宅急便の集配センター。

ひきこもって三年目のことだったと思う。深夜に、宅急便の集配センターで夜勤のアルバイトをすることにした。昼間に働く気持ちにはなれなかったが、このままでもまずいと思っていたので、そんな仕事に就く気持ちになったのだ。

極めていい加減な面接を受けると、あっさり採用され、働くことになった。

働き始めて三日目ぐらいだったと思う。休憩時間に控え室に行って自分のカバンから本を取り出そうとしていると、すぐ近くでブツブツ言っている男がいるのに気付いた。彼のひとりごとは強い怒気を含んでおり、表情も完全に怒っていた。

(仕事で怒られたのかな……)

そんなふうに思っていたところ、彼のほうから私に話しかけてきて、怒りの原因が分かった。

彼は、カバンに入れておいたタバコを盗まれてしまったのだ。

この集配センターはとても大きく、人の入れ替わりも激しい。毎日のように入る人間がおり、毎日のように辞める人間がいる。そんな状況なので、いちいち一人一人に鍵付きロッカーを与えることなどできない。この集配センターでは、持ってきたカバンやバッグは、控え室の棚にポンと置いておくというスタイルだった。棚にカバンがただ置いてあるだけだから、盗む側としては、もう盗み放題である。彼の話を聞いて私は急いでカバンの中をチェックしたが、幸い、私の私物は盗まれていなかった。

だが、もう私はそこで働くのがイヤになった。

私物が盗まれるような職場に、もういたくなかったのだ。私は、自分がおかしいとは思わない。ロッカーもなく、いつ自分の私物が盗まれるか分からないというような職場は、誰だってイヤだと思うのだ。

「信じられねえよ! こんな職場!」

彼がそう吐き捨てるのを見て、私はその日限りでそこを辞めることに決めた。そして何の連絡もせず、翌日から行かなくなった。なんとなく、連絡をする価値もない職場のように思えたのだ。

世の中には「石の上にも三年」なんて言葉があるが、三年もいる前に、人間が信じられなくなるような職場もある。

仕事を短期間で放棄することには強い自己嫌悪が伴うが、この職場に関しては、早々と辞めて正解だったと思っている。

4 Responses to “宅急便の集配センター。”

  1. 武蔵 Says:

    そういう職場は辞めて正解ですね。簡単に同僚が盗みを働いてしまって、しかも会社は何も対策しないっていうのは問題ですね。会社全体のモラルがしっかりしているところで働いたほうがいいですよ。働かないと分からないこともたくさんあって、私の場合は、就業前にネットで下調べしたりします。会社に恨みや嫌なことをされた人って、結構愚痴っていますから^^あと、社員同士がたちあげているサイトがあったら、社員の言葉遣いや内容で、会社の雰囲気が分かったります。もちろん、それだけでは分からない良さもたくさんありますけどね^^

  2. 夏乃 Says:

    はじめまして、高齢ひきこもりの女です。そういうバイト経験あります。
    そういう所で働く時は面接で確認してるので万が一、盗まれてもいい覚悟で行きます(盗まれてもいいものだけを持って)。
    郵便局のバイトだとロッカー鍵付きですよ。今、いこうかどうか悩んでいます。悩んでいるのは勤務時間です。高齢でひきこもりだと年金もまともに払った覚えがないので、この歳から一ヶ月も休みなくきっかり払い続けないと年金もらえないし、バイトが続く訳ないのわかってるから社会保険加入は自由な所か、または短時間ギリギリの所か限定され、また仕事内容で私がいけそうな所かどうかでさらに限定され、高齢アラフォーでさらに限定され・・いくとこがほとんどない状態です。

    高齢で自分と同じような気がするかたはあまり見かけないので、コメントしました。同じような気がするってのは、すべて共感する意味ではないです。でも文面からふとそんな気がするので^^自分と同じような目線のひきこもりのかたを探すのは難しいです。いないんだろうと思う此の頃です。

  3. 二条淳也 Says:

    武蔵さん

    たしかに、会社にも問題あったと思います。盗みが横行している会社なんて問題ですよね。

    働く前に、会社の雰囲気を敏感に感じ取れる方もいるようですが、私はそうではないので……難しいですね。

  4. 二条淳也 Says:

    夏乃さん

    はじめまして、こんにちは。

    盗まれてもいいって、ある意味すごい覚悟ですね。私はシャープペン一本でも盗まれたらイヤなので、ホント、あの職場は嫌な思い出でした。

    ひきこもりはこれからどんどん高齢化していくでしょう。なんとか手を打たないと、すべて福祉に流れる可能性があります。

    福祉に頼らない生き方を模索したいですね。

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