前進ではあるのだろう。だが、この合意だけで一件落着としてはならない。

 日米地位協定で保護されている米軍属の範囲を限定することで、日米両政府が合意した。

 米軍属の男が沖縄県の女性を殺害したなどとして起訴された事件への対応で、米軍属を「米予算により雇用されている者」など4分類に限定するという。

 これにより、基地内で働く民間企業従業員だった今回の被告のような立場は軍属でなくなる。一方で多数の米兵や軍属に、日本の法律の適用を除外する特権的な地位はそのままだ。

 米軍人・軍属に対する教育・研修の強化も盛られた。

 当然の措置とも言えるが、女性殺害事件後の綱紀粛正にもかかわらず、沖縄では米軍関係者による飲酒事故などがやまない現実がある。実効性のある教育・研修を徹底してほしい。

 そもそも今回の合意は、地位協定の抜本的な見直しを求め続けてきた沖縄の声に、正面からこたえるものではない。

 米軍関係者による事件や事故が後を絶たない背景には、地位協定が助長してきた特権意識があるのではないか――。沖縄県などが日米両政府に地位協定の改定を求めてきたのは、そんな危機意識からだ。

 事件後、沖縄では県議会や市町村議会が相次いで協定改定を要求。沖縄だけではない。米軍施設のある14都道県の知事でつくる渉外知事会も、日米両政府に同様の緊急要請をした。

 日米両政府は、引き続き、協定改定を含むさらなる見直しに取り組む必要がある。

 一つは裁判権の問題だ。

 公務外の事件・事故は日本側に裁判の優先権がある。ところが、容疑者の身柄が米側にあれば起訴まで米側が拘束する。

 1995年の少女暴行事件などを機に協定が「運用改善」され、米軍は日本側から被疑者の起訴前の身柄引き渡し要請があれば、「好意的考慮を払う」ことにはなった。だが、あくまで米側の裁量次第だ。

 これを「日本から要請があれば引き渡しに応じる」と協定に明記し、強制力を持たせれば、犯罪抑止効果は高まるはずだ。

 また、米軍基地には国内法の適用が数多く除外されている。例えば、米軍基地内では土壌を汚染しても原状回復義務を免除される。環境保全に関する国内法を基地内にも適用し、汚染者負担原則を徹底させることも書き込むべきだ。

 沖縄県民の、そして日本国民の声を誠実に米政府に伝える責任が、日本政府にはある。