【ワシントン=河浪武史】英国の欧州連合(EU)離脱決定で、米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げ路線は袋小路に入り込んだ。市場の混乱でドル高とドル不足が不安視され、早期の利上げは難しくなった。
「英国問題は金融市場を混乱させる。利上げは待つのが賢明だ」
6日公表の6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、英国発の市場の混乱が「米経済にも影響する」とし、利上げを当面封印する考えをにじませた。
短期的に利上げの強い逆風となるのは、ドル高とドル不足だ。ドルは円と同じく安全通貨とされており、英ポンドやユーロから逃げ出したマネーが集まる。総合力を示す実効為替レートは、一時3カ月ぶりのドル高水準をつけた。ドル高は「米国の輸出や企業収益、製造業の雇用の下振れ要因になる」(イエレン議長)として警戒する。
ドル不足も懸念される。銀行がドルを貸し借りするロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は落ち着いているが、イタリアを中心に欧州の銀行不安がくすぶる。当局は市場のドル不足回避を最優先課題としており、早期利上げを決断できる環境にはほど遠い。
「驚くほど弱かった5月の雇用統計は、労働市場の先行きへの疑いを強めた」
議事要旨では、米雇用情勢も中期的に利上げの逆風になると認めた。5月の雇用統計は就業者数の伸びが3万8千人となり、好調の目安とされる20万人を大きく下回った。8日発表の6月分は17万人程度の伸びが予測されているが、英離脱で米企業が雇用増に慎重になる可能性もある。停滞が続けば利上げは難しい。
「設備投資の低迷はより広範な景気減速の予兆かもしれない」
議事要旨では、米経済の長期停滞リスクにも言及した。米設備投資は1~3月期まで2四半期連続で前期比マイナス。企業の投資抑制は、経済の巡航速度を示す潜在成長率を鈍らせる。
潜在成長率が下がると少しの利上げでも経済への衝撃は大きくなる。FRBは前回の引き締め局面(2004~06年)で17会合連続で利上げし、2年間で政策金利を4%強も上げた。今回は昨年12月にわずか0.25%利上げした後に、追加引き締めのメドがたたない。
先物市場から算出するFRBの政策金利予測によると次の利上げは「来年夏まで持ち越し」と大幅な利上げ先送りが大勢だ。イエレン氏がめざす「政策金利の正常化」は道が見えなくなった。