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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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勇者ではない理由

そのときドアがノックされ、執務室にネリーが入ってきた。
「リトネお坊ちゃま。冒険者パーティ『白姫ノルン』の方々が面会を求めていらっしゃいますが、どうなされますか?」
「あれ?ノルンさんたちが来たんだ。なら応接室にお通しして」
そういって、ナディとリトルレットと一緒に応接室で三人を迎える。
入ってきた白姫ノルンたちは、いずれも暗い顔をしていた。
「……お母様、どうしたの?」
「ケインとゴローも何か変よ。元気ないみたい」
ナディが母親を、リトルレットが元の仲間たちを気遣う。
「実は……」
ノルンが代表して、『針の山』でアベルが起こした惨劇を話した。
「そんな……ハリネズミたちの長が殺されたって?」
リトネは驚愕する。
「長が言うには、真の勇者はリトネちゃんだって。だから、とられた兜を取り返してくれって頼まれたわ。リトネちゃん。長の最後のお願いを聞いてほしいの。おじいちゃんには私は本当にお世話になったの」
ノルンが頭を下げる。
「俺からも頼む。奴は冒険者として許せねえ!」
「……」
ケインも憤慨する。ゴローは無言だったが、二人と同意見なのは様子から伺えた。
しかし、リトネは腕組みをして無言のままである。
「……リトネ!」
「リトネ君、なんとかいってよ。勇者でしょ!」
ナディとリトルレットが急かすが、リトネはじっと目を閉じて考え込んでいた。
しばらくして、リトネが口を開く。
「……ハリネズミの長にはお世話になりましたし、俺もアベルの行動には思うところがあります。しかし、奴から天竜の兜を取り返すというのは、僕にはできません。少なくとも、今の段階では」
「なぜなの!」
ノルンが悲鳴を上げる。ケインとゴローも責めるような目を向けた。
「なぜなら、僕は勇者ではないからです」
リトネの声が応接室に冷たく響く。
それを聞いたナディとリトルレットも、がっかりした目をリトネに向けた。
「……リトネ、見損なった」
「キミを勇者として認めて、信頼している人が大勢いるのに。この期に及んでもまだそんなことを言っているの!ボクたちを無理やり婚約者にしたくせに!そんな人だとは思わなかったよ!」
二人は憤慨して立ち上がる。
「……もう愛想が尽きた。婚約を解消……」
「待ちなさい」
ナデイが言いかけた時、突然応接室に誰も知らない声が響き渡る。
「え?今言ったのは誰?」
全員が応接室を見回すが、誰もいない。
「空耳……」
「ではありませんよ」
再び声が響くと、皆が座っているソファの傍に人影が現れた。それはどんどん濃くなっていき、凛とした姿の蜂蜜色の髪をした美少女になる。
「なっ!」
全員が度肝を抜かれていると、その美少女はリトネの前に跪く。
「初にお目にかかります。あなたが我が母に認められた、勇者アルテミックの後継者様ですか?」
「は、はい。あなたは……」
「私はクイーン・ビーの娘、プリンセス・ビー。ハニーとお呼びください」
ハニーはにっこりと笑う。その背中には薄い羽が生えていた。
「クイーンの……」
「はい。我が母も勇者を名乗るアベルという輩に害されてしまいました。その遺言で、奴から『天竜の鎧』を取り返すためにあなたの元にはせ参じたのですが……」
ハニーはリトネを見つめて、大きくうなずく。
「……なるほど。確かにあなたはアルテミックの後継者かもしれませんが、勇者ではありませんね」
リトネの目を見つめて、はっきりと言い切った。
それを聞いた途端、リトネが泣き出しそうな顔になる。
「お分かりになりますか?」
「ええ……その訳を話されてみれば?楽になりますよ」
ハニーはそういって水を向ける。リトネがみんなを見渡すと、誰もが話を聞きたそうな顔をしていた。
「わかりました……すべてを話します」
リトネはなぜ自分が勇者ではないのかを話し始めた。

「そもそも、私が女神ベルダンティーから受けた使命は『魔皇帝を倒す』ことではなく、『魔皇帝を倒し、王となって暴君として力を振るう勇者を倒す』ことでした」
この部屋にいるものは、全員固唾を呑んでリトネの言葉を待つ。
「不思議だとは思いませんか?魔皇帝を倒せる勇者をも倒せるのなら、最初から私に魔皇帝を倒せと命令すればいい。なぜこんな回りくどい使命をもたせるのか?」
「たしかに……」
リトルレットが今気がついたかのように声を漏らす。
「その訳は、勇者アベルが魔皇帝を倒せる理由、そして私が勇者アベルを倒せる理由と密接に関わってきます」
「……もったいぶらずに早く言って!」
ナディが痺れを切らしたように言う。
「ナディ。君も俺と同じだ。魔皇帝には対抗できないんだよ。君の魔力属性は?」
「……闇。はっ!」
ナディは何かに気づいたように、口に手を当てる。
「そうだ。君と俺は『闇』の魔力をもつシャイロック家の末裔。その魔力は、『闇』の属性をもつ魔皇帝ダークカイザーに対抗できない。闇に対抗できるのは、光属性を持つ勇者のみ」
リトネがそういった途端、部屋の中が静まり返る。
魔皇帝にダメージを与えるには、アベルの光の魔力が必要なのである。こればかりは闇の魔力を持つリトネがどれほど強くなっても相性の問題で倒すことは無理だった。
「だからこそ、女神ベルダンティーは俺に使命を与えたんだ。魔皇帝ダークカイザーをアベルが倒した後に、アベルが暴君になるようだったら奴を倒せってね。光に対抗できるのもまた闇だ。だから俺は勇者を名乗れない。なれるのはせいぜい勇者を利用するだけして、用が済んだら抹殺する狡猾な反逆者にすぎないよ」
リトネはハハハと虚しく笑う。ナディとリトルレットも、あまりの使命の重さに言葉を失った。
「……リトネ、ごめん」
「君の苦しみも知らずに、勝手なことを言ってごめんなさい」
しばらくして、ナディとリトルレットがリトネの手を握る。
「……こんな卑怯者でも、まだ婚約者でいてくれるのかい?俺は絶対に勇者にはなれないよ」
泣き笑いを浮かべるリトネに、二人は笑いかけた。
「……気にしなくていい。私も闇。あなたが世界を救う勇者を暗殺する反逆者に堕ちるなら、どこまでもついていく」
「ボクも一緒だよ。こんなこと聞かされて、今更キミを見捨てるなんてできないよ」
二人はリトネに抱きつき、優しく抱きしめた。
「……リトネちゃん。不憫な子……生まれつき勇者を暗殺する反逆者の宿命を背負っているなんて…」
ノルンは目にハンカチを当てて泣いている。
「……なんというか、ひでえよなぁ。あんた、確実に後世に悪名を残すぜ」
ケインもリトネの運命に同情していた。
「……我々はアベルという輩の行動を知っているから、奴がどのような功績を挙げたとしても、いずれ悪に堕ちる事を理解できる。だがそれを知らない多くの民は、魔皇帝を倒す者は無条件に正義だと信じて、それを暗殺する者を悪だと決め付けるだろう」
ゴローも重々しく頷いた。
「……」
ハニーは黙って、何事かを考え込んでいる。
「今いったことは、絶対に誰にも言わないでください。万一アベルの耳に入ったら、奴を利用できなくなるかもしれません」
「わかりました」
この場にいる全員が、今の話を秘密にすることを誓った。
そして、ドアの外も一人。リトネの話に聞き耳を立てていたネリーの顔も真っ青になっていた。
(お坊ちゃまの本当の使命が、魔皇帝ダークカイザー様を倒した勇者アベルの抹殺??どういうことなの?これでは私達魔族の計画が……)
思わぬ計算違いに、ネリーはひたすらうろたえる。
(次の蒼月夜に、カイザーリン様にこのことを伝えないと……)
そう思ったところで、はっとする
(でも、これを知ったらカイザーリン様がお坊ちゃまを抹殺するかも。そうなると、異世界の芸術品が取り寄せられなくなっちゃうし……そんなのヤダ。仕方ないわ。しばらく静観しましょう)
ネリーはそう思い、黙っていることにするのだった。



リトネは白姫ノルンのメンバーに聞く
「そういえば、皆さん『天竜の手袋』のある場所はご存知ないですか?師匠に聞いても知らないみたいです」
リトネの問いかけに、メンバーたちは顔を見合わせる。
「俺は知らないな」
「世界中を回ってみたけど、勇者が使っていた手袋のうわさは聞いたことがない」
ケインとゴローは首を振る。
「私も知らないわね……あ、でも、もしかして……いや、でも……ちがうかも」
ノルンは何か思い当たることがあるようだが、首を振って否定した。
「ノルンさん。なんでもいいから教えてください。アベルが見境なく魔物を殺すような奴なら、俺が先回りして、守っているボスに警告しておかないと。無抵抗で渡したら、さすがに殺されはしないでしょう」
リトネの言葉を聞いて、ノルンはためらいがちに話し始めた。
「えっと……私たちエルフ族に伝わる伝説なんだけど、400年前の私たちの先祖に『闇の姫ノワール』という恐ろしい氷魔法の使い手がいたみたい。南のポムペイ山に住んでいて、若い女の子を生贄によこせって住人を苦しめていたんだけど、アルテミックに退治されて封印されたんだって。その姫は手に光り輝く手袋をはめて、人形を操っていたって聞いたことがあるわ」
「もしかして、それが闇の魔公?」
ナディがつぶやくが、リトネは明確に否定した。
「いや、闇の魔公は確か虎型のモンスターで、マルコキアスって名前だったよ。出現位置は同じなんだけど……あれ?どういうこと?」
リトネは伝説とゲーム知識の食い違いに、首をかしげる。
「……その姫の正体が、虎のモンスターだとか?」
「そうなのかな?まあ、いずれ分かるだろう。俺たちはその時のために修業して、出現したら簡単に倒せるようにレベルアップしておこう」
リトネの言葉に全員が頷くのだった。


港町ポムペイ
まるで雪のような白い土でできた険しい山、ポムペイの麓に広がる小さな港町である。
その町を治めるコールレイ錫爵家の館では、一人の少女が毎日部屋にこもって泣いていた。
「アベル様……会いたい……」
自室のベッドにうつぶせになって泣いている少女は、マリア・コールレイ。コールレイ錫爵家の次女である。
彼女は以前王都でアントワネット銅爵夫人に侍女として仕えていたのだが、シャイロック家のせいで首になって実家に戻っていたのである。
それ以来、何をするでもなく自室にこもって泣いているだけ。最初は同情していた家族たちも、今ではすっかり呆れていた。
暗い部屋にいつまでもマリアのすすり泣く声が響いていたが、ふいにバーンという音がして部屋のドアが開けられる。
そして、金髪ポニーテールの美女が入ってきた。
「マリア、いい加減に引きこもってないで、出てきなさい!外はいい天気ですわよ」
そういうなり、ベッドの布団を無理やりに剥ぐ。
「テリアお姉さま……」
目に隈を作ったマリアは、涙に濡れた目をこすりながら起き上がった。
「もう。もどってきてから毎日部屋に引きこもって。いったいどうしたというのです」
コールレイ錫爵家の長女、テリア・コールレイはベッドに腰掛けて、やさしくマリアに問いかける。
「でも……だって。アントワネット様があんなことになって、アベル様とも離れ離れになってしまって……これというのも、全部シャイロック家が悪いんです」
延々とシャイロック家に恨み言を言う妹に、テリアは呆れてしまった。
「まったく。アントワネット様はギャンブルのやりすぎでお仕置きになっただけです。イーグル宰相様は全く悪くありませんわよ」
「だって……」
「シャイロック家は、我が家を含めた西部一帯を支配する大家です。我が町の魚を高値で買ってくれる大事なお客様でもあります。いつまでもそのようなことを言っていると、またお父様に叱られますよ」
テリアは優しく妹に諭す。
アントワネットの元から帰ってきたマリアは、涙ながらにシャイロック家の横暴を父親に訴えたが、彼には全く相手にされなかった。
それというのもシャイロック家の領都エレメントは港町ポムペイで取れた魚の購入先として、ずっと以前から大事な顧客であったからだった。
マリアが変に逆恨みを言っていて、万一悪いうわさがシャイロック家に届いたら、赤子の手をひねるかのようにコールレイ家は潰されてしまうかもしれない。そう思った父親は厳しくマリアを叱責したのだが、それが原因になってマリアはひきこもることになったのだった。

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