適切な状況判断。

街でバッタリ、知人のS子さんに会った。彼女はつい三ヶ月ほど前、フリーターを辞め、正社員として就職したのだ。

「仕事どう? 忙しい?」

と訊くと、

「いやあ、もう辞めちゃいました!」

と明るい返事が返ってきた。

訊けば、職場の人間関係が非常に悪く、毎日S子さんは泣いていたという。そして「これ以上ここにいても仕方ないから」辞めてきたのだという。

「アクセサリーの仕事をしたいので、今探しているんです」

そういうS子さんの顔に、暗さはなかった。

私だったら、仕事を辞めたことをこんなに明るく他人に言えないだろう。仕事を辞めるということが、敗北や恥辱のように感じられて、とてもじゃないが他人には言えないのだ。

特にひきこもっていると、「長期」というものに異様にこだわるようになる。

「なんとしても続けないと」

「辞めたら負けだ」

そんなことばかり考えてしまい、「長期間続ける」ことを至上命題にしてしまう。

だが、この考えはとても正しいとはいえない。

「これ以上ここにいても仕方ない」と思ったらすぐに辞める。そんなS子さんのほうが、正しいと思う。

私はその場での適切な状況判断というものができない。ストレスのかかる出来事に出くわすと、動揺してしまい、すぐに平静さを失ってしまう。「こんな職場にこれ以上いても仕方ない」と思って辞めたS子さんは、適切な状況判断ができる人だったのだろう。私なら無理にでもしがみついてしまうが、彼女はそんなことに意味がないことを分かっていたのだと思う。

もう一つS子さんがすごいと思うのは、仕事を辞めたことを平気で話せる神経である。辞職の重要性が男と女では違うのだろうが、それにしても、「正社員だけど三ヶ月で辞めちゃった」と平気で他人に言える神経はすごい。私なら、「こんなこと言ったら軽蔑されるかな」と思って言えないと思う。正社員の職を三ヶ月で辞めたことを平然と話せる神経が、私には羨ましく感じられるのだ。

ひきこもりにとって、大事なのは仕事を長く続けることではなく、まずは適切な状況判断ができるようになることなのではないか。

明るく笑うS子さんを見て、そんなふうに思った。

14 Responses to “適切な状況判断。”

  1. パトリオット Says:

    初めまして。いつも記事を楽しみにしています。
    い私は今一般企業で正社員として働いています。
    ですが、それほど良い生活とは思いません。私は自分の人生に自信がありません、毎日がさみしいです。面倒くさがりやで自分が努力してこれなかったくせに後悔ばかりしています。
    そんな私ですが、あなたのブログは楽しみにしています。
    貴方は的確に物事の本質を見通すことができるとおもいます。それを的確に表現することができる。それに精神的なタフさも持ち合わせているように感じます。
    失礼かもしれませんが、沢山の良いところをいつも感じています。これからも頑張ってください。

  2. ららら Says:

    引きこもりの人数はあっとう的に男性が多いと聞いたことがあります。
    男女平等とか同権とか巷では言われていますが、職業に対する捉え方は
    少し微妙だと思います。男性はmustで捉え、生甲斐や誇りなどと通じる意味合いを
    持っているというのが今の日本の平均意識だと思います。
    男性は仕事に変な?意味合いを持たせ過ぎて意地を張る、だから疲れるのかも。
    その点、女性の方が感性的であっさりとして肝が据わっている気がします。
    なので、次のステップにもすぐ進めるのだと思うのです。
    こういうのは見習わなければと我ながら思います。

  3. エリナ Says:

    合わないところだから3カ月で辞めたと他人に言っても別に恥ずかしいことじゃないと思います。
    転職を何十回もくりかえすとかになるとちょっと言えなくなるかもしれないし、いきなり辞めますと言って突然辞めることに比べたら。。。
    正社員だったからもったいないねという感想はあるかもしれません。
    女性でも何十年も、あるいは定年まで勤めるくらいの仕事をしている人も多く知っていますが、男性の方が家計を支えるためとか、世間の目があったりして仕事に対するプレッシャーはまだまだ強いでしょうね。

    なんか私のコメントは肯定的でないかもしれませんね。前から読ませてもらっていてたまに二条さんの書くことに矛盾を感じることもあったので。人によっていろいろな意見、感じ方があるということを知ってもらって、考え方の修正をしたり、イヤ自分はこれでいいんだと思うのも自由ですしね。
    でもあんまり書き込まないようにします^^;

  4. なずな Says:

    適切な状況判断は、誰にとっても難しいことですが、二条さんのおっしゃるとおり、ひきこもりの人にとっては特に大事なことのように私は思います。

    昔の私は、ミスをすると気が動転してしまい、さらにミスを重ねるというタイプの人間でした。しかし、ある上司に出逢って変わることができました。彼は、「ミスは誰だってするから、いいんだよ。ただし、ミスした後のフォローが大事。そこできちんと挽回するように」と口すっぱく言って、私を具体的な対処方法を指導してくれました。

    起きてしまったことをどう対処するか。どれだけ冷静に、早く挽回するかを教わりました。ミスした事実よりも次の行動に集中することで、冷静さを取り戻す癖がついたように思います。

    ミスした後の、挽回・対処方法の良さから、ミスする前よりも相手から信頼を得たことは何度もあります。ミスを起こさない人よりも、ミスを起こしてもそれをカバーできる人のほうに、人は安心感と尊敬を抱くような気がします。

    ちなみにミスへの対処力というのは、1回では絶対に身につきません。ミスを重ねて、それに対する対処方法を何回も経験して、そしてそのうち簡単にできるようになっていきます。その過程で、ミスする回数も減っていきます。ミスを重ねないと、ミスの少ない人間にも、ミスへの対処の上手な人間にもなれないということですね。

    ミスに気が動転してしまう人間だったときの私は、ミスというものを「取り返しのつかないもの」だと捉えてしまっていたように思います。だから、気が動転してしまう。

    でも、このミスをどう挽回するかが大事なのだ、と思えるようになれば、ミスすることも怖くなくなります。これも正しい状況判断の1例だと思います。

    たぶん彼女は、会社を3カ月で辞めてしまうことを、取り返しのつかないこと、恥ずべきこと、というようには捉えていないのだと思います。もちろん、そういう人を軽蔑してはないでしょう。

    たぶん二条さんには、(自分自身も含めて)短期で辞めてしまうような人を軽蔑する気持ちが自分の中にあるのではないでしょうか。それで、自分が同じように他人から評価されることを極端に恐れるてしまうのではないでしょうか。

    彼女の話からは、「短期で辞めることを軽蔑しない人もいる」という事実を認識することが適切な状況判断なのではないかと思います。

  5. 白黒少佐 Says:

    携帯からはじめまして。仕事の休憩時間に偶然ブログを発見し、時折自分自身の事を言い当てられたかのように錯覚して以来、拝読しておりました。
    …おりました、と言うのは、実はつい先ほど、上司から本社に顔を出すよう支持を受け…えぇ、たぶん事情聴取のうえ解雇でしょう。心療内科へ通院していたのを隠して、挙句に坑不安薬の飲みすぎで緊急搬送された週明けですもん。
    金曜に搬送された直後から覚悟していても心にズシッとのし掛かる辞職。
    でもS子さんはそれをサクッと受け止めるどころか、反対に自分から『辞めちゃいました♪』と言える。
    僕とS子さんの違いって、自分のやりたい事があるかどうかが一番大きい気がします。
    これまでの記事から、二宮さんが本気で社会復帰したい意志を強く感じました。
    もしかするとS子さんから何かしらのきっかけを学べるかもです。
    マトモな就労なんて一般人でも難しい世の中、どうせならそう言う人の縁を大事に出来るようになることから目指してみては?
    いきなり長文雑文で偉そうに乱入して申し訳ありません。ではでは ノシ

  6. 二条淳也 Says:

    パトリオットさん

    はじめまして、こんにちは。

    私のブログを楽しみにしていると言って頂けて嬉しいです。良いところがあると言われると、やはり嬉しいものです。

    こういう世の中、正社員の方々の苦労も大変なものだと思います。

    これからもよろしくお願いします。

  7. 二条淳也 Says:

    らららさん

    私の感触でも、ひきこもりは圧倒的に男性が多いですね。私もまた、仕事を必要以上に重く捉えてしまいがちです。「仕事で自己実現しなければ」と考えてしまいます。

    「たかが仕事」と割り切れれば、もう少し楽になるのかもしれないのですが……。

  8. 二条淳也 Says:

    エリナさん

    たしかに「世間の目」はありますね。「世間の目」が全てのようにすら感じることもあります。社会的評価に男性はかなり敏感ですね。

    私のブログはたしかに矛盾が多いかもしれません。ですが、自分では矛盾とは思っていません。「母親なんて死んでいい」と思うこともあるし、「母親は大切な人だ」と思うこともある。それは矛盾ではなく、心が揺れ動いているのであり、AとBのあいだを行ったり来たりしているのです。そんな感じで納得して頂ければ幸いです。

    気が向いたらコメントして下さい。

  9. 二条淳也 Says:

    なずなさん

    なずなさんの言う通り、本当にひきこもりにとって、状況判断は大切です。S子さんは、会社を辞めたことを明らかに重大とは捉えていませんでした。これは見習いたいですね。

    まさしく、私自身が短期で辞める人を軽蔑してしまいます。だからこそ、私も自分自身を軽蔑してしまう。これは直すべきところでしょう。

    それにしても、なずなさんは良い上司に恵まれましたね。

  10. 二条淳也 Says:

    白黒少佐さん

    はじめまして、こんにちは。

    心療内科通院を隠し、救急搬送されたら解雇されるのですか。ちょっと驚きですね。どちらも仕方のないことであり、白黒さんに非があることではないのに。

    私もなんとかして社会復帰したいです。ただ、普通の会社勤めは難しい。そこで自宅就労の可能性を探っています。

    またお時間がある時に、遊びに来て下さい。

    お大事に……。

  11. エリナ Says:

    いつも一人一人にお返事書いて頂きありがとうございます。
    私が矛盾を感じたところは、「長期間続けることを至上命題にしてしまう」「S子さんの辞めたことを平気で話せる神経」とまで書いているのに、以前、ご自身が「人間関係が不器用なので、短いスパンで職業をどんどん変えていった」と書いていたので「えっ?」と思ったのです。
    「~と話せる神経」ってよっぽどひどいことを言った場合に使うかも。
    「S子さんは辞めたことをケロりと言っていたが、自分も転職を繰り返したのでえらそうには言えないが、やっぱり短期で辞めることは敗北感や情けなさを感じるし、他人には安易に言えない」くらいならひっかることなくすんなりわかるのですが。

    私も社会不適応なところがあるので、転職やひきこもりについて悪いとは思っていなくて、二条さんの書く文章に共感できる部分もありますが、感覚的には違う部分もあります。
    二条さんのブログには共感すると書かれるコメントも多いと思うので、これからもがんばって書いて下さいね。私も自分とは違っても人の考えを参考にしたいなと思うことがあるので、また見にきます。

  12. 二条淳也 Says:

    エリナさん

    こちらこそ、読んで頂いてありがとうございます。

    エリナさんの指摘したことですが、顔見知りの人に言うのと、ブログで言うのとでは違うんです。S子さんのような顔見知りには、情けないことは言えません。でも、ブログは匿名性が保障されています。「二条淳也」という人間がどんな顔でどんな声か、ほとんど誰も知りません。だから、ブログではわりと情けないことが書けるのです。

    ひきこもりを悪く思っていない人は、かなり貴重ですね。

    感覚的には違うと感じることもあるでしょうが、暇があればまた来て下さい。

  13. みき Says:

    こんばんは。
    いつも返信ありがとうございます。
    実は私も、高齢ひきこもりの一人です。
    現在、心の病の治療中と体調不良で仕事をしていません。

    実家からの仕送りで生活しているのも、二条さんと似ています。
    生活保護を申請することも考えましたが、福祉課から、何やかんやと、上手くあしらわられて終りだろうと思って申請しません。

    両親の不仲。気が強くて父や私に、何かにつけて語気を荒げて、当たる母親に育てられて、幼い頃から傷ついてきましたから。

    もう少し暖かくなったら、短期でも仕事を決めたいものです。

  14. 二条淳也 Says:

    みきさん

    こんばんは。

    みきさんも高齢のひきこもりでしたか。仕送りで生活している人はわりと少数派なので、ちょっと驚きました。福祉課の対応は、それはそれはひどいもので、私はもう絶対に行きたくないですねえ。。。

    短期でも、働く意思があるのはすごいですよ。無理しないで下さいね。

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