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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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ヨーホイ村

リトネたちがグールたちと戦っていたころ……
王都を出発したアベルとカエデは、アンデス領の南方のルートを通って大陸西部を目指していた。
「カエデ姉、旅は辛くない?」
御者をしているアベルが、後ろのカエデを気遣う。
「アベルちゃん、大丈夫よ。おじ様はちゃんと最新式の馬車を用意してくださったし」
カエデはそういって、にっこりと笑った。
「風の墓場」から持ち出してきた財宝をセイジツ金爵に献上したおかげで、それなりのお金と乗り心地のいい馬車を手に入れたアベルたちは、ゆっくりと進んでいく。
その途中で、とある村にたちよった。
「いいにおい!それに綺麗」
「たしかに。のどかな村だなぁ」
アベルが馬車を止めて周囲を見渡す。一面に色とりどりの花が咲き、いいにおいが漂うお花畑が広がっていた。
ほかにも広い草原には牛が放牧され、のんびりと草を食べている。
「アベルちゃん。今日はここに泊まりましょうよ」
「「そうだね。いそぐ旅でもないし」
アベルとカエデはその村に向かっていった。
「お客さん、地上の楽園ヨーホイ村にようこそ!」
素朴な感じの村娘が売店の受付をしている。彼女は美しくはなかったが、健康的な生気に満ち溢れていた。
「ヨーホイ村っていうのか」
「はい。ここはこの国でも一番美しい土地といわれているんですよ。王室にもヨーホイ産のミルクやハチミツを献上しているんです。おひとつどうぞ」
土産物屋の娘から、ハチミツのついたパンを差し出される。
一口食べたアベルとカエデは、あまりの美味しさに笑みを浮かべた。
「うまい」
「本当に美味しいわ」
お互いに顔を見合わせて感嘆の声をもらす。
「なあ、これって売ってないのか?」
「どうぞ。見ていってくださいね」
娘の案内で店内を見ると、ガラスの容器に入れられているハチミツがたくさんおかれていた。
「あれ?これはガラスの容器か?何でこんなところに?」
それを手にとったアベルは疑問に思う。ガラスの生産は王都の一部で行われていたが、貴族の家の窓などに使われている高価なものだった。
ここにあるガラスは中にハチミツが入れられ、鉄の蓋でしっかりと閉じられている。壷や木のたるとは違って完全に密封されていた。
「シャイロック家のお坊ちゃまにハチミツを献上されたところ、大いに喜ばれてこの容器を領都エレメントから送ってくれたのです。この中にハチミツを入れて封をしたら、長時間の保存が可能なんですって。おかげで助かりました」
娘は誇らしげに告げる。シャイロック家の坊ちゃんと聞いて、とたんにアベルは不機嫌になった。
「あいつか……くそっ」
思わずビンを地面に叩きつけたくなるが、カエデに呼ばれる。
「ねえアベルちゃん。買って行きましょう」
「あ、ああ」
「まいどありがとうございます。お1つ1アルです」
しぶしぶとアベルは金を払い、店をでる。
村を歩いていると、他にも奇妙な店があるのに気がついた。
「アイス……クリームってなんだ?」
「女の子がいっぱい買ってるね」
カエデが興味津々で見つめる。白くて柔らかそうな何かを、茶色の何かに乗せて売っていた。
「アベルちゃん。食べてみましょう」
「うーん」
あまり気が進まない様子のアベルを引っ張って、行列に並ぶ。店の名前は『ナディ商会・ヨーホイ支店』と書かれていた。
五分ほど待って、売り子の黒い髪のダークエルフの少女から手渡される。
「これはなんなんだ?」
「……シャイロック家の……お嬢様が……作ったお菓子……甘くて……美味しい」
独特のしゃべり方をする少女の名札には「ナフィ」とあった。
「シャイロック家のお嬢様だって?」
「うん……奴隷にされた私を救ってくれて……やりがいのあるお仕事につけてくれた神様みたいな人。……一歩でもちかづけるように……努力する」
その少女は自分の主人を心から尊敬している様子で、真似をしているらしい。どこかで似た少女に会った気がして、ますますアベルは嫌な気持ちになった。
「アベルちゃん。これ美味しい!」
対照的にカエデは喜んでいる。
「もういくよ」
「あっ、待ってよ」
不機嫌になったアベルは、アイスをカエデに押し付けて店をでるのだった。

アベルをなだめながらカエデが散策していると、村はずれの丘に通じる道に看板があった。
「危険! 香蜜花の園 関係者以外立ち入り禁止」と書かれている。その周りには厳重に柵が作られていた。
それを読んだカエデは歓声を上げた。
「すごい!香蜜花ってここにあったんだ。アベルちゃん知っている?」
「い、いや」
あまりのカエデのハイテンションにちょっと引きながら、アベルは正直に知らないという。
「もう……アベルちゃん修業ばかりして、ちっともお花のことを知らないんだから。りっばな勇者になるためには、こういったことも知らないといけないわよ」
アベルをたしなめながら、カエデは説明をした。
香蜜花とは読んで字のごとく、濃密な香りと蜜をもつ最高級の花である。上流階級の女性の間では、これを男性から贈られることが無上の喜びとされていた。
「なんでも、陛下がアントワネット様に贈って、お二人はお付き合いを始めたという話よ」
「へえ…」
「陛下はこれを手に入れるために、国中に布告を出したけど、なかなか見つからなかったみたい。それというのもね……」
なぜ香蜜花を手に入れるのが難しいかを説明する。この花の蜜を好物とする危険な魔物がおり、花に手を出すと必ず襲ってくるらしい。
「魔物?」
「Cランクモンスターの『黄金蜂(ゴールドビー)』よ。毒をもつ危険な蜂で強いから、討伐には高ランクの冒険者が命がけで戦う必要があるみたいね。陛下は一万アルもかけて、やっとアントワネット様に贈る花を手に入れたそうよ」
カエデはそういって、くすくすと笑った。
「……もしかして、僕の父親は……」
「なに?」
何かをつぶやきかけたアベルに、カエデは無邪気な笑顔を向ける。それを見て、アベルもカエデに花を贈りたくなった。
「カエデ姉。ここで待ってきてくれ。僕も香蜜花を取ってくれよ」
「え?で、でも……」
「カエデ姉に花を贈りたいんだ」
アベルはそういうと、立ち入り禁止の柵を剣で壊して中に入る。
「アベルちゃん……」
その後姿を、カエデは顔を真っ赤にして見送っていた。
ホラー部門『穢れた救世主は復讐する』現代ドラマ部門『元ニートは大家を目指す』共にカクヨム読者選考を通過しました。
応援していただいた皆様ありがとうございました。
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