壌と歴史、感覚から生まれてきたヒーロー。
日本じゃなければ生まれなかったメンタリティを感じます。
科特隊の描写が、家庭的なところも好きでした。
全体的な雰囲気が柔らかくて牧歌的。いろんなものを包み込める大きさがあった。そこが「ウルトラマン」の人気のひとつだと思う。“大人の本気”が創った、エポックメイキング。「ウルトラマン」は、ものすごく上質なエンターテイメント。映像の神様に守られていた作品だと思いますね。


人間の心をもった宇宙人だからできた解決策。

宇宙人でありながら人間でもある、ウルトラマンのヒーロー性がすごいと思う。 恒星間を単独で旅できる、神のごとき生命体なのに、たまたま事故でハヤタ隊員を瀕死の状態にしてしまい、そこでハヤタ隊員を助けるために地球にとどまる。そして、最終回では自分の命はいらないからハヤタを助けてほしいと言い切る心の広さ。人類のためではなく、ハヤタ隊員ひとりの命を僕の命で償うよ、という心を持っているところがすごい。普通なら放っておくけど、放っておけない人間の心を持つ宇宙人がいて、それゆえの葛藤があって、だからこそできた解決方法があった。そこがすごい。 毎回、ストーリーが違ったり、世界観が違ったりするのもよかった。バラエティがあった。 『ウルトラマン』では、にせウルトラマンに変身して街を破壊するザラブ星人の話※1が好きです。知的生命体を滅ぼすのが仕事という感じがよかった。粛々と淡々とやってるところ。仕事を効率よくするために、ウルトラマンに化けるという設定もいい。僕は人間と宇宙人の価値観の違いとかも好きな変な子供でした。 最終回の「さらばウルトラマン」で、ウルトラマンが負けたのは衝撃でしたね。 ドラマは『帰ってきたウルトラマン』もいいですね。特に印象的だったストーリーは、「悪魔と天使の間に…」※2。「怪獣使いと少年」※3とかグドンとツインテールの話※4もいい。

※1 『ウルトラマン』第18話「遊星から来た兄弟」
※2 『帰ってきたウルトラマン』第31話「悪魔と天使の間に…」
※3 『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」
※4 『帰ってきたウルトラマン』第5話「二大怪獣東京を襲撃」・第6話「決戦!怪獣対マット」


ウルトラマンが出てくる瞬間のカタルシスは、特撮ならでは。

いわゆる怪しい獣、つまり怪獣と、宇宙人と人間がいる世界も、すごいところだと思います。これは特撮ならではで、アニメではむずかしい。アニメは終始一貫してイメージの世界なので。実写の現実世界の中に非現実を入れ込むことができるのが特撮の最大の利点だと思います。ウルトラマンも怪獣も、そこにいるように思えて、とてもひかれた。
子供心に、これが未来なんだろうな、と思って見ていました。
特に印象的なのは、特撮セットの作り込み方。平場で街や山やコンビナートを作ったところに役者を立たせて撮っている。カメラが自由に動いている。それによって、俯瞰の「神の視点」とか、あおりで人間の目線に近い絵とか、ウルトラマンや怪獣を見せるためだけの特化した絵とか、いろいろ組み合わさっているところがすごいですね。
あとは臨場感。効果音も含めて、素晴らしい。スペシウム光線にも、驚きました。美しい手の十字から光線が出るなんて初めて見たので。すぐれた光学作画や撮影の技術で作られた光線がふんだんにあり、怪獣が真っ二つになる“八つ裂き光輪”も、ふつうの頭では浮かばない。特撮の企画自体もすごい。ハヤタ隊員がベーターカプセルのスイッチを押した後、変身の画が出て、巨大な宇宙人がそこに立っている。感覚が飛んでいく感じが特撮ならではだと思います。現実から一気に飛躍する跳躍感。僕の場合、怪獣だけでは物足りないんです。
ウルトラマンが出てくる瞬間のカタルシス。何かが変わるんです。神が宿る感覚っていうのかな、そういうところも日本人に受け入れられやすかったんだと思う。


すべてのスタッフ、キャストの方に感謝します。

子供の頃、『ウルトラマン』の本放送を見ていなかったら、今の自分はいない。素直にそう思います。
これは面白い!とガッと心を鷲づかみにされました。だから、今、僕が面白いものを創ろうとすると、まずウルトラマンが出てくる。フィクションの世界でも影響を受けることがあるんだな、ってことを学ばせてもらいました。あの頃のすべてのスタッフ、キャストの方に感謝します。本当に、どうもありがとうございました。

庵野秀明氏 プロフィール

1960年5月22日山口県宇部市出身。監督、プロデューサー。株式会社カラー代表取締役。 主な監督作に『トップをねらえ!』、『ふしぎの海のナディア』、『エヴァンゲリオン』シリーズなどがある。最新作は脚本・総監督を務める実写映画『シン・ゴジラ』(7月29日(金)全国東宝系公開)。

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