昨年末訪れたベルリンで、ドイツ国外からの観光客が増えていたのが印象に残った。
二〇〇四年の欧州連合(EU)拡大以降、首都だけでなく、各国の地方都市を結ぶ格安航空便が急増した。ワルシャワを経由しなければならなかったアウシュビッツ収容所跡へも、欧州の各都市から簡単に足を運べるようになった。国を超えて歴史や文化への理解が進み、国の違いによる偏見や差別は確実に減った。
遠方の話とはいえ、落胆が激しかったのは、EUこそ、国際協調、多文化共存の範だと考えているからだ。
加盟国の首脳や閣僚らは、頻繁に会議を開く。よく顔を合わせるから、意思疎通も容易になる。
首脳同士の会談が長く途絶え、やっと顔を合わせてもぎこちなくなりがちな、どこかの地域とは対照的だ。
英国民には窮屈だったようだが、均一な規則のもとでは、共通の価値観も育つ。
英国民の後悔を見れば、他国民も同じ轍(てつ)を踏もうとは思わないだろう。EUや独仏が英国に、早く離脱交渉を始めるよう迫るのは、残った二十七国でやっていこうという覚悟の表れだろう。加盟国の拡大も続く。理想を追い求める奮闘は終わらない。 (熊倉逸男)
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