覚えることが多い仕事。

老人ホームに就職したことがあるのだが、入社して二日ぐらいで、もう無理だと思ってしまった。

覚えることが山のようにあるのだ。

四十人以上いる利用者さんの身体・精神状況をすべて把握しなければならず、それプラス、書類の記入や日々の雑務がある。それまで色んな仕事を経験してきたが、覚えるべきことの多さは、それまでのどの仕事よりも多かった。

「ゆっくり覚えていけばいいから」

親切な主任はそう言ってくれていたのだが、とても「ゆっくり覚えていく」ことなどできなかった。主任はゆったり構えていてくれていても、他の職員はそんなに穏やかに待ってはくれないのだ。「いい加減、覚えて下さいよ!」と怒りながら教える二十代の若者もいたりして、とてもマイペースなど保っていられないのだ。

覚えるべきことが山のようにあると、私は最初から精神的に敗北してしまう。「覚えることが沢山ある。頑張ろう」とはならず、「覚えることが沢山ある。俺には無理だ」となってしまうのだ。

私は自分の能力をまったく信用していない。これまでの職業で成功した経験がないため、ちょっとでも困難にぶつかると、すぐに逃げることを考えてしまう。「覚えることが山のようにある仕事」に出くわしたとき、私は「仕事を覚えられずみんなの前で怒られる自分」を早くも想像してしまった。そして「みんなの前で怒られるぐらいなら、辞めてしまおう」と考えてしまった。怒られることをあらかじめ想定してしまい、そうなる前に逃亡しようとしたのだ。

みんなができることが、自分にはできない。そんな経験をあまりにも多くしてきたために、私は職業上の自信を身につけられなかった。特に知的能力に関しては、まったく自信がない。段ボール箱を早く組み立てられるとか、紙をホッチキスで素早く留めるとか、どうでもいい単純作業ならそれなりにこなせるが、沢山のことを覚えるということは、とても私にはできない。そういう能力が完全に欠如しているのだ。

仕事をするとしたら、覚えることが少ない仕事がいい。そのような仕事がしたいというより、そのような仕事しか、私にはできないのだ。

私が社長なら、二条淳也は絶対に採用したくないところだ。

 

6 Responses to “覚えることが多い仕事。”

  1. 白柴 Says:

    こんばんは以前数回書き込みをさせていただきました、白柴と申します
    改めてよろしくお願いします

    最後の一文『私が社長なら、二条淳也は絶対に採用したくないところだ。』
    私も学生時代から二条さんと似た考えがあり現在もそれは払拭できずにいます
    私の場合自分自身を好きになれない、肯定できない所からきているようで日々悶々と過ごしております
    老人ホームの件ですが覚えることが多いのであれば研修に時間を割くべきなのでしょうがそれが無かったのだとすれば余り良い職場ではなかった、ということなのでしょう

  2. りゅま Says:

    バイトでも社員と同じように無限に覚える事がある仕事ってあります。それで努力して覚えたからって社員のように認められる事はないでしょうね。

  3. 二条淳也 Says:

    白柴さん

    こんにちは。お久しぶりです。お元気でしたか。

    私も、自分自身を好きになれないし、肯定できないでいます。これをどうやって克服すればいいのか、分からないでいます。

    要領の悪い人にじっくり付き合ってくれる職場があればいいのですが……難しいでしょうねえ。。。

  4. 二条淳也 Says:

    りゅまさん

    バイトも正社員と同じことを求められますよね。安い時給で……。

    難しいことを覚えても、時給はまったく上がらないという……。

  5. みやびん Says:

    はじめまして。
    けっこー面白いブログですねw
    自分も、今は会社という牢屋に入ってますけど、ちょっと前は引きこもり自由系でした(仕事はしてたけど)
    ブログ読んでて、考え方とか似てるとこ多かったんで共感できます。
    けど、前より今は視野も広くなり、考え方も変わったり深くなったり、で
    思い返してみると、以前の自分のショボかった事ショボかった事…w
    今もまだ全然しょぼいですが、これからもっと良くなって行こうと、努力しようと思ってます。
    前は、努力という言葉自体、嫌いだったんですよねw
    でもそれじゃダメなんだって、今更気付きました。

    この老人ホームの話にしても、その時二条さんがどのように働いていたか細部までわかりませんが、メモとか取られてましたか?
    俺はなんでも結構器用にこなす方ですが、記憶力は人より悪いと思ってます。
    なので気持ちはわかるんだけど、記憶力悪い、だから無理とか
    出来ないとかではなく、記憶力悪いなら、悪いなりにやり方を考える、事が重要かと。
    人間は動物より頭がいいので、道具を使うという風に文明が発達しました。
    つまり自分の身体能力を補うために、道具を使うのです。
    記憶力が悪いならば、やはり道具を使ってメモなりなんなり取って努力する事が大切だと思います。
    確かに、冷たい世間の人間は、自分と同じように出来るのが普通と思い込んでいるので、出来ない人間を怒ったり責めたりする人もいます。
    人によって足が速かったり、頭が良かったり、能力も人それぞれなので、記憶力が悪いのはどーしようもないですよね、けど仕事である以上、そんなにちんたらやってられない、というのも事実です。
    ならば、出来ないと開き直って諦めるのではなく、出来る事はすべてやって努力する、これが大事。
    うちの会社にも、中途採用した人に覚えが悪い人がたくさんいました。
    けど、そういう人に限って、メモとか取らないんですよねww
    きっと、メモ取ったり時間外で復習したり、努力してる人間にはそんなに周りも冷たくないんじゃないかな、って思ったりもするけど…
    けっこークズな人間多いから、わかりませんねww
    それでもダメなら、それこそ辞めるしかないですねw
    会社や職種なんて山ほどあるんだから、自分に合うのを探すのがいいでしょう。

    挨拶の話では、仲間を増やして相手に勝つ、というやり方は自分の美学に反するというのがありましたが
    俺もそういう考え方なんですよね〜
    だからケッコー不利な状況多々ありますねw
    でも美学というからには、そこで折れて辞めて欲しくなかったなぁ。
    美学って貫き通すから美学であって、
    折れてしまったら、それは美学ではなく、言い訳とか逃げになってしまいますからね。

  6. 二条淳也 Says:

    みやびんさん

    はじめまして、こんにちは。

    メモはもちろんとりました。メモをとってもそれを覚えきる前に新たに覚えることができるという状況でした。

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