テロが世界中に拡散している。「われわれは第三次世界大戦に直面している」(ヨルダンのジュデ外相)という言葉も、大げさではない。テロとの戦いに勝ち抜くには、武力だけでは足りない。
過激派組織「イスラム国」(IS)が、イラクとシリアにまたがる「国家樹立」を一方的に宣言したのは、ほぼ二年前だ。
ひところは両国を席巻しかねないほど猛威を振るったが、最近は米国主導の有志国連合やロシアの軍事介入の前に、劣勢に立たされている。
この六月にはイラク中部の要衝ファルージャをイラク治安部隊に明け渡した。米当局によると、ISはイラクで支配地域の47%を失った。
一方で、ISが関与したり、ISに感化された者の犯行とみられるテロが激化している。
ラマダン(断食月)に合わせて「聖戦」を呼び掛けたISに呼応するかのように、米フロリダ州のナイトクラブでの銃乱射事件▽トルコ・イスタンブールの空港爆破テロ▽邦人七人が犠牲になったバングラデシュ・ダッカのレストラン襲撃▽バグダッド繁華街での爆弾テロ−などが起きた。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、イラク、シリア以外で起きたIS絡みのテロの犠牲者は千二百人以上に及ぶ。
最近のテロ攻勢は、「国家」建設に行き詰まったISが、テロの域外拡散に軸足を移した戦略転換という見方が多い。
軍事力や警察力によるテロ退治は対症療法だ。過激主義を根絶するには、その温床となる貧困、失業、腐敗、圧政といった課題を克服することが不可欠だ。
イスタンブールの空港爆破テロの実行犯は、ロシア南部と中央アジアの旧ソ連圏出身者だった。プーチン・ロシア大統領は昨年十月、バルト三国を除く旧ソ連圏から五千〜七千人がISに合流しているとの見方を示した。
この地域は青年を過激主義に走らせる社会矛盾が際立ち、IS戦闘員の主要供給源になっている。
社会変革を促す取り組みは、地道で息の長い作業だ。ダッカのテロで亡くなった日本人はこうした活動に携わっていた。
ほかにも多くの日本人が途上国の民生向上のために汗を流している。日本政府は国際協力の担い手を支えなくてはならない。
テロに屈することなく国際貢献を続けることは、平和主義を掲げるわが国の使命である。
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