お客さんの前で怒鳴られる。

引っ越し屋のバイトをしていた頃の話だ。バイト初日、五人ぐらいの組になって、ある家に行くことになった。

もう行く前からイヤだった。

実は朝、仕事をする前から早速怒鳴られてきたのだ。

初日、緊張しながら出勤したのだが、初めてなので、自分のロッカーがどこなのかも分からない。自分の名札があるのかなと思って探してみたけど、私の名札はどこにもなかった。しばらくまごまごしていると、

「おい! メガネ! なにモタモタやってんだ!」

と先輩らしい人から怒鳴られた(私は当時はコンタクトではなくメガネだった)。「自分の荷物を入れる場所を探している」というと、先輩は面倒くさそうに空いているロッカーを調べ、

「ここ空いてるから、入れとけ!」

と怒鳴った。

初日からイヤな雰囲気である。なにしろ初日なのだ。右も左も分からないのは仕方ないではないか。休憩室中に響き渡るような声で言われるのもイヤだったし、私に対する呼称が「メガネ」というのも腹が立った。

(この職場はこんな人もいるのか。イヤだなあ……)

このAさんという人はとにかく威張っていたので、なるべくこの人と関わらないようにしようと思っていたのだが、「今日は運転手のAさんと組んで現場へ行ってくれ」と言われて、さらに憂鬱になった。

他の引っ越し屋がどうなのか私には分からないが、ここの会社に関しては、運転手が強い権力を持っていた。助手などは家来のような存在で、バイト初日の助手などは「従業員」ではなく「お荷物」のような存在だった。

そんなだから、仕事中はとにかく怒鳴られる。

「おい! おめえ! 壁にぶつけんじゃねえぞ!」

そんなことを、お客さんの前で怒鳴りつけてくる。私は「お客さんの前で従業員を叱らない」というのは客商売の基本だと思っていたのだが、この会社はそうではなかった。もしかしたら、お客さんの前で新米を怒鳴ることによって、Aさんは日頃のストレスを晴らしていたのかもしれない。そう思わせるほど、一日中怒鳴られた。失敗をして怒鳴られるならまだ分かるが、注意事項を怒鳴るので、本当にイヤになった。

他の人は平気なのかもしれないが、私はお客さんの前で怒鳴られるととても不愉快になる。恥をかかされたような気になるし、仕事を頑張ろうという気が失せてくる。午前の仕事が終わった時点で、私はここを辞めようと思った。

計画通り、私はこの仕事を一日で辞めたのだが、心が回復するまで一ヶ月近くを要した。最初からこんな仕事を選ぶべきではなかったのだ。

今日もAさんは新米を怒鳴って悦に入ってるのだろうか。

あの光景を思い出すたびに、不愉快な想いが甦ってくる。

8 Responses to “お客さんの前で怒鳴られる。”

  1. kyotosometime Says:

    >>「お客さんの前で従業員を叱らない」というのは客商売の基本だと思っていたのだが、

    >>失敗をして怒鳴られるならまだ分かるが、注意事項を怒鳴るので、本当にイヤになった。

    この問題点指摘は、全く正常な分析です。
    二条さんが、社会的にそこそこの地位に有ったなら、的を得たことを言う人として、かなりプラス評価を得ることでしょう。。。

    中小の引越し屋さんは、そう言う所多かったと記憶しています。
    従業員に求める水準を上げると、応募者がいなくなってしまうんでしょうな。。

    私も、学生の時は何とも思いませんでしたが、35歳以降は、もう働く気しなかったですね。

  2. DOT35 Says:

     私も20代のころ登録派遣で引っ越しのバイトをしたことがあります。
    バイトが10~20人という大型の引っ越しのときは何もなかったですが、
    社員2人とバイトは私1人というときは、ボロクソに言われました。

    零細や中小の業者は教育もしてないでしょうし、
    大手には相手にされなかった人物を採用してますから
    客からの評価などおかまいなしなのでしょう。
    やられる相手の感情なんて考えもしないでしょう。
    それに、日ごろの鬱憤ばらしもしているのは否定できません。
    そういう連中も、叱責と罵倒の中で生きているのでしょうから・・

    私の場合は、大手の業者だったので、
    作業後に客からの評価アンケートをとらないといけないらしく、
    さすがに客の前で罵倒されることはなかったです。
    しかし、大手でも客のいないところでは
    「何やってんだよ」
    「おせーんだよ」
    と罵倒され続け
    名前で呼ばれることはなく「おいっ」か「おまえ」か「バイト」で呼ばれていました。

    まあ、私もオドオドして気弱な態度をとってましたし、普段やらないことでトロイ仕事ぶりでしたから
    彼らから見れば攻撃対象だったでしょう。

    仮に私が、キビキビハキハキした人間であったなら、あそこまでひどい扱いはなかっただろうな、
    と今思います。
     あのときは、定職を失い生活のために行った派遣バイトでした。
    鬱気味だったので、ダメージも大きかったです。

    自分が気弱で適応力が低いと、もともと攻撃性の強い連中をさらに攻撃的にしてしまうのが
    悔しいです。

    そういうことがなくても、引っ越しは割に合わないバイトでした。
    それ以降はやってません。

  3. 二条淳也 Says:

    kyotosometimeさん

    正常といって頂けて、ちょっとホッとしました。なるほど、求める水準を上げると、たしかに応募者はいなくなるかもしれませんね。

    歳を取るほど、働く現場は限定されてきますよね……。

  4. 二条淳也 Says:

    DOT35さん

    DOTさんも似たようなご経験がありましたか。ホント、つらいですよね。

    正社員になると、アルバイトに対して優越感を抱くのでしょうか。威張りたがる人が多いですよね。

    しかし、新米がキビキビするのは難しく、どうしてもオドオドしてしまいますから、叱られるのは避けられないんですかね。

    引っ越しは割に合わないですよね。

  5. あいさ Says:

    なんか書かれている趣旨とはちょっと違うかもしれませんが、一時期ひきこもり界隈であまりにひどいとされた「CARPE・FIDEM」という団体のホームページを思い浮かべました。まだこのページはあり、以前とかわらずの態度には感心しますw

    『…長期の引きこもり当事者が就ける仕事は、概して労働環境が熾烈で、一言で言えば罵声や怒声が当たり前の、「スパルタ環境」である場合が大半です。本来なら、順当に少しずつ課題のレベルを上げ、少しずつ少しずつ社会へ慣らしていくのが適切です。しかし、そんなことまで考慮してくれる職場など、今の余裕の無い日本には事実上存在しません。この「余裕の無さ」は、普通に生活されている社会人の方が、一番良くご存じのはずです。』

    こんな仕事しかないというか……この世に、支援者に期待しなくなりました。

  6. DOT35 Says:

    あいさ さんのコメントを見て、CARPE・FIDEMをググってみました。
    たしかに、高齢ひきこもりには救いのない内容ですね。
    しかも、世間の基準を考えると間違ってないのが辛いです。

    あの手の団体のターゲットは、まだ若い10代20代のひきこもりを持つ親です。
    その親から、高額な相談料や依頼料をとるのが目的でしょう。
    「手遅れになる前にウチに来い」という脅しのために、
    高齢ひきこもりの悲惨さを強調しているかのようです。

    私は仕送りを止められたので、本日就活してきました。
    資格を持ってるので、士業の事務所から面接の誘いがあり受けてみました。
    しかし、年齢の高さ、スキルの低さ、何よりコミュニケーション力の低さがネックになって
    最後は「さっさと帰れ」みたいな扱いを受けました。
    「こいつは利益にならない」と判断されると相手の態度は急変しました。

    このままだと「CARPE・FIDEM」のいうとおり、時給数百円のバイトくらいしかないでしょう。

    しかし、本当に高齢ひきこもりには希望がないのでしょうか?
    他人に雇われるしか収入を得る方法はないのでしょうか?
    もし、自営で稼ぐ手段があったら・・・と考えてしまいます。
    アフィリエイトでも、アドセンスでも、ヤフオクでも、せどりでも何でもいいから、
    ひきこもりが自分で生活費が稼げるような自営手段を作り出す団体があってもいいじゃないか
    と考えてしまいます。
    もちろん合法的なもので・・

  7. 二条淳也 Says:

    あいささん

    残酷だけど、書いてある内容は社会的には事実ですよね……。

    「こんな仕事しかないのか」と、私もいつも思いますが、そういう世の中なんですかね。

  8. 二条淳也 Says:

    DOT35さん

    たしかに、「ひきこもりビジネス」とでもいうべき、悪質な団体もいるようですね。追い詰められた親御さんを対象にしているのでしょうか。

    面接でかなりイヤな思いをされたようですね。

    ひきこもりがなんとかして自分で稼げるように、私もいま、模索しています。

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