英会話教室。

一時期、英会話教室に通っていたことがあった。ひきこもりが深刻化していた時期で、三百六十五日何もすることがないという状態がつらかったので、週に一度でいいから「行くべき場所」を作りたかったのだ。自宅から四十分ほどの場所に格安の英会話教室があることを知り、入会した。生徒は十人ぐらいで、きめ細やかなレッスンが受けられるというのがその教室のうたい文句だった。

早速、授業を受けてみたが、全然ついていけない。学校を卒業してからだいぶ経つし、英語は苦手なほうだったから、講師が何を言っているのか分からないのだ。

救いだったのは、五十代の男性講師Gさんが優しかったことだ。私が解答できず困っていても、

「いいんですよ。分からなくていいんです。一歩一歩、ゆっくり進んでいけばいいんです」

と諭すように言ってくれるような人だった。

授業についていけない私は、自宅で猛勉強することにした。ひきこもりだから、時間はたっぷりある。単語帳や熟語帳、構文の参考書などを買ってきて、片っ端から暗記した。

丸暗記の成果だろうか、授業にはついていけるようになり、Gさんの問いにも答えられるようになった。

その頃から、Gさんの態度が変わってきた。私に対して、やたらと攻撃的になったのだ。Gさんが私を指す。それなりに難しい問題でも、私には解答が分かる。それがGさんには気に入らないようだった。

「この問題が解けるようなら、もうここには来ないでいいですっ!」

と怒りながら言い放ったこともあった。私は月謝を払ったのだし、契約期間も残っているのだから、ここに来る権利はあるはずなのだが。

「分からないことがあったら、なんでも私に訊いていいんですよ」

穏やかにそう言ったGさんは一気に変わり、

「辞書でも参考書でも、自分で引きなさい!」

と怒るようになった。

Gさんは、語学力がついた生徒を嫌うような人だった。私がGさんでも知らないような英語表現を使うと、

「そんな表現は一般的ではありません!」

と怒鳴るような人だった。やや難解な表現を使うことが、Gさんの目には「知識をひけらかしてる」ように映ったのかもしれない。だが、語学力がついてくると敵意を剝き出しにするというGさんの態度は、「講師」のそれではない。

無知な生徒を極端に好み、知識がついてきた生徒を極端に嫌う。そういう講師はかなり多い。Gさん以外にもそんな人をたくさん目にしてきた。

学校でも民間の教室でも、人間の醜さばかりを学んできたような気がする。

8 Responses to “英会話教室。”

  1. N Says:

    はじめまして。
    何度かブログを拝見しています。
    記事を見る度に、記憶力の良い方なのだなと感心しています。
    この場合のGさんとは自分のテリトリー以上のモノを感じてしまう人に嫌悪感を示す様な自尊心の乏しい人なのでしょうか。
    または優越感に浸っている事に満足するタイプだったのでしょうか。
    地位が人を作っていて、それがあたかも正しい様に見えるものの、その実態は何でもない様なケースはよく目にします。

  2. 馬の助 Says:

    あまりレベルの幅がない所に行ってしまったようですね。でも、その先生の態度は酷すぎます。小手先の教育技術は置いといて、上級者でも初心者でも、リスペクトした態度で教える事が出来て、一人前の先生だと思うのだけど。英会話教室の選び方って難しいですね。

  3. 匿名S Says:

    もし自分が逆の立場だったらと思うと、微妙です。
    私だったら、あからさまに表現しなくても心理的に微妙に感じます・・
    生徒が自分に追いついてそのうち抜かされるのでは・・なんて恐怖心が。

    本来ならば教え子が成長するのは喜ぶべきなんでしょうけど。
    やはりその教室は安い商売であるという限界があると思います。
    レベルって嫌な言葉にもなるけど、線引きはありますよね。

    常に自分より上の方や場を選ぶのも意義があるんだと感じたお話でした。
    自分がそこで成長したい場合に限りますが・・

  4. kyotosometime Says:

    「どうせ、引きこもっているんなら、今のうちに英語でも勉強しておこうぜ」的な発想、嫌いじゃないですね。私も、縁とかタイミングが有れば、その選択肢は十分ありでした。

    因みに、引きこもり中に自宅で英語を徹底マスターして、TOEICの満点を20回以上取ったことから、英語講師として社会復帰された方も居ましたね。。(”イングリッシュモンスター”で検索すれば直ぐヒットしますが)

    さてさて、今回の二条人生劇場の登場人物Gさんですが、居るんですね、こう言う人が。。。こんなにも大勢の人間が居るんだから、自分の思考回路とは一致しない人間が、どうしても出てきてしまうと言う実例勉強になります。

    「素直に生きていれば、嫌な出来事の方から寄ってこない」的発想は、たまたま上手くいっている人の結果論の域を出ないと私は思っているので、今回の実例には、「そういう事って充分有り得るよね」ってコメントつけたくなりました。

    そして、毎回、思うことですが、二条さんはこの種の体験率がやはり異様に高いですね。。
    (私は、アンチスピリチュアル属性なんで、生き方を変えろとか、心構えを変えれば、とかは全然思いません。)そしたら、その特異性を活かした、何らかの物書きになる道が無いものかな、、、と思い巡らせてしまいます。。特異体験をしてしまうのも(嫌だとは思いますが)一種の才能なので。。。

    後、最後余談。私は、各種学生割引(携帯電話、ソフトの購入)を受けるためだけの目的で、放送大学に昨年入学しました。勉強は何も手を付けて来なかったんですが、ちょっと勉強したい科目が出て来ました。居場所の確保という点でも放送大学の学習センターは悪くないので、その内に顔を出してみようと思っています。

    余談長くなりました。これにて、失礼。

  5. 二条淳也 Says:

    Nさん

    はじめまして、こんにちは。

    いつも読んで頂き、ありがとうございます。

    なるほど、Gさんは優越感に浸って満足するタイプだったかもしれません。「地位が人を作る」というのは、きれいな表現ですね。

  6. 二条淳也 Says:

    馬の助さん

    ホント、英会話教室は選ぶのが難しいですね。英語力はあっても、人格的に教師に向いていない人もいますから……。

  7. 二条淳也 Says:

    匿名Sさん

    なるほど、生徒が自分に追いついてくるのではないかと恐怖心を感じるのですか。なんとなく分かりますね。

    教師という人種はレベルの低い人間が多いように思えます。

  8. 二条淳也 Says:

    kyotosometimeさん

    イングリッシュモンスター、検索してみました。興味深い人物ですね。

    教師って、すごくスケールの小さい人が多いみたいです。自尊心が高いだけで、人格的な成熟を備えていない人物が多いようです。「素直に生きていれば……」も、悲しく聞こえますね。

    それにしても、私はこんな体験が非常に多いです。でも、お金を払ってでもこんな体験を読みたい人って、いるのかな(笑)。

    放送大学、頑張って下さいネ。

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