いやいや仕事をする人。
ある飲食店で働いていたときのことだ。板前さんはAさんという人で、とても仕事熱心な人だった。板前になるために生まれてきたような人で、心から料理が好きなようだった。
「淳也、サンマがおいしい季節になったなあ」
「淳也、今日仕入れたウニは絶対においしいぞ」
Aさんは仕込み中、ずっとそんなことを言っていた。「食を通して季節の移り変わりを感じるときが一番楽しいんだ」といっているように、Aさんはただ単に調理が好きなだけではなく、調理に付随する日常自体を楽しんでいるようだった。
板前さんが楽しんで仕事をしているのだから、当然、お客さんも楽しい。Aさんがつくった料理をお運びの私が運ぶのだが、テーブルに食事が運ばれると、お客さんの多くが、
「わあ! おいしそう!」
と声をあげた。そして実際、多くのお客さんが残さず料理を食べた。
だが、Aさんはオーナーとの軋轢があり、その店を辞めてしまった。
かわりにBさんという板前さんが来た。
Bさんは誰が見ても仕事をいやいやしている人だった。「いらっしゃいませ」を言うのもいやなようで、お客さんが来ると面倒くさそうに小声で
「いらっしゃいませ……」
とつぶやくだけだった。
調理に対する姿勢もまた、感心できるものではなかった。たばこをくわえながら仕込みをし、「客が来ないほうがラクでいい」と堂々と言っていた。
板前がそんな調子なら、お客さんもそれに気付く。Bさんの料理を運んでも、誰も「おいしそう!」とは言わなかった。料理を残すお客さんも多かった。Bさんは売り上げが落ちたことをオーナーから叱責されていたが、どうして売り上げが落ちているのか、Bさんは全然気付いていないようだった。
いやいや仕事をしている人がいると、周囲で頑張っている多くの人が迷惑する。だが、もしかしたら、Bさんと同じようなことを私もしていたかもしれない。今まで色んな仕事に就いてきたが、私は「一生この仕事をするわけじゃないから」と思い、必死に働いてはこなかった。自分では必死に働いている「ふり」をしていても、周囲はそのやる気のなさに気が付くものなのだ。
Aさんのように、楽しんで打ち込めるような仕事に、私は出会えるのだろうか。
5月 1st, 2013 at 2:00 PM
色んな人生模様を見てきているんですね。。脚本家になれば良かったのにとか思ったり。。。
私は、二条さんの日記に対して、良い悪いのジャッジより、小説を読むような心境で読んでるのかもしれませんね。
5月 1st, 2013 at 3:00 PM
はじめまして、北海道在住のばつイチひきこもりおばさんです。
今日、二条さんのブログを発見して夢中で読んでいました。
二条さんがブログで書かれたことは、まるで自分のことを書いてあるように思いました。
私もなぜか気づくと、職場でいつも嫌われていました。
気が小さい性格で、おとなしくその場にいるだけなのですが、嫌われてきましたね。
なぜ、自分が嫌われてきたのか?
二条さんのブログを読んでいて、理由が少し分かった気がしました。
毎日辛い気持ちで生活していましたが、今日は少し明るい気分になれました。
自分と同じ苦しみを、もった人を知る事ができたからだと思います。
また、ブログを読ませて頂きます。
ありがとうございました。
5月 4th, 2013 at 12:08 AM
kyotosometimeさん
脚本家というのは面白そうな職業ですね。年齢的にも能力的にも普通の会社員生活は無理なので、そのような個性的な職業には興味ありますね。
いつも熱心に読んでくださって、ありがとうございます。
5月 4th, 2013 at 12:10 AM
ばつイチのひきこもりおばさん
はじめまして、こんにちは。
ブログ、読んでくださって、ありがとうございます。私の文章を読んで明るい気持ちになるなんて、珍しいですね(笑)。読者が楽しい気分になるような文章は書いてない筈なのに(笑)。
またお時間がありましたら、読んで下さい。
自分らしい仕事を見つけたいですね。