「花火大会に行こうよ」

「ねえ、今度一緒に花火大会に行こうよ」

職場のE子さんという女性からそう誘われたのは、二十代後半のときだった。E子さんは私より二つ年下で、ショートカットの、とても珍しい苗字をした人だった。

「浴衣で行きたい」というのだが、私は浴衣を持っていない。なので、花火大会の前に、一緒に浴衣を買いに行った。八千円の浴衣は、E子さんが買ってくれた。

私には、E子さんの行動が不思議だった。当時、職場で私は孤立していた。友達と呼べるような人は一人もおらず、昼食も休憩も一人だった。あらゆる行動を、いつも一人でおこなっていた。仕事ができなくて、毎日のように怒られていた。そんな私をなぜ誘うのか。

「なんで俺を誘ったの?」

そう訊くと、E子さんはこう答えた。

「いつも一人でいて、可哀想だったから」

ああ、そういうことかと思った。それまでにも、いつも一人でいる私にアプローチをかけてくる女性はいたのだが、女性というのは、孤立している男性が気になるらしい。

「二条くん、いつも一人でいるでしょう。なんかいじめられてるみたいに見えちゃって……」

そんなことをE子さんは言っていた。憐憫と愛情が同じなのか分からないが、それは興味深い言葉だった。

たまに、「優れたところがないと彼女ができない」と言っている人がいるが、そうではないと思う。優れたところなどなに一つなく、孤立していたとしても、異性の感心を引くことはある。いや、孤立しているからこそ感心を引くことがあるのだ。

「孤立」という言葉からは、周囲から疎外されている情けない響きが感じられる。実際、多くの女性は孤立している男性を軽視する。だが、ごく少数の女性は、孤立している男性に興味を持つらしい。以前、このブログで「多数の人から嫌われる人は、少数の人から好かれる」というようなことを書いた記憶があるが、それはこのような実体験に基づくものなのだ。

周囲の女性と話していても、

「この人と別れたら、この人は一人ぼっちになっちゃう。だから別れられない」

と話す女性がけっこういる。女性は男性の優れたところばかりを好むのではなく、時として、情けない部分に惹かれることがある。

もしかしたら、孤立というのは、ある場面では有利にはたらくのかもしれない。そんなふうにも思う。

8 Responses to “「花火大会に行こうよ」”

  1. りゅま Says:

    自分もいつも孤立しますが女性に誘われた事は皆無です。容姿の良し悪しも関係あると思います。

  2. kou Says:

    二条さん。こんにちは、お久しぶりです。

    周囲から孤立している人が、必ずしも異性に見向きもされないわけではないというのは、その通りだと思います。「あなたが孤立しているから」という理由で、好意的な声をかけられることもあるでしょう(蓼食う虫も好き好き、と言いますし)。しかし、孤立している人ほどまた、異性から(同性からも)「絶対的に」見向きもされない確率は高くなるはずです。一見ネガティヴな特徴に思える孤立が、いかにして「ある場面では有利にはたらく」魅力というポジティヴな条件へ変わるのか。一口に「孤立」といっても様々な状態・状況の差異があって、その孤立を「活かせる」ような条件にない者もいるのかもしれません。いわば、孤立という特徴そのものが他の諸特徴から孤立して存在しており、そのような者は、ある意味で本当に(孤立・孤独の問題において)絶望的な状況に置かれているのではないか、と思いました。

    あと(これは余計なことかもしれません)、E子さん自身の人柄やその会話の流れがわからないので何とも言えませんが、私はE子さんの発言にかなり違和感を持ってしまいます。はっきり言えば、それを聞いて不愉快に感じるかもしれません。私のプライドが高すぎる(心が狭すぎる)ためでしょう。おそらくE子さん(のような人)と一緒にいても孤独が埋まることはないんじゃないかな、と思ったり(ただ一緒にいれば孤立が解消するというわけではありますまい)。

  3. あい Says:

    私も似たような経験があります。
    職場でいつも一人で行動したので、年上の男性から誘いをうけたことがあります。
    食事のとき、どうして誘ったんですかってきいたら、「一人でいたから、逆に集団の中にいたら、声
    かけなかった」と言っていました。
    やっぱり一人でいるひとって、異性で優しい相手からみると気になる人になるみたいですね。

  4. 二条淳也 Says:

    りゅまさん

    容姿はあまり関係がないというのが私の意見なのですが……どうでしょうねえ。

  5. 二条淳也 Says:

    kouさん

    お久しぶりです、こんにちは。

    ああ、なるほど、孤立しているからこそ見向きもされないこともあるでしょうね。私の経験では、十人のうち五人からは嫌われ、四人からはなんとも思われず、そして一人からは好かれるという感じです。

    まさしくkouさんの言われる通り、様々な状態・状況が関与するのですが。

    E子さんとはけっこう楽しい思い出ができたので、私としては満足なのですが……そうですね、不愉快に思う人もいるかもしれませんね。

    百人いれば百通りの経験をするもんですね。

  6. 二条淳也 Says:

    あいさん

    あいさんも似たような経験をお持ちですか。

    「集団のなかにいる女性には声をかけづらい」という気持ちは、私にも分かります。

    私から見ても、いつも一人でいる女性はちょっと気になりますね。

  7. りゅま Says:

    学生時代にクラスの女子から容姿の事で何度か言われて以来、一切こちらから女性に話しかける事はないので誘われる事はまずないです。人から言われた事は一生の傷になるんで。

  8. 二条淳也 Says:

    りゅまさん

    容姿のことを悪く言うって最低ですよね。

    心の傷になりますよね。

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