別の人に言いたい。

中学生の時、あるクラスメイトから、

「目障りだからこっちに来るな」

と言われた。それを言われてからしばらく経ったある日、それとまったく同じセリフを、別の友人に言ったことがある。ほとんど脈絡なしにそんなことを言われた彼は、不思議そうな、なおかつ悲しそうな顔をしていた。

誰かから傷つくことを言われると、それとまったく同じセリフを別の人に言いたくなる。そうすることによって、言われた時の屈辱を晴らそうと考えてしまう。これは、かなり多くの人が持っている思考方法なのではないか。

いじめをする人の多くは、いじめを受けた経験がある人だという。彼らは自分が受けたいじめとまったく同じことを他者にすることによって、屈辱を晴らそうとしているのではないか。運動部で上級生から理不尽なシゴキを受けた生徒は、下級生にもまったく同じことをしようとする。「自分もそうやって育てられたから」という理屈になっていない理屈で、自分が受けた仕打ちを下級生にしようとする。これもそれと同じなのではないか。

ひどいことを言われて傷つくと、なかなかその傷が癒えることはない。ただ、別の人にまったく同じセリフを言うと、気のせいかもしれないが、かなりうっぷんが晴れるのだ。極めて次元の低い自己尊厳回復方法だが、そのぐらいしか思いつかない人が、私も含めて多いのだろう。

だとしたら、私が社会に出てから言われてきた言葉も、「うっぷんを晴らすための言葉」として、気にしなければいいのかもしれない。今までさんざんイヤなことを言われてきたけれど、それも、「この人は自分が言われて傷ついた言葉を俺に言ってるんだな」ぐらいに考えればいいのかもしれない。

……だが、どうしてもその境地に立てない。どんな理由があれ、やはり言われたら傷つく言葉というのが人にはある。他人に言うことによってでしか解決できないというのは、発想の貧困に過ぎない。その意味では、「目障りだ」と級友に言ってしまった私も同罪である。私もまた、許されるべきではないのだ。人格が成熟した人ならば、他人に同じことを言わなくても、自分のなかで処理できる筈なのだ。

ある職場で、

「お前は本当に使えない奴だな!」

と大声で言われたことがある。あの時のダメージから、まだ回復しきれていない。今でも、「お前は使えない」という言葉を、別の誰かに言いたくてたまらないことがある。

でも、それを言ってしまったら、あの人と同じレベルに落ちることになる。

なんとかこらえなければ。

8 Responses to “別の人に言いたい。”

  1. 匿名S Says:

    こらえようとする二条さんはすごいと思います。
    能力と内面は比例しませんね。
    働き蜂になるのが得意より、心に重きを置く方が本当の人間の賢さだと思います。
    葛藤もしない人に落ちぶれたくないです。

  2. kyotosometime Says:

    その気持50%分かります。

    ただ、私は理不尽なことをされても、それを他人にあまり転嫁しないのは、
    精神が崇高だからじゃなくて、単に強度の面倒くさがり屋だからです。

    恨みを晴らす行為自体が、もう、何だかメンドウクサイ。

    いいのか悪いのか、これも半々なんでしょうけど。。

  3. あい Says:

    お久しぶりです。。
    私も似たようなことを言われたことありますよ。
    それが積もって精神科へ。でも先月その精神科でいいこともあり、先生がOKしてくれ、前に進む事が出来ました。私は精神科でいい方向にいきました。詳細はいえませんが、想像してくださいね。
    たぶん話したら多くの人に石ころ投げられるでしょう。。(笑)だから言えません・・。
    言われても精神科に行けず苦しんでいる人も沢山いますしね。。
    言葉って人を変えますよね。

  4. 夜桜 Says:

    こんにちわ。

    私は同じことを別の人に言っても、鬱憤は晴れないです。晴れるとしたら、やはり本人に言い返せた時だけですね(まあ大抵の場合それが出来ないのですが…)。
    別の人に同じ言葉を言いたいと思わないのは、私の人格が成熟しているからではなく、単に、そこまで言うほどの相手の気持ちも考えも理解できないからです。明らかに自分が何か相手に不利益なことや神経を逆撫でするようなことをしでかし、何を言われても仕方がないという状況ならともかく、そうでない状況でなぜそこまで言えるのかがわからないので、理解できないことは自分には出来ない、というだけの理由です。

    それに傷つけられた記憶っていつまでも残りますよね。
    私も以前職場で、使えない、とんだ見掛け倒し、とか色々ひどいことを言われたりやられたりしてきました。10年以上経った今でも、その時言われた言葉や、口調、相手の小馬鹿にしたような表情まで覚えています。
    もう何の交流も関係も無い赤の他人の記憶に、嫌な記憶の中心としてこうやって残ってしまうのも、嫌じゃありませんか?
    私はいつも、出来る限り他人に覚えていてもらいたくないと思っていますので…。

  5. 二条淳也 Says:

    匿名Sさん

    こらえないと、さらにダメな人間になってしまうような気がして……。

    悪いことは連鎖させないで、自分で止めたいですね。

  6. 二条淳也 Says:

    kyotosometimeさん

    恨みを晴らす行為を放棄できるなんて、すごいじゃないですか。私など未熟なので、うっぷんを晴らしたくなってしまいます。

    別のことに昇華できればいいのですが。。。

  7. 二条淳也 Says:

    あいさん

    お久しぶりです。こんにちは。

    精神科でいい方向に進むなんて……良かったですね。いい人に恵まれるかどうかも、運のうちなのでしょうね。

  8. 二条淳也 Says:

    夜桜さん

    こんにちは。

    たしかに、本人に言い返せれば、それが一番ですね。

    それにしても「とんだ見かけ倒し」というのもこたえるセリフですね。でも、そんな言葉に支配されないで生きていけるなんて、ちょっと羨ましいですね。

    他人に覚えてもらいたくないという言葉は、すごく理解できます。

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