見られていると。

ある工場で働いていた時、工場長が新人さんを私のところに連れてきたことがあった。「今日から入ったSさんだ」と紹介された。Sさんは、

「先輩! よろしくお願いします!」

と妙に礼儀正しく私に挨拶した。Sさんは今日入ったばかりなので、右も左も分からない。そこで工場長が私のところに連れてきたのだ。

「二条くんはベテランだから、二条くんの仕事ぶりを見てごらん」

工場長は作業している私を指さしながら、そう言った。たしかに私はその工場で一年ほど働いていたが、ベテランというほどではない。でも、なんとなく「先生扱い」されたようで嬉しくて、オドオドしているSさんに、「この部品はこう組み立てるんですよ」などと言いながら実際に組み立ててみせた。

ところが、こういうときに限って、なかなかうまくいかない。普段はすんなり入る部品がなかなか入らない。パーツもやたらと地面に落とす。検査器具にかけても、やたらと「エラー」が出る。そばで見ている工場長もイライラしてきたようだし、新人のSさんも「この人、大丈夫か?」と不審そうだ……。

人から見られていると、とにかく全てがうまくいかない。こんな経験を、私は今まで腐るほどしてきた。老人ホームで働いていたときに、新人さんに血圧の計りかたを教えようとしてエラー表示が連発したこともあったし、ゴミ回収の仕事を新人さんと組んでいたときは、ゴミの回収忘れをお客さんに指摘された。いつもはうまくいくのに、どういうわけか、人(特に新人)が見ていると、必ず失敗するのだ。

ずっと非正規で働いてきたので、私は人の上に立ったことがない。だから、ごくたまに指導的な役割を与えられると、すごく緊張してしまう。「いいところを見せたい」という欲求が高いせいだろうか。新人さんが隣でじっと見ていると、すぐに手のひらに汗をかいてしまう。そして「新人の前で失敗はできない」と思いながらやると、必ず失敗するのだ。

新人さんの前でうまくいかないと、かなり落ち込む。先輩の前で失敗しても「すみません」で済むが、新人さんの前で失敗すると先輩としての威信が落ちたように感じられて、すごく恥ずかしくなる。人が見ていると、字がうまく書けないこともある。とにかく、視線を浴びながら仕事をすると確実に失敗するのだ。

いいところを見せようと思っていると、必ず失敗する。新人さんの前で失敗すると、とても恥ずかしい。私が自宅でできる仕事を開拓しようとしているのは、こういう体験をもうしたくないという実情もある。

新人さんに上手に仕事を教えられる人は、すごいなあと思う。

 

4 Responses to “見られていると。”

  1. 非24時間睡眠覚醒症候群 Says:

    こんばんは。
    それはやはり、片方の親の干渉が影響しているように思えます。
    自分もそういうところ(他人が注視していると、緊張して、うまくいかないところ)があります。まあ、詳しくは書かないけど。
    この、「干渉」いうのも、通常の干渉ではなくて、他の人が理解し難い干渉だと思います。

  2. kyotosometime Says:

    >こんな経験を、私は今まで腐るほどしてきた。
    >いつもはうまくいくのに、どういうわけか、人(特に新人)が見ていると、必ず失敗するのだ。

    なんなんでしょうね。。だけど、巡り合わせが良くないと、充分あり得ることだとは思います。
    自意識過剰とか、そんな単純な言葉では片づけられないような。。。

    >自宅でできる仕事を開拓

    私が、ひきこもり属性の人とずっと共有してみたいと感じていたテーマは、これが一番ですね。
    ただ、自身で稼ごうとして、失敗や中途半端な結果ばかりに終わっているので
    他人様とはシェアするまでには至らずです。。

  3. 二条淳也 Says:

    非24時間睡眠覚醒症候群さん

    こんにちは。

    親の干渉も関係あるんですかねえ。新人の前で失敗するのはつらいですね。

  4. 二条淳也 Says:

    kyotosometimeさん

    なるほど、巡り合わせも関係あるかもしれませんね。

    自宅で仕事をしようとしても、失敗したり中途半端になってしまう……私もそうです。

    ひきこもり同士で知恵を出し合えば、なにかができそうな気もするんですが……。

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