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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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聖女の予言

コールレイ家
長女にして領主代行であるテリア・コールレイは、自信満々の顔をしたアベルと相対していた。
「どうですか?お義姉さん。僕は見事に「闇の姫」を打ち倒し、『天竜の手袋』を手に入れましたよ。これで安心してマリアをシャイロック家から呼び戻せるでしょう」
アベルはこれ見よがしに金色に輝く手袋を自慢する。その隣で、大きな袋をもったカエデも機嫌よさそうに笑っていた。
「闇の姫といっても大したことはなかったですわ。でも、財宝をたくさん手に入れられたからよかったです。あ、これを王都にいる父に送っておいてください」
そういって財宝の一部をテリアに渡す。
しかし、テリアの顔色は優れなかった。
(その人形の話では、本当の魔公は闇の姫ではなくて、むしろ彼女が封印をしていた?もしそれが本当なら……いずれこの地に災いが……)
手柄顔でドヤ顔をしている二人が憎らしい。
「あ、あなた達は、なんということを!!!!!!!誰が闇の姫を倒してくれなんていいましたか!」
偉そうに金色の手袋をみせびらかすアベルに、テリアは苦情を言った。
そういわれて、アベルは心外そうに首をかしげる。
「だって、あなたが闇の姫にマリアをいけにえに取られるかもしれないから、シャイロック家に逃がしたといったんじゃないですか」
「うっ」
そういわれてテリアは言葉に詰まる。改めて言い訳に闇の姫を使ったことを後悔した。
「で、でも、今までは何事もなく平穏に過ごしてきました。もしその人形の言うことが正しかったら?この町はどうなるのですか?もし400年前みたいに黒い雪が降って町が凍りついたら、生贄どころじゃ済まなくなりますよ!」
何とか言い返すが、アベルは平然としている。
「そうなったら、伝説の勇者の後継者である僕が何とかしますよ。なにかあったら呼んでください」
へらへらと笑って胸を張る。万一魔公が復活したらこのポムペイの町に大災害が起きて、大勢の人々が死ぬということなのに、アベルはそのことについて何も考えていない顔をしていた。
アベルの顔を見て、テリアはさらに幻滅する。
(……こいつは、民のことを何にも考えていない。むしろ民の苦難は自分に栄光をもたらすための踏み台程度にしか考えてないんだわ。魔公が復活して何百人が死んでも、後で自分が魔公を倒せばいいぐらいにしか考えてない。民の上に立つ為政者は、災いの復旧よりも予防にこそ全力をつくす義務があるのに……勇者としてはともかく、絶対に王になってはいけない存在だわ)
そう考えると、改めてアベルの存在がうとましくなった。
「これでマリアを僕に任せてくれますよね!」
まるで与えられた試練を達成したかのように、アベルはテリアに迫った。
「……もしあなたに妹を任せたら、どうするのですか?」
「決まっているでしょう。彼女は僕のパートナーになる存在です。一緒に魔王を倒す旅に出て、いろんな冒険をして、それから……」
完全に勇者病をこじらせた妄想を延々と語りだす。その危険な旅の途中でマリアが傷ついたり、魔王に負けて死んだりといったことをこれっぽっちも考えておらず、無邪気に自分達は世界を救うんだと話し続けた。
それを聞いて、心から妹マリアを愛しているテリアはついに激怒する。
「もういいです!この町から出て行きなさい!」
テリアは立ち上がり、警備兵を呼んでアベルたちを追い出すように命令した。
「な、なぜだ!」
「アベルちゃんを追い出そうなんて!この恩しらず!」
警備兵に取り囲まれながら、アベルとカエデは抗議する。
「あなた方の勇者ごっこに、私の大切なマリアを巻き込まないで!二度とこの町に近づくことを禁止します。シャイロック家にもお願いして、あなた方にマリアを渡さないように守ってもらうわ!」
そういうと、テリアは憤慨した様子で部屋を出て行く。
アベルとカエデはそんな態度に怒りをつのらせたが、さすがにマリアの実家で暴れるわけにも行かずにおとなしく町を出て行った。
「なんだあの態度、せっかく魔公を倒してやったのに!」
「本当!」
ポムペイの町を出た二人は、テリアを非難する。
「もういいさ。マリアの姉さんだからって遠慮していたけど、こうなったらもう知るか!マリアは僕達で迎えに行こう」
アベルはプンスカと怒りながらそう提案する。
「えっ?でも、かってに連れ出したら、誘拐されたって騒ぎになるんじゃない?」
カエデは不安そうにそう返す。
「かまわないさ。冒険の旅に出る若者は、いつの時代も無理解で頭の固い家族に邪魔されるものなんだ。でも、旅が成功して勇者扱いされるようになると、コロっと態度を変えてくるんだ」
「そうよね。所詮田舎で小さくまとまっている人なんかに、勇者とそのパートナーの価値なんかわかるわけないよね。そういう人に限って、勇者の足を引っ張ったりするものなんだもんね」
二人はテリアを馬鹿にして溜飲を下げる。
「そうと決まったら、シャイロック領に行くぞ!」
二人は領都エレメントを目指して歩きはじめるのだった。

ポムペイの町
領主であるコールレイ錫爵は、娘テリアから報告を受けていた。
「そうか……アベルとやらは、闇の姫を名乗る人形を倒したのか……」
いまだ病床にある錫爵は、じっと目を閉じて事の顛末を聞いていた。
「はい。アベルが言うように、闇の姫が魔公であったのなら、それで話は終わっていたのかもしれません。ですが、その人形の言うとおり、勇者アルテミックの仲間ノワールが真の闇の魔公をずっと封印し続けていたのなら……私は不安でたまらないのです」
そういうテリアの頭を、錫爵はやさしく撫でた。
「気にせずともよい。アベルとやらが封印を解いたのも、来たるべき運命だったのかもしれん」
「ですが……」
余計なことをしたのではないかと、今にも泣きそうなテリアに、錫爵は首からかけてあった鍵を手渡した。
「これは……?」
「我が家に代々伝わる『未来の間』の鍵だ。始祖の巫女コールレイが残した予言集がそこに残されている。代々の当主しか入ることを許されん部屋だが、お前に譲ろう」
「では、それを読むと未来のことがわかるのですか?」
希望を感じて笑顔になるテリアに、錫爵は苦笑する。
「ぞれがな。その部屋には具体的な予言も、事が起こる時期も書いておらんのだ。はっきり言って、大した役には立たん」
「え?」
わけがわからない事を言う父親に、テリアは首をかしげる。
「ふふ。言って読んでみるがよい。ワシが言った意味がわかるであろう」
そういって錫爵は苦笑するのだった。

未来の間
父親から鍵を渡されたテリアは、薄暗い地下にあるその部屋を訪れた。
「この部屋に、コールレイ家を支えてきた秘密があるのですね」
そう思うと、なんだかワクワクしてくる。
呼吸を整えて部屋に入ったテリアが見たものは、壁一面にびっしりと書かれた文字だった。
「これが……伝説の巫女コールレイが書き残した予言……。この中に答えが……」
そう思って読み進めていったテリアだったが、すぐに失望する。
そこに書かれていた事は、ほとんど役にたたないことばかりだったからであった。
・親を大事にしない子供を領主に就けてはいけない
・常に質素倹約して、金を無駄遣いしてはならない
・勇者を名乗るものを、信じて婿にとってはならない
・王家や大貴族には無意味に逆らってはいけない
・頼まれてもいないのに魔物退治を買って出る者を信じてはいけない
・相手が理屈に通らない無茶を言うときは、王家や大貴族でも盲目的にしたがってはならない
・美味しい話を持ってくる人間を信じてはいけない
などなど、「~してはいけない」という文言ばかりで、具体的なアドバイスは全くなかったのである。
「これが予言?なんだかお年寄りの説教みたい」
「ほう、面白いことが書いてあるものじゃのう」
テリアがつぶやいたとき、いきなり後ろから声が聞こえてくる。
「だ、だれ?」
びっくりしたテリアが振り向くと、黒いローブをまとった老婆がそこにいた。
「驚かせてすまんのう。ワシの名はノワール。闇の姫と呼ばれておるものじゃよ」
しわだらけの口を窄めて、ヒッヒツと笑う。その容姿は不気味だが、邪悪な気配は感じられなかった。
「あなたが、勇者アルテミックの仲間……?」
「おう。そしておぬしの祖先、コールレイの盟友でもあるぞ」
ノワールはそういうと、壁にびっしりと書かれた預言を興味深そうに見た。
「どうしてコールレイがこんな一見役に立たぬ予言を残したか、わかるか?」
「いいえ。わかりません」
テリアは首を振る。
「コールレイは、女神ベルダンティーの加護を得て未来のことが見えておった。じゃが、そもそも未来とは流れる川のごとく変わる物じゃ。一つの予言によって未来を変えた場合、その後の展開が全く読めないものになる」
ノワールが杖を振ると、空中にキラキラと輝く氷でできた霧の川ができる。その流れの一部が変更されると、それ以降は予想もつかない方向に流れが向かった。
「わかるかの?そもそも予言とは、もともと不確かなものじゃ。今現在につながる可能性のもっとも高い未来が見えるにすぎぬ」
暗い地下室に、ノワールの静かな声が響き渡る。テリアは目の前に広がる神秘的な光景に、ただ目を奪われていた。
「よって、予言を残す意味は、もっとも望ましい未来に誘導することにあるのだが、その為には時の流れを少しずつ歪めなければならん。「○○すべし」という予言を残すと、それだけで流れが変わって思いもよらぬ方向に向かってしまうのじゃ」
「……なるほど。だから……」
「そうじゃ。「○○してはならない」という警告を出して、その時点にいるものを自発的(・・・)に動かして少しずつよりよい未来に誘導する。ワシがコールレイから直接聞いた話だと、400年前の時点につながっていた『現在』では、コールレイ家はとっくに経済破綻して滅亡していたそうじゃぞ」
「えっ?」
意外な事を聞いて、テリアは驚く。
「ほれ。ここにも守るべき予言が書かれておるぞ」
ノワールが指す部分を読むと「珍しい物を所有してはならない」と書かれていた。
「……そういえば、我が家には家宝というものがありませんわ」
「うむ。中小貴族が珍しい物を持っていると、大貴族から嫉妬されて目をつけられる。トラブルの元になるだけじゃ。だから物に執着するなという予言じゃな」
それを聞いて、テリアは昔父から聞いた話を思い出した。
「そういえば祖父の時代のお話で、偶然王都の古道具屋で珍しい卵を見つけて買ったけど、隠居した元当主に怒られて、泣く泣くシャイロック家に譲ったと言う話が残ってましたわ……」
「うむ……この予言に従ったのじゃな。どうやら代々の領主は警告を守り、健全に生きておったようじゃな」
ノワールはホッホッホと笑う。それを聞いて、テリアはなんだかちょっと嬉しくなった。
「これは、先祖が子孫に残した愛情のこもった遺産なのですね……」
「そうじゃ。そしてこれは現在も生きておる」
ノワールはそういうと、部屋の壁の一部を杖で押す。
その部分はスイッチとなっており、いきなり壁の文字が消えて絵が浮かんできた。
「これは……」
「現在の時代を動かす重要人物たちの図じゃ」
ノワールは杖で絵を指し示す。中央に黒い太陽と白い太陽が浮かび、その周囲をいくつかの星が回っていた。
黒い太陽の周りには白、赤、緑の惑星そして黒い月、赤い月、青い月、黄色い月、緑の星が付き従っている。
白い太陽の周りには緑色の月がしたがっていた。
白い月がふらふらと白い太陽に引き寄せられようとしているが、その周りを回る白い小さな星が必死に黒い太陽のほうに引っ張ろうとしている。
他にも無数の小さな星が現れて、それぞれ影響し合っていた。
「面白いな。ワシが以前見たときは、白い太陽とやや大きめの黒い惑星が張り合っておった。その惑星が太陽となり、周りの惑星や月をひっばっておる。よくぞここまで未来を変えたものじゃ」
ノワールは感慨深そうに頷くが、テリアは何のことかさっぱりわからなかった。
「あの、これは……」
「だまって見ておれ。おっ……」
大小ふたつの黒いブラックホールと、無数の黒い星が現れて、黒い太陽に向かって突っ込もうとしている。その進路に緑の惑星と黒い月が移動して、邪魔しようとしていた。
両軍がぶつかる寸前に、予言図がふっと消える。どうやらそこまでしかわからないようだった。
「ほう……『竜者』が現れるには、まだしばらく時間がかかるか。それならば…」
ノワールはふんふんと頷き、厳しい顔になる。
「……わが子孫に会いに行かねばなるまい。過酷な試練に導くことになるがな。お主に頼む。ワシをシャイロック家まで連れて行ってくれ」
ノワールはテリアに頼み込む。
「わかりました。私もシャイロック家に行って、マリアを監視しましょう。アベルの下に行かないように」
二人は馬車に乗って、領都エレメントに向かうのだった。
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