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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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守護石

二日後
避難していた村人たちが、恐る恐る様子を見に戻ってくる。辺りはシーンと静まり返っていて、蜂どころかモンスターの一匹もいなかった。
「あれ……どうしたんだ?」
「クイーン様の怒りは収まったのかな?」 
そんな事を言いながら、村人たちは首をかしげる。村の中を確認した彼らは、すぐに驚きの声をあげた。
「な、なんだこれは!泥棒か?箪笥に隠していた金がなくなっている!」
「お店の蜂蜜も全部取られているわ!」
村のそこかしこから悲鳴があがる。村人たちがろくな物も持ち出せずに逃げ出していたのに、誰かが火事場泥棒を働いていたのである。彼らは怒りの声を上げていた。
「いったい誰がこんなことを!」
怒り狂う彼らは、すぐに一枚の紙を発見する。そこには勇者アベルと名乗る無法者が盗みを働いたことが書かれていた。
それより彼らを怒らせたのは、クイーンを倒したと書かれていたことである。
「ま、まさか、クイーン様までも……」
それを見た彼らは真っ青になる。彼らの生活を支えているのは、蜂蜜と酪農である。その二つはここが黄金蜂の縄張りだからこそ成り立っているものだった。
もし彼らがいなくなれば蜂蜜は手に入らなくなり、酪農も他のモンスターによって牛が襲われるようになってすぐに全滅するだろう。
今までは少々のトラブルがあっても、すぐに収まり蜂と人間は平和共存してきた。しかしクイーンに手を出したとなれば彼らもおしまいである。
「すぐにいくぞ!」
あわてて村人全員で黄金蜂の巣に向かうのだった。

黄金蜂の巣
あわててそこに向かった村人たちは、傷つき倒れたクイーンを見て絶句する。
「クイーン様!しっかり!」
「ポーションを持ってきました!」
あわてて村人が斬られた傷口に薬を塗りこむ。
すると、クイーンは薄く目を開けた。
「お前たちか……」
「すいません!!!!!!!お、おらたちは何も知らなかったんです!」
村人たちは慌てて土下座する。その周りでは、生き残っていた黄金蜂たちが怒りの羽音を立てていた。
「やめな!」
村人に針を突きたてようとした蜂たちを、クイーンは厳しく叱責する。蜂たちは不満そうになりながらも、彼らから離れていった。
「クイーンさま……」
「うちにもわかるよ……お前たちは無実だってね。あのやろうが…かってにうちたちを……」
クイーンは無念そうに呪詛を漏らす。
「……クイーン様を傷つけたの、アベルって名前みたいです」
ナフィが涙を流しながら、書置きをクイーンに見せた。
「アベルか……奴は偽者だ。本当の勇者は、マザードラゴンとつるんでいる黒い髪のガキだ。奴に伝えてくれ……奪われた兜と鎧を……取り返すようにと」
クイーンの瞳の色がどんどん薄くなっていく。
「クイーン様!」
「あんな奴が魔皇帝を倒してしまったら……取り返しのつかないことがおこる……」
そこまで言うと、クイーンは息を引き取った。
「クイーン様!」
村人たちの中から啜り泣きが沸き起こる。彼らにとってクイーンは、恐ろしくも頼もしい存在だった。それなりの義務を果たしていれば蜂蜜も分けてくれ、危険なモンスターからも守ってくれる。ある意味領主のような存在だったのだ。
悲しみにくれる村人たちの前に、黄金蜂が壊れた巣からひとつの蛹を連れてくる。
その蛹の殻を破って一人の蜂蜜色の髪をした美少女が出てきた。
「母は死にました。次の長は私が引き継ぎます」
「プリンセス・ビー様!私たちは変わらぬ忠誠を誓います」
村長が彼女の前にひざまずく。村人たちも彼に習った。
「……母がいった、黒髪の真の勇者について知る人はいませんか?」
プリンセスビーは冷たい顔をして聞く。村人たちはお互いに顔を見合わせた。
「えっと……」
「……私は知ってます……」
声を上げたのは、黒髪の少女ナフィである。
「……真の勇者は……私のご主人様の婚約者である……リトネ・シャイロック様です」
ナフィが言うと、村人たちもうなずいた。
「そういえば、各地で魔族退治をしているという噂を聞く……」
彼らの話を聞いて、プリンセスも頷く。
「……私はその者に協力して、母の遺言を果たさねばなりません。後のことは任せます」
そういうと、プリンセス・ビーは羽を広げて飛び立っていった。

シャイロック家
領地に帰ったリトネは、リトルレットの工場を視察していた。
「へえ……結構すごいね」
「でしょ。実家も多くの人を研究のために送ってくれたの」
リトルレットはうれしそうに胸を張る。リリパット銅爵家からは多くの職人や土の魔法使いがきて、リトネが召喚する機械の修復や整備を行っていた。
冷蔵庫やエアコン、電子レンジなども改造して、今までは有線式だったものを雷の魔石を使った電池式に改造することで長期使用が可能になっている。
すでに一部の富裕な貴族には高値で販売を始めていた。
「父上に送ったら、大喜びしていたよ。やっと地上でも快適な引きこもり生活ができるようになったって」
「……ひきこもりなのかよ……」
リトネは苦笑する。
「後は、自動画像計算型遊戯ゴーレムが欲しいって駄々こねている」
「それを渡したらますますひきこもりになると思うけど、まあいいや。『異世界で捨てられている、ゲーム機とソフトこい」
リトネかせ念じると、30年くらい前に発売された初期のゲーム機とソフトが大量に現れる。
「これがそうなの?」
「お父さんが言っているものとはちょっと違うかもしれないけど……」
そういってまだ使えそうなゲーム機を選び、古びたカセットを差し込んでテレビに接続する。
かなり荒い映像だったが、なんとかゲーム画面を映す事ができた。
リトネが操作すると、ヒゲをはやしたおじさんが飛んだり跳ねたり画面の中で大暴れしている。
「ち、ちょっと、面白そう。貸して!」
「待ってよ、そんなに乱暴に扱ったら!あっ!」
リトルレットがコントローラーを奪おうとした拍子に、ゲーム機に当たる。次の瞬間画面が停止した。
「え?」
「これはかなり古いものだから、ちょっと触れただけで壊れるんだよ。慎重に取り扱わないと」
「ごめん……」
リトルレットはしゅんとなる。
「まあいいや。なんとかこれを使えるようにして、テレビとセットで売り出そう。特に金持ちに飛ぶように売れそうだ!」
リトネの思惑は当たり、その後ゲーム機はこの世界でも大ヒットするのだった。

数日後
リリパット銅爵家から手紙と贈り物が届いた。
「なになに……『先日、自動画像計算型遊戯ゴーレムを送っていただきまして、まことにありがとうございました。もうこれで不自由はありません』か。あの人らしいな」
リトネはリリパット銅爵の顔を思い出して、クスクスと笑う。
「『つきましては、お金がかかる住居エリアの発掘をあきらめようと思います』だって。困ったな。あそこには飛空艇ペガサスウィングがあるんだけど。でもいいか。『天雲人の小船』を確保しているし」
リトネはあっさりと割り切る。
先日、『天竜の靴』を履いた状態で小船に触れると、船の入り口が開いて中に入ることができた。リトネがはいていた靴に反応したらしい。
どうやら天竜シリーズは『天雲人の小船』や『ペガサスウィング』などの先史魔法文明の遺産を動かすキーアイテムらしかった。
「でも、魔皇帝を倒すにはアベルの力が必要なんだよな……」
彼のことを考えると頭が痛い。魔皇帝はどうしてもアベルにしか倒せないのである。
そのため、アベルのために天竜の靴もちゃんと用意して保管している。
「とにかく、ヒロインは確保できているんだ。後はとっとと魔皇帝を倒してもらって……ん?」
夢中になって考えていると、もうひとつ包みが届いているのを気がついた。
「あれ?これは……『土の珠』か?」
中から出てきたのは、キラキラと黄色に輝く宝石だった。
「これはリトルレットの守護石なんだよな。なら……」
石をペンダントに加工して、リトルレットを呼んだ。
「リトネ君、『土の珠」ってこれ?」
「……きれい」
リトルレットとなぜかナディがリトネの執務部屋にやってくる。
二人は黄色の宝石を見て、目をキラキラさせていた。
「うん。俺たちが売っている『自転車』とか『電化製品』とかが飛ぶように売れているだろ。そのお金を使って、ツチグーモの事件で埋まった住居エリアを発掘してもらったんだ。ツチグーモの死体からこれが見つかったって、リリパット銅爵が送ってくれたんだよ」
リトネはペンダントになっている『土の珠』をリトルレットの首にかける。
「これはリトルレットのものだよ。大切に身に着けていてくれよ」
「あ、ありがとう……」
リトルレットはポッと顔を赤くする。なぜかリトルレットについてきたナディは、それを見てプッと頬を膨らませた。
「……リトネ、私のは?」
「え?」
「……リンは『水のサファイヤ』、トーラは『炎のルビー』。そしてリトルレットには『土の珠』がある。婚約者の中で私だけないのはずるい」
ナディはフグのように頬を膨らませている。どうやら婚約者の中で自分だけ守護石を持ってないことが不満らしかった。
「…えーーっと。たしかナデイの守護石『闇の猫目石(キャッツアイ)』は……」
リトネは前世の知識を必死に思い出そうとする。守護石自体はどこにあるかわからなかったが、それを持つ魔公の出現場所は思いだすことができた。
「たしか、闇の魔公は南のポムペイ山に現れるような……」
「……リトネ、すぐに行こう!」
ナディはリトネの腕をひっばる。
「痛い痛い……待ってよ。闇の魔公が出現するのは今から5年も後のことだよ」
「……リトネの言うことは当てにならない。現にほかの魔公は次々と出現した」
ナディは頬を膨らませて拗ねている。
「あはは。ナディちゃん。魔公が出現するってことは、多くの人が襲われて困るってことだよ。今無理に探すことはないんじゃないかな?」
「そうそう。第一、今行っても何もない可能性のほうが高いよ」
リトルレットと二人で膨れるナディをなだめる。
「……むー」
「闇の魔公が出たら、みんなでボコボコにして守護石を取り上げられるように、今から修業しておこうよ。俺もがんばるからさ」
「……わかった」
しぶしぶナディは納得する。しかし、事態はリトネのゲーム知識を超えて急激に進むのだった。
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