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闇の姫ノワール
ポムペイ山
山頂付近に大きな洞窟があり、真っ黒い氷の扉で封印されていた。
『闇の扉。何者も封印を解くべからず。勇者アルテミック』と文字が書かれている。
アベルとカエデはその扉の前に立っていた。
「それでアベルちゃん、どうするの?」
「アルテミックの子孫である俺なら、扉は開くと思うんだけどな」
そういいながら、アベルは『天竜の兜』と『天竜の鎧』を装備する。
「われはアルテミックの子孫。扉よ、開け」
そういいながら扉を押すが、ビクとも動かなかった。
「おい!聞こえないのか!開け!」
扉に対して怒鳴るが、何も反応しない。
その時、アベルの胸にかかっているダイヤがキラキラと輝き、アベルに導きをもたらした。
「なになに?『鋼の剣』に思いっきり光の魔力をこめて、扉を破れだって?」
ダイヤの言葉にしたがい、剣に魔力を集中させる。
「いくぞ!『太陽剣』」
まるで太陽そのものであるかのような輝きと熱が、剣から発せられる。
「開け!」
その熱をありったけこめて、剣を扉に叩きつける。
パリーンという音と共に、黒い氷でできた扉は砕け散けちった。
ポムペイ山の洞窟、奥深く。
難しい顔をして結界を張り続けてきた少女が、入り口の異変に気づく。
「まさか!扉が砕けたのか?いったい誰がそんなことをしたのじゃ!」
彼女は白い肌に黒い黒い髪、とがった耳を持つエルフだった。
白い手には光り輝く手袋をはめている。
「くっ……『闇の姫』の恐怖も時と共に薄れたということか……それとも、アルテミックが予言していた、すべてに決着をつける『竜者』がついに来てくれたのじゃろうか?」
期待と恐れを感じながら、少女は周囲に散らばる黒い少女人形に命じる。
「……とりあえず、奴を近づけるな。もし単なる冒険者だった場合、この封印を解かせるわけにはいかん。400年前の悲劇が繰り返されてしまう」
少女はおびえの視線を前方に向ける。そこには、大型トラックほどもある巨大な真っ黒い虎が氷付けになっていた。
「ダークニードルたちよ、侵入者を撃退せよ!」
少女が命令すると、いっせいに黒人形は入り口に向かっていった。
「うわっ!なんだこいつら!」
「きゃっ!」
洞窟の入り口付近では、アベルとカエデの二人がパニックになっている。
いきなり無数のゴスロリファッションの美少女人形に襲われたからである。
「ゴワゴワゴワッ!」
妙な叫び声をあげながら、人形たちは手のひらから鋭く尖った真っ黒い氷の結晶を吹きかけてくる。
『剛光盾』
間一髪光のバリアーで防いだが、氷の矢は際限なく襲い掛かってきた。
「くそっ!『柔光鞭』」
「ウインドレイン!」
柔らかい光の鞭や風の刃を当てるが、黒い人形にはまったくダメージを与えられない。
「こ、これはまずい……」
「ど、どうしよう。アベルちゃん……」
初めて歯が立たない魔物と戦って、アベルとカエデは抱き合って震える。
「もうだめ!」
二人が観念して目を閉じた瞬間、アベルの胸元で輝いていたダイヤがふわりと浮き上がる。
「え?」
次の瞬間、ダイヤから発せられたレーザー光が、すべての人形を打ち抜くのだった。
「あはは。助かったな。さすが勇者を守る伝説の宝石だ」
「本当ね」
アベルとカエデは余裕を取り戻して、のんびりと洞窟を進んでいる。
襲ってくる人形たちは、すべて先導するダイヤから発せられるレーザービームが始末してくれるので、二人はその後をのんびりとついていくだけであった。
「ねえねえ、これオパールだよ。もらっていいかな?」
途中にあった宝箱をあけたカエデが喜ぶ。
「はあ、はあ、いいんじゃないかな?」
カエデは途中寄り道して宝箱を探す余裕もある。それに対してアベルはすでに息が切れていた。ダイヤが体から離れると同時に、「天竜の兜」と「天竜の鎧」がずっしりと重くなったからである。
「あはは、アベルちゃん。早く行こう。ダイヤさん待っているよ」
「あ、ああ」
それでもカエデの前で情けない姿は見せられないという風に、平静を装ってドタドタとついていく。そんなアベルをダイヤはしょうがないとばかりに、じっと宙に浮かんで来るのを待っていた。
「どうやら見込み違いじゃったかのう。奴はすべてを終わらせる『竜者』ではないようじゃ」
魔法で入り口近くを見ていた闇の姫は、がっかりとした顔をする。アベルたちは人形に押し返されて、ただ抱き合って震えていた。
「わしらの子孫が来たのかと思って、期待したのじゃがな。旦那よ」
闇の姫は苦笑して、近くに安置された石棺を見る。なかには中年の男の死体が氷付けになって保存されていた。
「まあいい。旦那のもとにいくのは、もう少し後のようじゃ。ダークニードルたちよ。さっさと追いだせ。奴らが出て行ったら、また封印を作る」
アベルたちに関心を無くして、人形たちに最終攻撃を加えるよう命じた時-突然少年が胸にかけていたダイヤが浮き上がった。
「あれ?あれは?まさか……」
それを見て、闇の姫は動揺する。
「ありえぬ!なぜ奴が、『光のダイヤ』を持つのじゃ!」
闇の姫が叫ぶと同時に、一条の光のビームが煌き、人形がなぎ払われる。
「いかん!奴をここに近づけるな!」
残る人形に命令する。洞窟の中にいた無数の人形が、アベルを倒しに動き出す。
しかし、すべてダイヤに蹴散らされてしまった。
「くっ……しかたがない。わしが戦わなければならんか。じゃが、このカラダでは……」
座っていた台座から降りて、侵入者を撃退するために隣の間に向かう。
「念のために、ここは封印して……『闇氷』」
虎が封じられている間に通じる通路をすべて黒い氷で覆う。これで黒色の壁に紛れて、通路の存在がわからなくなった。
「さて……長年生きてきたが、今日が最後の日になるかもしれんのう。できれば予言されたワシらの子孫にあってみたかったが」
そんなことをつぶやきながら、少女はじっと心を沈めて侵入者を待つのだった。
ポムペイ山ダンジョン 最深部
「ヒュン!」
ダイヤは新たに来た人形の大群を、レーザー光でなぎ払っていく。美少女ドールをダイヤが倒していくうちに、その魔力をアベルたちが吸収していった。
「ふう……ようやく慣れてきたみたいだ」
アベルは汗を拭き吹きつぶやく。魔力を吸収したおかげで筋力もあがり、どうにか動けるようになっていた。
「さあ、いくわよ」
「ああ。ここが最深部みたいだ。人々を苦しめる『闇の姫』め。この勇者アベルが退治してやる」
アベルとカエデは最深部に通じる階段を下りていった。
「あれ?」
最後の扉を潜ったアベルとカエデは首をかしげる。そこには、可愛らしい少女がいたからである。
「これも人形なの?」
おそるおそるカエデが近づくと、少女はにやりと笑った。
「人形ではないぞ。おぬしら、よくここまでたどり着いたのう」
友好的な笑みを浮かべて、穏やかに話しかけてくる。
「誰だ!」
あわててアベルが構える。
「ふむ。ワシはノワール。闇の姫と呼ばれておるが、ただのババアじゃよ」
見た目と反して婆口調で名乗った。
「闇の姫だって?」
あわててアベルが攻撃しようとすると、ノワールは片手を挙げて遮った。
「落ち着くがよい。血の気が多いのう。それで、おぬしたちは何者じゃ。何用でまいった」
そういわれて、アベルは堂々と名乗る。
「僕はアベル。勇者アルテミックの子孫で、新たな勇者だ!」
「えっと……私はカエデ。勇者の伴侶よ」
二人の名乗りを聞いて、ノワールはふむふむと頷いた。
「ほう。アルテミックの子孫か。なるほど、確かにその顔といい髪といい、まちがいなかろう。そっちの女子もソレイユの面影がある。懐かしいぞい」
ノワールはほっほっほと穏やかに笑った。
「懐かしいだって?あんたはいったい……?」
「アルテミックの子孫なら、ワシの名前を聞いたことがないかや?」
そういわれて、アベルは考え込む。しばらくして、ハッとした顔になった。
「そ、そういえば、アルテミックの仲間の中で、魔皇帝ダークカイザーと戦わなかった者が二人いると聞いた。最終決戦の前に行方不明になったその二人のうち、一人が……」
「そうじゃ。伝説のエルフ。『闇の姫ノワール』とはわしのことじゃよ」
ノワールはそういって笑う。アベルとカエデも、伝説の生き残りを名乗る存在を目の当たりにして、どうしていいかわからなかった。
「で、そのノワールがこんなところで何をしているんだ?」
アベルはノワールを睨み付けて聞く。
「ワシらは魔皇帝と戦う前、各地で暴れる魔公を倒していった。しかし、唯一倒せなかった魔公がいたのじゃ……」
ノワールの語る物語に、二人は聞き入る。
「『闇の魔公マルコキアス』じゃ。奴は魔皇帝と同じ闇の属性であるシールド魔法を使うので、光の属性であるアルテミックの天敵ともいえる存在だった。予知能力を持っていた光の巫女、コールレイから絶対にたたかってはならんといわれたのじゃ……戦えば消耗したアルテミックは魔皇帝に負けるとな」
ノワールは悲しそうに告げる。
「それで?」
「コールレイはこうも告げた。すべてに決着をもたらすことができる、勇者をも超える『竜者』は必ず現れる。それは空間系闇魔法の使い手シャイロックと、氷系闇魔法ノワールとの間の子孫に現れるとな」
「シャイロックだって?」
憎い仇敵の名前を聞いて、アベルは不機嫌になる。
ノワールはそんなアベルにかまわず、話を続けた。
「それを聞いて、ワシと夫シャイロックは考えた末、ひとつの方法を編み出した。引き止めるアルテミックを説得し、生まれた子を奴に託して、わしらは二人でマルコキアスと戦ったのじゃ。シャイロックが空間を固定して魔公をその場に止め、、ワシが凍り漬けにして封印し続ける。そうして『竜者』となる子孫を待とうとな。今はあれからどれくらいたったのじゃ?」
「よ、400年くらいだ……」
アベルはノワールに気おされたような答える。
「そうか……もうそんなにも時間がたったのか」
ノワールは感慨深そうに頷く。
「……生贄の娘を要求する闇の姫というのは?」
「ああ。ここに近づけないようにさせるための嘘じゃ。コールレイに頼んでそういうことにしてもらった。そういっておけば、わざわざ近寄る者もおらんじゃろう」
ノワールはすべてを話し終えたというように、出口を指差した。
「アルテミックの子孫よ。そういう訳じゃ。さっさと帰るがよい」
ノワールは手をひらひら振って、帰るように促す。その手にはキラキラと輝く手袋がはめられていた。
「待て。その手袋は?」
「アルテミックから餞別にもらった『天竜の手袋』じゃ。古代魔法文明の遺産である闇人形を動かせるアイテムじゃ。ワシは封印に全魔力を使うので無力になるから、その護衛としてな」
ノワールが指を鳴らすと、倒れていた人形のひとつがピョコンとたって、お辞儀をした。
「……ちょうどいい。それをよこせ。アルテミックの後継者であるボクのものだ」
アベルはニヤリと笑って、手を差しだした。
「こんなものが欲しいのかや?もう闇人形はお前らに殆ど壊されて、残ってはおらんぞ?」
「いいから、早くよこせ!」
アベルはいらただしげに恫喝する。ノワールは少し考えて、首を振った。
「残念じゃが、これはやれぬ。これがなければ不自由するからのぅ。その代わりに土産をやろう」
ノワールが手を振ると、別部屋に通じる扉が開く。そこには金銀財宝が詰まった宝箱があった。
「わが夫、シャイロックが貯めた財宝じゃ。本当はワシらの子孫にとおもっておったが、お主らも手ぶらじゃ帰れまい。これをやるからさっさと帰れ」
ノワールは追い払うようにシッシとする。
「うわ、すごい!」
財宝をみたカエデは、目の色をかえてかけより、せっせと袋に詰め込み始めた。
アベルはそれを苦笑してみていたが、再びノワールに向き直って要求する。
「財宝はありがたくもらっておく。だけど、その手袋も必要なんだ」
あくまで手袋もよこせと要求してくる。
ノワールは話が通じないアベルに、やれやれとなった。
「まったく、我侭なお子様じゃのう。アルテミックはどういう教育をしていたのやら……うっ!」
次の瞬間、ノワールは苦痛の声をあげる。アベルの『鋼の剣』が彼女の胸を貫いていた。
「な、なにを……する……」
「残念だけど、真の勇者にはお前のたわごとなんか耳を貸さない。何が勇者アルテミックの仲間の生き残りだ。この嘘つきめ」
アベルは剣を引きぬき、倒れたノワールをぐりぐりと踏みつける。ノワールは自ら作った血だまりの中に倒れこんで、息を引き取った。
「アベルちゃん、何をするの?」
仰天したカエデが駆け寄ってくるが、アベルは落ち着いている。
「カエデ姉、大丈夫だ。こいつは人間じゃないから」
そういいつつ、蹴って仰向けを向かせる。アベルが貫いた胸の穴から、何かの機械が見えた。
「……人形?」
「そうさ。こいつこそが闇の魔公なんだろう。俺たちに恐れをなして、適当なことを言って追い返そうとしたに決まっている」
アベルはしてやったりといった顔になった。
「……よかったー。でも、どうしてわかったの?」
「この導きのダイヤのおかげさ。こいつは嘘を言っている。人間じゃないぞって囁いてくれた」
アベルは信頼をこめて、宙に浮いているダイヤをなでる。ダイヤはひとしきりアベルの周りを回ったあと、胸のペンダントに収まった。
「ふん。ざまあみろだ」
アベルは腹ただしげにノワール人形を蹴り、『天竜の手袋』を奪い取った。
「もうここには用はない。いこう」
「ええ。マリアちゃんを迎えにいかないとね」
二人は財宝が入った大きな袋を抱えて、ダンジョンを後にするのだった。

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