ボス的なおばさん。

ある会社に清掃のバイトとして入社した。だいぶ前のことだ。この会社はハローワークにいつも求人の広告を出していたので、応募することにしたのだ。簡単に採用され、ここで働くことになった。

三日も働いているうちに、なぜいつも募集広告を出しているのか、その理由が分かった。

ものすごく、職場の雰囲気が悪かったのだ。

オフィスを掃除するのが仕事なのだが、「この仕事を二十年続けている」という六十代のおばさんがボスのように君臨していて、他の作業員を威圧的に支配しているような職場だった。

「いつまでそこをやっているのッ!」

「早く会議室をやってしまいなさいッ!」

ボス的おばさんの指示は、いつもそんな叱責調だった。職場の雰囲気はつねにピリピリした緊張感が漂っていて、ちょっとした私語も許されない感じだった。だから、どんどん人が辞めていく。で、いつも募集広告を出しているのだった。

ある日、清掃員のみんなが、社員のAさんから缶コーヒーをおごってもらった。

「ごちそうさまでーす」

そんなことを言ってみんなで飲み始めたのだが、ボス的おばさんは私の態度が気にいらないらしく、

「二条くん! あんた! Aさんにお礼は言ったの!?」

と詰問するような感じで訊いてきた。「言いましたよ」と言うと、ボス的おばさんは憮然とした表情になり、

「もう一回、きちんとお礼を言ってきなさいッ!」

と命令した。どうして缶コーヒー一本でこんな目に遭わなければならないのか。こんなコーヒー突き返してやれ、とも思ったのだが、社員のAさんは悪くないので、突き返せない。仕方なく、もう一回「きちんと」お礼を言うことになった。

このように、職場で圧倒的な権力を持っているボス的おばさんだったが、おばさん仲間からはひどく嫌われていた。休憩中も、ボス的おばさんは雑談の輪に入れず、一人でポツンとしていた。他のおばさんたちが休憩中、楽しい話題で盛り上がることがあるのだが、ボス的おばさんがその輪に入れないでいるのを、私は何度も目にした。

孤独な人が職場で支配的な地位に就くと、職場の雰囲気はかなり悪くなる。これは色々な職場を見てきたうえでの実感である。ボス的おばさんは、周囲を怖がらせることで何らかの自己満足を感じているようだったが、例外なく、そんな人は孤立していた。あるいは、孤立していたからこそ、仕事中は周囲を叱りつけたかったのかもしれない。

ハローワークにいつも募集広告を出している会社には、どうしても行きたくない。

またあんなおばさんがいるかもしれないからだ。

2 Responses to “ボス的なおばさん。”

  1. あい Says:

    ほんと似たような経験をしています。でも私の場合、そういう人からは好かれるみたいで仕事で優遇させていただきました。周りは命令形で言われるのですが、私は何も言われません。当然周りからは、何であの人だけ?っていうような目でみられ、村八分になった経験が3社ほどありました。
    個人的には適当に聞き流せば?って思ってしまったのですが、それが同僚に伝わってしまい、私も孤立してしまいました。(笑)今思い返せば、上になる人も大変なんだなっていう感じで受け取れますが、そのような状況下にいる場合は、そう取れないですよね?色々悩んだり、結局はやめていく・・・・。そういう悪循環はなくしていきたいですよね?
    今月で前の会社辞めてから1年になります。よく1年何もせず、ふらふらしていたなって思うのですが、今天国です。前の会社も1か月に一度は募集するという会社でした。私はお金のために1年いましたが、限界を感じて辞めました。トイレに行く回数もチェックされていたんですよ?もうびっくり。働いていない今トイレに自由に行けるって幸せだなって感じています。そこまでだと私も落ちましたね。(笑)

  2. 二条淳也 Says:

    あいさん

    優遇ですか。よかったですね……そうでもないかな? 上に立つ人の人格によって、職場のカラーって変わりますよね。

    それにしても、トイレに行く回数をチェックする会社なんてあるんですね。驚きました。

    非人間的な会社が増えているようですねえ。

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