生きててごめんなさい。

父が仕送りの入った封筒を持ってやって来た。

二人で外食をして、別れた後、部屋で封筒を開けてみると、いつもよりやや少ない金額が入っていた。

そして、封筒の中に、一枚の紙切れが入っていた。

〈淳也 今月は少なくてごめんなさい。父さん、来月はがんばる〉

それを見た時、胸が張り裂けそうになった。

ごめんなさいだなんて! 俺のほうが謝るべきじゃないか!

心の底から、自分が生きていることが申し訳なく感じた。本当に、

(父さん、生きててごめんなさい!)

と思った。

中年の男が自室にひきこもり、仕送りを持ってきた父親に「少なくてごめんなさい」と言わせてしまう。これほどの親不孝があるだろうか!

世界中に沢山の親不孝者がいると思うのだけど、私と匹敵するほどの最低息子はまずいないだろう。考え得る限りで、最悪の人間である。

「頑張れ」や「強く生きろ」という言葉なら、まだマシだった。「仕送りが少なくてごめん」という言葉は、私の胸に鋭く突き刺さった。年老いた父に「来月はがんばる」と言わせてしまう私は、文字通り「生きている価値のない人間」である。

中年のひきこもり息子を持った父の絶望は、大変なものだと思う。もはや生きていること自体が罪でさえある。「今月はこれでやりくりしてくれ」という言葉ならまだ分かるが、「少なくてごめん。来月はがんばる」というのは、文字通り痛恨でさえあった。正直、封筒の中に入っていたお札が正視できなかった。

(俺はどれだけ父さんを苦しめれば気が済むんだ!)

本当にそう思った。

子供が生きていることが親孝行だ。そう言ってくれる人がいるのだが、今日の言葉を見てしまうと、もうそれを信じることができない。自分が死ぬことが最大の親孝行なのではないか。どうしてもそう思えてしまう。

封筒の中の紙切れは、たぶん、私を一生苦しめると思う。私はあの紙切れを毎日見て、毎日苦しむべきかもしれない。私は父に、絶対に言わせてはならない言葉を言わせてしまったのかもしれないのだ。

父さん。生きててごめんなさい。

 

14 Responses to “生きててごめんなさい。”

  1. 馬の助 Says:

    二条さんは充分に頑張っているしそれなりの苦労をしていると思います。ひょっとすると二条さんはブラック企業の正社員以上のストレスを抱えていると思います。

    また、これまでに書かれたように、子どもの頃から大変な目にあって来たのだから自分を責める必要はないと思います。二条さんは最低な息子じゃないと思います。世の中には自分の親を殺す人もいるのだから。

    それに、二条さんのおかげでお父さんは子を心配すると言う生きがいをもっているから安易にボケる事が出来ないで長生きしてるのかも知れません。お父さんは絶望なんかしていないと思います。絶望していたら、「お前とはもうこれまでだ!生活保護を受けろ!」と言って二度と訪れて来ないと思います。だからお父さんは二条さんの事を絶望していないと思います。これからもお父さんに心配をかけて、頑張らせてあげてください。

  2. なずな Says:

    あなたのお父さんは、あなたをもっと苦しめるために、わざわざ一筆書いて封筒にいれるような方でしょうか。たいていの人は、メモ一筆をいれることすら面倒だと感じます。しかし、心ある人は、それをしたためます。

    あなたのお父さんは、金額が少ないことを本当に申し訳ないと思っているから、それを入れたに違いないと思います。

    たぶんあなたのお父さんは、いつも苦しんでいるあなたをみて、「お前をもっと幸せにしてあげられなくてごめんよ」といつも懺悔しているような気がする。そしてあなたを幸せにできていない慰謝料のつもりで、お金を渡しているのではないでしょうか。 

    世界一の親不孝者とか、そんな風に人と比べる必要はないと思う。
    こんなにも自分のことを気にかけてくれる人がいて、金額が少ないと心苦しく思うくらいあなたを想う人がいる、というその一点を、単純に素直に、ありがたいなあ、かけがえがないなあと感じるだけでよいのではないでしょうか。

    とにかくあなたのお父さんは、あなたに幸せでいてもらいたいと思っていて、それでお金を持ってきてくれている。もしも、あなたをさらに不幸にしたければ、お父さんができることはたくさんあります。

    目の前に表れている幸せな瞬間の一瞬を、ちゃんと味わうことに集中してもいいと思いますよ。
    お金と手紙に表れているお父さんの愛情を、あなたが心で拒否してしまうなんてさみしい。

  3. ららら Says:

    「生きててごめんなさい。」なんて云わないで。
    二条さんの魂はまっとうだと思うんです。
    父さんへの感謝と申し訳なさを感じている。
    そして、お父さんも素敵な人と思う。

  4. エリナ Says:

    紙きれが苦しめるというより、すでに老いた親からお金をもらうということが心苦しいのだと思います。
    私もなるべく対人摩擦の少ない仕事はなんだろうと探しているところですが、まだ経済的には楽している方かもしれないので、もし老親に働かせてお金をもらうとか、子どもを養っていかなければいけないというせっぱつまった状況になれば、仕事の内容や人間関係がどうのこうの言ってる場合じゃなくなるのかなと思うのですが、そうでもないんですね。
    自分を責めないで下さいね。誰でもどうしてこれができないんだろうというものがありますから。

  5. 二条淳也 Says:

    馬の助さん

    頑張っていると言って頂けて、嬉しかったです。

    なるほど、たしかに私以上に親不孝な息子もいるかもしれませんね。子を心配する生きがいというのは、言われて初めて気がつきました。安易にボケないのであれば、私がひきこもっていることも、何らかの意味があるのかもしれませんね。

    本当にありがとうございました。

  6. 二条淳也 Says:

    なずなさん

    確かに、父は私を苦しめるために一筆書くような人間ではありません。慰謝料のつもりでお金を持ってくるという視点は、とても新鮮に響きました。

    父からの仕送り、確かにもっと単純に喜び、単純に感謝するべきかもしれませんね。

    なずなさんは人の親でしょうか。なんとなく、子供を持つ親からの意見のように聞こえて、胸を打たれました。

    愛情をもっと気軽に受け止められる人間になりたいです。

  7. 二条淳也 Says:

    らららさん

    父をこれ以上困らせたくないので、何とかして生き延びる方法を見つけたいです。

    たぶん父もそれを望んでいますので……。

  8. 二条淳也 Says:

    エリナさん

    年老いた親からお金をもらうことが心苦しい。全くその通りです。

    誰でもどうしてこれができないんだろうというものがある。そうですか。それを聞いて、少しホッとしました。

    エリナさんもご自分を大切にして、ストレスの少ない道を選んで下さい。

  9. なずな Says:

    二条さん
    わたしは人の親ではありませんが、親であってもおかしくない年齢ですね。

    親に感謝するべき、一般的にはそうかもしれませんが、
    あなた自身は~するべきというボキャブラリーを持たないほうがいいと思います。

    ~するべきというルールを自分の中に持っていると、「~するべきなのにしていない、できていない」と
    いう自分を否定するはめになります。

    あなたは「~するべき」という思考をたくさん持ってしまっているのでは、ないですか?

    親に感謝するべき、とか、働くべきとか、そういうルールに縛られる必要はないと思います。
    いったんルールから自由になって、本当に自由になって過ごしてみてほしいです。

    本当に心があ自由になって、やりたい放題にやったときに、
    いつか、
    他者への感謝が生まれる瞬間があります。
    そのときに、「あの人に私は~したい、~するべきだ」という自然な感情が生まれることでしょう。

    自分の心の中に自然の感謝と欲求が生まれる日まで、もっと心を自由にしてほしいです。
    本当に自分の心を解放して、好きなように生きたら、必ずそういう瞬間がやってきます。

    親に感謝なんて「するべき」ではないです。
    でも、親に感謝する、という感情を持っていない人は、人生損しているなあと思います。

    何かに感謝するときって、本当に心が気持ちいいですよね。

  10. 二条淳也 Says:

    なずなさん

    「~すべきなのに、できていない」という感覚は常に持ってます。というか、なんとなく罪悪感を失ったらその時が本当にお終いかなと思ったりします。

    自分のやりたいことをやっていればそれでいいのかもしれませんが、そのような生き方が親に対して申し訳ないとも思っています。

  11. すべてに Says:

    すべてにごめんなさい
    ただただ神様だけを恨みます

  12. 二条淳也 Says:

    すべてにさん

    なんとも。。。

  13. レリコー Says:

    二条さんはじめまして。

    貴方様の御気持ちとても理解できます。

    私の父も今年で70になる父親がいます。ちなみに両親と同居してて私も引きこもりです。

    去年、勤務先の会社の上司からパワハラを受け適応障害をい自主退社し、同時に結婚を前提にお付き合いしてた人とも破談となり、未だに社会復帰できずに悶々とした日々を親元にて暮らしております。

    しかも、稼ぎでの収入がないため多少の貯金でなんとか生活できていますが病院へ通院する為の健康保険料等は父親に面倒看てもってます。

    でも、このままでは不味いと思う気持ちもありツラい体に鞭叩いてこれから就活もしていこうと思ってます。勿論、両親に面倒かけてた分は必ず恩返ししようと思ってます。

    二条さんにも明けない夜はないのです。罪悪感に思うのならお父様が生きてるうちに恩返しをしてからでも遅くはないと思います。

    どうか、死ぬという選択肢だけは避けて下さい。親より先に死す、、それこそ最大の親不孝です。

  14. 二条淳也 Says:

    レリコーさん

    こんにちは。

    上司からのパワハラ、さぞかしつらかっただろうと思います。パワハラのほとんどが「仕事上の指導」と思わされるため、自分もそれに耐えなければならない。本当につらいことだと思います。

    力強いお言葉、ありがとうございました。

    明けない夜はないですよね。

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