逃げてはダメだ。

タフな神経を身に着けようとして、無理をすることがある。

目を背けたくなるような残酷なニュースでも、

(これから目を逸らしていたら、強くなれない)

などと思って無理してでも見る。寒いならお湯を使えばいいのに、

(ぬくぬくしていると、弱いままだ)

などと思って無理をして水を使ってしまう。

無理をしてイヤなニュースを観た結果、気分はよけいに落ち込み、無理をして冷たい水で洗い物をした結果、肌は荒れ、つらい気持ちになってしまう。

私はひきこもりであることをとても気にしている。強くなれないと社会に出て行けないという危機感が非常に強い。だから、どんな無理をしてでも、強くなろうと思ってしまう。

思い返せば、ひきこもる前からそうだったように感じる。

高校生の時、クラスに不良のグループがいた。現金を脅し取ったり、カバンの中の物を盗むなど、非常に悪質なグループだった。

彼らが近くにいるというだけで、強いストレスを感じた。だが、ここで逃げていたら、自分は弱いままだ。そう思って、近くに来ても絶対に逃げないようにした。

これが裏目に出た。

彼らの目に「挑戦的」と映ったのだ。

それまでひどいいじめを受けていたA君から私へ、ターゲットは移動した。以前の記事で「いじめられっこは、『殺されに行ってきます』という想いで登校している」と書いたが、まさにその気持ちだった。毎日、明日が来るのがイヤでイヤでたまらなかった。

だが、ここでも「逃げたらダメだ」という想いが生じた。学校に行きたくないのなら行かなければ良かったのだが、「強くなるためには学校に行かなければ」と無理をして行ってしまったのだ。その結果、いじめは長引き、それを見た多くのクラスメートから嘲笑を浴び、自尊心は粉々になった。

あの時逃げなかったことによって、確かにある種の自信はついた。だが、それが正しかったかというと、かなり疑問である。あの時逃げていれば、中年になるまでひきこもることはなかったかもしれないと思うのだ。「強くならなければ」と思い込んでしまったために、いらない傷まで引き受けるハメになったのではないか。

これから食器を洗うが、たまにはお湯を使ってみたいと思う。

つらいだけでは人間は強くなれないことは、もう充分、分かったのだから。

4 Responses to “逃げてはダメだ。”

  1. 高齢引きこもり女 Says:

    『強くならなければ』『負けてはダメだ』私自身もかつてはそう思っていました。
    小学生の頃、夏休みの最終日曜に子供会対抗のドッジボール大会がありました。
    夏休み中毎日ラジオ体操が終わると続けて炎天下のもとドッジボールの猛練習です。私は生まれつき体が弱く、運動が非常に苦手でボール投げすらまともに出来ない子だったので、運動神経の良いリーダー格に当然の如く目をつけられ、『なにやってんだ!』『バカ!!』『お前がいるせいで負ける!』『もう死んじまえ!!』と暴言を吐かれた上『集中攻撃』と称して、手足だけでなく頭部、顔面、腹部などにも容赦なくボールをぶつけられ、ある時は鼓膜が破れ、またある時は鼻血で倒れ…。それでも練習を休むことはありませんでした。。できなくても参加することに意義がある。辛くても苦しくても逃げたら負けと思っていたから。

    中学校の時、全国的に学校が荒れ、不登校が問題化し始めた時代で、私の通っていた学校もいじめや校内暴力が蔓延し、不登校生徒がかなりの数いました。
    私もクラスで苛められ、友達と呼べる人も一人もいない辛い学校生活でしたが、それでも1日も欠席することはありませんでした。
    不登校はある種の逃げや甘え、と思っていたし、ここで休んだら社会の荒波の中では到底生き延びることは不可能と信じていたから。。

    そして耐えに耐え続けた結果、社会のどんな荒波にも耐えられる強靭な精神力や忍耐力が培われたかと言うと。。答えはNOです。。。
    ついに閾値を越えてしまった私は精神病を発症、なったものは引きこもりでした。

    私の好きな漫画家に山田花子(高市由美)さんという方がいます。いじめや人間観察、対人関係などがテーマで、いじめられっ子や精神障害者、不器用な生き方をしている人などが主人公の短編漫画を描かれていて、その主人公の姿に自分自身が重なり、共感できる点が多く、学生時代からとても好きでした。
    ところが山田さんは若くして高層マンションの上階から椅子に乗って飛び降り、若くして亡くなられました。亡くなられたと聞いた時は、何故だろう?何か仕事上の悩みでもあったのだろうか?と漠然と考えていたのですが、山田さんの死後、書き遺された大量のノートなどの遺稿をまとめた『自殺直前日記』と言う本が出版され、それを読んだ時の衝撃は未だ忘れられません。(長くなりますので続きます)

  2. 高齢引きこもり女 Says:

    『自殺直前日記』は日々の出来事を続った日記集ではなく、手帳やノートに記されていた言葉を整理編集した、日記と言うよりもアフォリズム集に近い内容のものですが、それによると山田さんの作品はドキュメンタリー、日記漫画、不器用な生き方をしている主人公は山田さん自身の投影であったこと、山田さんは生まれつき何らかの発達障害(?)を抱えておられたらしく、人とうまく付き合えない、家族と一緒にいても何となく違和感があって孤独が癒されない、全てにおいて不器用でスローペース故に弱肉強食のこの世では切り捨てられ、学校や職場などの集団の中では皆と感覚が違う、集団の足並みを乱す『異端者』として迫害、排除される。。
    その様な繰り返しで高校も1年で中退になり、その後は好きな漫画を仕事とし、しかし漫画だけでは生活が出来ず喫茶店でアルバイトをすることになるのですが、生来の不器用さから、本人としては真剣に働いているつもりでも、卓番が覚えられない、伝票の書き間違え、オーダーミスなどを起こしてしまい、『仕事の出来ないダメな奴』と苛められては解雇される。それでも生きて行くためには働かなければ、と自己を叱咤し頑張り過ぎた結果、今で言えば発達障害の二次障害とおぼしき精神分裂病(統合失調症)を発症し、精神病に入院、『山田花子は蝉の抜殻、予言ー病院と実家往復』『もう漫画描けない、生き甲斐がない』と言う言葉を遺して退院した翌日に自ら命を絶たれたのだそうです。

    山田さんのお父さんは苛めにあって落ち込み、学校を休みがちだった娘を激励するつもりで、『強くなりなさい』『しっかりしなさい』などと娘の本当の気持ちを確めることなくよく説教をしていた、自身も前向きに生きてきたので誰でも努力さえすれば、人並みに仕事をこなすことも出来るし、生きて行くことくらいはできると確信していた、しかし娘が命を絶ち、娘が遺した漫画やノートを読んで、初めてこの世では特に心身に障害はなくてもいくら努力を重ねても生きていき難い人達がいることを知ったそうです。

    山田さんは『日記』の中で人間平等思想は逆に人々を不幸にする。元々人間は不平なもの、お互いそれぞれの分(能力、性格、生活ペースなどの違い)を互いに認め合い、無理せず生きていける世の中が本当の意味で良い社会なのではないか、と書いています。(続きます)

  3. 高齢引きこもり女 Says:

    『日記』が出版された時、お父さんのもとには山田さんの後ろ向きでマイナス思考の価値観、人生観には同調出来ない、読んでいて苛つく、嫌悪感を覚える、という趣旨の投書が何通か届いたそうです。確かに前を向いて生きていける人からみたら『バカじゃないの?甘えてんじゃないよ!悲劇の主人公ぶってムカツク、苦しいのはアンタだけじゃないんだよ、それじゃー苛められんの当然でしょ!』と思うのでしょう。それは私にもなんとなく解ります。でも。。『私は前向きに生きている、だけど世の中には前向きになりたくてもどうしてもなれない後ろを向いてしまう人もいる。』と発想を転換たら、それぞれ違う考えや人生観を持っていたとしても互いに共存していけるのではないかと思うのです。
    『21世紀は個の時代』『みんな違ってみんないい』などとは言われては居ますが、実際のところ『異分子』を排除しようとする動きは、中世の魔女狩りやキリシタン迫害の時代と何ら変わっていないじゃないか、と思えるのです。 悪平等とも言いましょうか。。

    前述の関千枝子さんは子供の頃東京の私立学校に通われていて、中学1年の時、父の仕事の関係で広島の公立校に転校、環境が激変し、なかなか馴染むことができず、広島では誰もが普通に常識として知っているべきことを知らなかったり、体が弱く体育や作業を休みがちだったり、団体競技などの足を引っ張ってしまうことも多く『異物』扱いをされ、時にバカにされたり嘲笑されたりで、友達もできず、その年の終わりに調子を崩して病院、学校、自宅を往復する生活となってしまわれたそうです。
    しかし関さんが学校生活を続けて行くことができたのは、ご両親が娘の病気は学校に適応出来ない今で言うところの適応障害と見通していながら、一言も娘をなじったり責めたりすることなく黙ってじっと見守ってくれたこと、2年生になって性格はまるで正反対にも関わらず、その相違を互いに認め、足りない部分や弱い部分をカバーし合えるような本当の意味でのお友達と出会えたからだと言います。残念ながらお友達は原子爆弾でお亡くなりになられたそうですが。 。
    私も引きこもりが長くなり、年も大分食ってしまっていて世間的な目からみたらかなり厳しいものがあるかと思いますが、(今後の身の振り方を含め)自分なりに一番自分に合った道を考えていきたいと思っています。

    長くなってごめんなさい。

  4. 二条淳也 Says:

    高齢ひきこもり女さん

    山田花子さんのことは私も知っています。とても生きにくかったようですね。繊細であることがどれほどつらいことか、彼女の漫画や日記は物語っています。そして、山田花子さんのような人でも生きられる社会であって欲しいと思っています。

    コメントは短くして頂けると助かります。

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