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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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マリアの拒否

「それで、先ほどの話になりますが、リトネ様の敵の勇者とは?」
テリアは真剣な顔になって聞く。これだけ現実的な考えをするリトネという人物が、根拠もなしに予言などと言うあやふやなものを信じるはずはない。少なくとも、主観的には彼はこれから魔王を倒す勇者が悪政を敷くということを疑ってない様子だった。
ならば、それに巻き込まれるコールレイ家もできるだけの情報を集めておく必要がある。
そう思って質問したのだったが、返ってきた言葉が再びテリアを驚かせた。
「あたいも一度しか会ったことがねえんだが、アベルという名前の奴だ。ルイ国王陛下とアントワネット銅爵夫人の子供で、セイジツ金爵家に養われている」
よほどアベルのことを嫌いなのか、トーラは吐き捨てるように言い放った。
「アベルですって?」
テリアは悲鳴をあげる。常日ごろマリアが会いたいと駄々をこねている相手だったからである。
「知っているのか?」
「ええ。マリアは以前、アントワネット銅爵夫人に仕えていました。その縁でアベルという少年と知り合い、その、恋に落ちたそうです」
テリアの言葉に、車内に沈黙が広がる。
「……まずいな……」
「ええ。私たちもあきらめるように言い聞かせたのですが、聞く耳持たなくて……ああ、どうすればよいものやら」
テリアは頭を抱えて困惑する。トーラも渋い顔をしていた。
「……あんな奴のどこがいいんだか……」
「トーラ様は一度お会いしたことがあるとおっしゃいましたが、どのような少年なのでしょうか」
テリアの顔は真剣だった。
「……あいつはシャイロック家の武道大会で、予選で敗退したくせに決勝戦に乱入して、あたいとゴローに対して不意打ちして決勝の賞品を強奪しようとした」
「まあ……」
あまりにも卑怯な行動を聞いて、テリアは呆れる。貴族とか勇者とか以前の問題だからである。
「まあ、その時はリトネにコテンパンにやられたそうだが、他にもいくつも凶行をしたと聞いている。パラディアの街で冒険者たちに暴行したとか、アンデス領で危険なダンジョンの封印を解いたとか、ヨーホイの村で火事場泥棒したとか、やりたい放題やっているぜ」
「……その話が本当なら、とても我が妹の伴侶と認められるような少年ではありませんわね……」
テリアは暗い顔になる。
「あたいにも、どうしてリトネが奴を放置しているのかわかんねえんだけどな。まあ、何か理由があるんだろう。おっと、エレメントの城壁が見えてきたぜ。詳しい話は直接聞いたらどうだ?」
「そうですわね」
彼らを乗せた自動車は、エレメントの街に近づいていった。

エレメントの街
シャイロック金爵家の本拠地で、高い城壁に囲まれた都市である。
目をさましたマリアは、立派な城壁を見るとますます不安に駆られ、再び泣き始めた。
「ぐすっ……お姉さま。怖いです。まるで魔王の城みたいです……」
「魔王の城って……」
それを聞いたトーラは呆れる。
「こら。マリア、さすがに失礼ですよ」
そいうってテリアにたしなめられるも、マリアは泣き止まなかった。
そうしている内に、自動車は巨大な門から街に入る。
エレメントの街は今日も賑わっていた。
「さあさあ、買った買った。今日は新鮮な魚が手に入ったよ!」
「焼きたてのパンだよ!ハチミツをつけて食べれば、おいしいよ!」
「リリパット商会の新製品『電子レンジ』だ!なんとたったの10アル。魔石付だよ!」
街の商店は活気に溢れ、さまざまな珍しい品が並んでいた。
多くの人が街を歩いており、景気もよさそうである。
「あれは何ですか?」
何か二つの輪が繋がった形をしている変な車のようなものを見かけて、テリアは驚く。
その上には人が乗っていて、すごいスピードで走っていた。
「ああ。あれも新しい発明品のひとつで、『自転車」って言うんだ」
「本当にここは進んでいるのですね……以前王都に行ったことがありますけど、あんなものはなかったですわ」
「へへん。あれも全部旦那の力さ。いずれここは王都よりも発展した都市になるだろうぜ」
再びトーラは自慢する。たしかに多くの人がいるにもかかわらず街は綺麗で、治安も保たれていた。
「さあ、ついたぜ」
自動車は巨大な城に入っていく。テリアはこれだけの力を持っている大貴族とどう付き合っていくべきか頭を悩ませ、マリアはひたすら怯えていた。

豪華な城の客室に泊まった次の日、テリアとマリアは応接室に招かれる。
そこには何人も並んで座れるような大きなソファがあった。
「ネリーさん。お茶頼むぜ」
「はい。トーラさま」」
20歳くらいの美しいメイドに申し付けると、トーラはソファにどっかりと座る。
重厚な雰囲気の部屋なのにまるで自室のようにくつろいでいた。
「旦那とほかの連中は仕事中みたいだ。もう少しで来るだろうから、あんたたちも座って待ってな」
「は、はい。失礼します」
テリアとマリアはビクビクしながら、高級そうなソファに座る。
「お、お姉さま、。怖いです」
「お、落ち着きない。大丈夫ですから」
豪華な城に怯えてガタガタと震えているマリアの隣で、テリアは必死に慰めていた。
二人の様子をみて、トーラは呆れる。
「……別に、そんなに怯えなくていいぜ。旦那は優しいから、取って食われたりしねえよ」
「そうおっしゃられましても……」
テリアはうつむく。ここに来るまでに見た街の様子で、想像以上にシャイロック家とコールレイ家の力の差を見せ付けられた気がした。
お茶が運ばれてしばらくすると、ドアが開いて一人の少年が入ってくる。黒髪に平凡な顔立ちをした少年は、穏やかな笑みを浮かべていた。
「この度は、私の不躾なお願いを聞いて、ご足労いただきましてありがとうございます。リトネ・シャイロックと申します」
にっこりと笑って頭を下げる。彼に続いて、何人かの少女たちも入ってきた。
「……ナディ・シャイロック。第一夫人予定。よろしく」
「君がマリアちゃんか。可愛いね。僕はリトルレット・リリパットだよ。よろしく~」
「あ、あの。リンと申します。お兄ちゃんのメイドさんをしています。仲良くしてくださいね」
それぞれ自己紹介して、ソファの反対側の席に座るのだった。

「はじめまして。私はテリア・コールレイと申します。この度は、妹マリアに身に余るお申し出をしていただきまして、まことに名誉なことだと思っております」
テリアは完璧な貴族の礼儀作法を守って、一礼する。
しかし、隣のマリアは青い顔をしたままで固まっていた。
「マリア、どうしたのですか?ご挨拶なさい」
テリアがそう急かしても、震えていて動けない。
次の瞬間、頭を抱えて泣き出した。
「いやぁ!こんな嫌らしそうな人いや!わたし帰る!帰らせて!!」
そのままソファの前のテーブルに伏せて泣きじゃくる。あまりの事態に、リトネは作り笑いを浮かべたまま固まってしまった。
「こ、こら!なんという失礼なことを言うのです!」
あわてたテリアがたしなめるが、マリアの泣き声はおさまらない。
「わたしを見てにやにやしてる~!いや!アベル様!たすけて~。シャイロック家の変態悪魔に攫われて拷問されて○○されて××されて食べられちゃう!」
マリアの泣き声はますますヒートアップしていった。
「だ。だれが変態じゃ!別に○○しようとか、×××なんて……」
リトネは必死に弁解しても、マリアは泣き止まなかった。
「リトネ様、申し訳ありません。妹は少し興奮しているようです。お時間をいただけますか」
困った顔をしたテリアにそういわれて、リトネはあわてて頷く。
「は、はい。ネリーさん。彼女を別室に」
「かしこまりました」
ネリーに連れられて、テリアとマリアは応接室から退出していった。

二人がいなくなった後、リトネは深いため息をつく。
「はぁ……なんであんなに嫌われたんだろう」
リトネは首を捻るが、ナディは納得したように頷いた。
「……マリアの気持ちはわかる。私もそうだった」
「えっ?」
びっくりしてナディを見ると、複雑な顔をしている。
「……いきなり顔もしらない人を婚約者だって押し付けられても、混乱するだけ。普通は何かあると疑って、嫌になって当然」
「あ、そういえばナディも初対面の時に、俺に対してひどい事いったっけ。作り笑顔がきもいとか、私を利用するなとか」
そういわれて、ナディは頷く。
「……ああ言ってあなたに嫌われて、婚約破棄にしてもらおうと思ってた」
「あー。わかるわかる。ボクもいきなり結婚を申し込まれて、何なのこの人って思ったよ」
リトルレットも同意した。
「……しかも、私を好きでもないのに、権力を使って無理やり婚約者にしようとした」
「だよねぇ。考えたらリトネ君ひどい事しているよねえ」
二人してリトネを責めてくる。
「だ、だって、女神の予言で、どうしてもヒロインたちを手元に置かないといけないと思って……」
「……今もそうなの?」
「……それだけ?だったら……」
二人は冷たい目で見つめてくる。
「い、今は違うよ。二人ともかけかけえのない存在だと思っている。だから、ずっとそばにいてほしい。その……好きだから」
リトネは顔を真っ赤にして、今の本心を言った。
それを聞いて二人はうれしそうな顔になったが、あわててそっぽを向く。
「……だったらいい」
「なら、これからも大切にしてもらわないとね。最後まで責任とってよ。運命を捻じ曲げたんだから」
二人との間に甘い雰囲気が漂う。それを見てトーラが不機嫌そうに言った。
「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう。それで旦那はマリアをどうするんだ?車の中で聞いたんだが、マリアはすでにアベルに惚れているみたいだせ」
トーラから事情を詳しく聞いて、リトネは困ってしまう。
「うーん。どうしょう。最初は嫌われていても、婚約者として一緒にすごしていたら、そのうち懐いてくれるんじゃないかな」
一抹の期待を持つが、婚約者たちに否定される。
「……無理」
「無理ね」
「旦那、そりゃ無理だ」
「お兄ちゃん。無理だよ」
みんなから切って捨てられて、リトネは落ち込んだ。
「……リトネの強引に婚約者にするというやり方が通用したのは、私に好きな人がいなかったから。すでに好きな人がいる女の子にとっては、迫ってくる人は迷惑」
ナディの実に的確な言葉に、リトルレットも頷く。
「マリアちゃんを無理やり婚約者にしたって、魔王にさらわれたお姫様状態になるだけ。アベルにら助けてもらうことを夢みるだけで、絶対にリトネ君に懐かないと思うよ」
「……だよなぁ。あっちからみたら、旦那はまぎれもなく悪役だからなぁ」
「お兄ちゃん。嫌がっている女の子をいじめちゃだめ」
トーラとリンにも言われてしまい、ついにリトネは決心した。
「仕方がない。マリアを婚約者にするのはあきらめよう」
その言葉に婚約者たちも頷いて同意するのだった。
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