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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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望まれない討伐と火事場泥棒

ヨーホイ村
宿屋の部屋でくつろいでいたアベルとカエデは、騒がしくなったので外をみる。
すると、多くの村人が荷物を持って逃げ出そうとしていた。
「いったい何があったんだ?」
「さあ……」
首をかしげていると、先ほどのアイスクリーム屋で働いていてたナフィという少女が慌てて話しかけてくる。
「……お客さん。逃げる。蜂が襲ってくる」
「蜂って?」
「……黄金蜂。凶暴。この先の谷にいる」
それだけ言うと、ナフィは慌てて反対側の方向に逃げ出していった。
「……よくわからないけど、魔物退治は勇者の役目だしな」
「いこう。アベルちゃん」
アベルとカエデは、人々が逃げる反対の方角に向かっていった。

黄金蜂の谷。
そこには小山のように大きな蜂の巣があった。
その巣の周りに蜂の大群がひしめいている。
蜂たちはアベルたちの接近を察知すると、ものすごい勢いで空を飛んできた。
「よし。やるぞ」
「ええ」
アベルカエデは気合をいれる。その胸のダイヤとエメラルドが、ますます輝いていた。
「……カエデ姉は風で竜巻を作ってくれ。俺はその中から光の魔法で攻撃する」
「……わかったわ」
ダイヤとエメラルドからもっとも安全に蜂たちを殲滅できる戦法が伝わってくる。
「エクストリームトルネード!」
カエデがスピアを振った瞬間、二人を取り巻く強力な気流の結界が発生した。
「キィッ」
二人を取り囲んだ蜂は果敢に突撃するも、気流に流されてバランスを崩す。
「『勇光弾』」
そこをアベルの光魔法に狙い撃ちされ、一方的な虐殺になっていった。
「あはははは!汚らわしい魔物は死ね!」
「そうよ!全滅しなさい!」
竜巻の中で、アベルとカエデの哄笑が響き渡る。
死んだ蜂たちの魔力を吸って、二人は確実にレベルアップしていった。
「あれ?」
アベルは疑問に思う。魔力が高まったことによって、光の弾が細長くなった気がしたのである。
「もしかすると……」
『鋼の剣』を媒介として、今のイメージを載せてみる。光の魔力を硬い弾ではなく、自在に変化できる柔らかくて長い鞭のようにしてみた。
「キィッ」
光の鞭に当たった蜂は、数匹まとめて打ち倒される。
「あはは、これいいな。『柔光鞭』と名づけよう」
アベルはどんどん光の鞭で黄金蜂たちを倒していく。
「やるわねアベルちゃん。私も!」
カエデは竜巻の中に、細くて鋭い風の刃をイメージして混ぜる。すると、竜巻に触れた蜂たちはみるみるうちに切り刻まれていった。
「あはは。トルネードカッター!」
竜巻に真空の刃を混ぜて蜂たちを切り刻む。
あっというまに数百匹はいたであろう黄金蜂たちは全滅した。
「やった!」
「私たち、勝ったね!」
アベルとカエデはハイタッチして喜びあう。倒した蜂から魔力を吸収して、二人の魔力は急激に増大していった。
そのとき、ドドドーーーーーという音がして、小山ほどもある蜂の巣が崩れる。
「貴様たち……よくも我が子を!」
崩れた巣から出てきたのは、ドラゴンほどもある巨大な女王蜂だった。
「ふん。だからどうした!」
「人間を襲うような魔物は、殺されて当然よ!」
二人はレベルアップした高揚感から、クイーンビーを嘲り笑った。
「許さない!死ぬがいい!」
目に憎悪の炎をもやして、クイーンは二人に襲い掛かる。
しかし、数百匹の黄金蜂を殺して力を得た二人にとっては、クイーンといえども敵ではなかった。
「ふん。ただ大きいだけじゃない。カッターレイン!!!!!!」
『風のエメラレルド』が煌き、カエデに新たな魔法を与える。彼女がスピアを振ると、真空刃が雨のようにクイーンに降り注ぎ、その羽をズタズタに切り裂いた。
「ぐあっ!」
クイーンの巨体が地響きを立てて落下する。しかし、羽をもぎ取られてもクイーンは二人を襲うことを諦めなかった。
鋭い牙をカチカチと鳴らして威嚇しながら、戦車のように迫ってくる。
「しねっ!」
次の瞬間、クイーンの毒液が吹きかけられる。
「危ない。『剛勇盾』」
とっさにアベルはカエデをかばい、光のバリアーを張る。
二人は大量の毒液をもろにかぶった。
「くくく……その毒液すべてを溶かす『女王水』。これで貴様も……なに!」
勝利を確信していたクイーンは驚愕する。
光が薄れていくと、中から二人の人影が現れたからだった。
「そんな!『女王水』はどんなものでも溶かすはず。それを浴びて平気なわけが…はっ」
魔力を使い果たしたクイーンの前に、金色の兜とスーツを装着した少年がたった。
「それは、天竜の兜と鎧。ばかな!なぜあんたが……うちらを滅ぼす!」
「知るか!」
アベルはクイーンの前に立ち、ヘルメットを脱ぐ。その下から現れたのは、以前ここにきた黒髪の平凡な少年ではなく、金髪の美少年だった。
「だ、誰だ……」
「死ね!!!!!!」
アベルは無情にも、「鋼の剣」を振り下ろす。
こうしてクイーンビーは無念のうちに倒されるのだった。

ヨーホイ村。
黄金蜂たちを討伐したアベルとカエデが戻ってくる。
「みんな、喜ぶがいい。俺たちが黄金蜂を倒したぞ!」
「そうよ。もう何も心配することはないのよ……あら?」
大声で自分たちの手柄を言い立てていた二人は、何の反応もないので首をかしげる。
いくら呼んでも、村には人っ子一人いなかった。
「なんだ……もうみんな逃げたのか」
「せっかく私たちが退治してあげたのに。やっぱり平民は臆病でだめね」
危険なモンスターを倒した勇者として賞賛されると思っていた二人はがっかりする。
どこの家に入ってみても、まったくの無人だった。
「つまらないな」
「もう寝ましょう」
二人は宿屋に帰って、眠りにつく。
翌朝になっても、誰も帰ってこなかった。
「カエデ姉。そろそろいこう」
「そうね……あ、私いいこと思いついちゃった」
カエデはそういうと、店に入っていく。
「カエデ姉、いいことって……え?」
続いて店に入ったアベルが見たものは、勝手に店の中の品を取って袋に入れているカエデだった。
「何をしてるの?」
「黄金蜂を倒した報酬よ。せっかく私たちが倒してあげてたんだから」
そういいながら、店にあったお金も遠慮なくとっていくカエデだった。
さすがのアベルも呆れてしまう。
「えっと……それはまずいんじゃ?」
「平気よ。あんな強いモンスター倒したんだから、本来ならもっとたくさんのお金をもらえて当然。でもみんな逃げちゃったから、仕方なくもらっているの」
とうとうカエデは高価なものやめぼしいものを全部勝手に取っていった。
「でも……」
「あはは。大丈夫だって。ちゃんと書置きしておけばいいから。ほら、アベル君も手伝って」
カエデにせかされ、しぶしぶアベルもほかの店や村長の家を回ってお金を回収した。
「これでよし。えっと、黄金蜂のクイーンを倒しました。報酬にお金をもらっていきます。勇者アベルより」
アベルの署名がはいった書置きを残して、二人はヨーホイ村を去っていった。
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