舌打ち。

二年ほど清掃のバイトを続けたとき、新人の指導を任されたことが何度かあった。

「この人、今日から入ったから。二条くん、仕事教えてやってよ」

正社員の人からそんなふうに言われて実際に教えてみるのだが、これがことごとくうまくいかない。教え方が分からないのだ。

自動販売機の横にゴミ箱があって、そこからペットボトルや缶を分別しながら回収するのだけど、どのように説明すればいいのか分からない。

(この作業は口で説明しても分からないから、俺が彼の目の前で実際にやってみよう。俺の動きを見ていれば、一連の流れが分かる筈だ)

そんなふうに思って黙って一人で作業していたら、新人さんは不満そうに、

「チッ」

と舌打ちを漏らした。歯に何かが詰まったというのではなく、明らかに不満から出た舌打ちだった。

それはそうだろう。作業内容の説明もせず、いきなり先輩が黙って一人で作業をし始めるのだ。どんな新人だって不満を感じるだろう。

正直、バイト初日の新人をあてがわれても、私にはどうしたらいいのか分からない。「仕事の教え方」というものが分からないのだ。自分が新人だったときにどうやって教わっただろうと思い返してみるのだが、叱られることに怯えていたことばかりが思い返されて、肝心の先輩の指導方法などまったく覚えていない。

誰かが見ている前で仕事をするというのも抵抗がある。人がじっと見ていると字が書きにくいという経験はよくあると思うが、それと同じで、誰かが見ていると、単純な作業でも妙に緊張してしまう。「新人の前で失敗したら恥ずかしいな」なんてことばかり考えて、新人に分かりやすく教えることなど、もう念頭になくなってしまう。

それにしても、バイト初日の新人から舌打ちをされる先輩というのも珍しい。先輩に舌打ちする新人もかなりのものだが、よっぽど私の教え方が悪かったのだろう。もしかしたら、私の不器用さがあまりにもひどく、新人に嫌悪感を抱かせるものだったのかもしれない。「この先輩、仕事できなさそうだな」というのは、案外新人に伝わるものだからだ。

仕事の教え方が分からない。教えているつもりでも、新人をいらつかせてしまう。

そんな人がいたら、私と友達になりましょう。

……といっても、その「友達」すらいらつかせるレベルなのだが。

6 Responses to “舌打ち。”

  1. みみ Says:

    こんばんは、お気持ちよく分かります。人に教えるのって難しいですよね。

    私は先輩という立場になりたくないので、長くても一年半しか仕事が続かず転々としてます。
    若いうちはいいけどそろそろ厳しくなってきました。
    いつまでも半人前でいたいのです笑

  2. 非24時間睡眠覚醒症候群 Says:

    ここで説明するように説明したらいいんじゃないですか。
    二条さんは、説明がうまいと思いますよ。

  3. 二条淳也 Says:

    みみさん

    こんばんは。教えるより教わるほうがラクですよね(笑)。

    いつまでも半人前でいたいというお気持ちは、すごくよく分かります。

  4. 二条淳也 Says:

    非24時間睡眠覚醒症候群さん

    なんか、相手が目の前にいるとうまく言えなくなっちゃうんですよね(笑)。

    好意的に評価して頂いて、嬉しいです。

  5. kyotosometime Says:

    こんばんは。

    演じる説明、言う説明、書く説明、それぞれ微妙に違うんでしょうね。

    二条さんは、たっぷりと時間を取って、書く説明の係を担当すれば、優秀なコーチになれるんだと思います。

  6. 二条淳也 Says:

    kyotosometimeさん

    こんばんは。

    そうですね、いろいろな説明がありますね。

    書く説明というのはちょっと難しそうだけど、やってみたいですね。

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