ラーメン屋さん③

このラーメン屋さんのおじさんは、とにかくよく働く。なぜか店には定休日がなく、突発的に休む日を除いては、いつも営業している。おじさんがいつ身体を休めているのか、とても不思議である。

また、店内は驚くほどキレイにしてある。ラーメン屋である。油で店内が汚れていてもおかしくないのだが、見える範囲に限っていえば、どこもピカピカである。このおじさんがヒマを見つけては掃除をしていることは明らかであり、店内の清潔さが、このおじさんの勤勉さを物語っている。

正直、見ていてつらくなる光景である。

「おじさん」と表現しているが、この人は六十代後半か七十代前半の人である。つまり「おじいさん」だ。私の父もおじいさんであり、休みなく働いている。

ラーメン屋のおじいさんの姿が、私の目には、父の姿とダブって見える。痩せこけた身体、白髪だらけの頭髪、皺だらけの顔、不健康そうな顔色、そしてたまに咳き込むところ。すべてが父の姿を彷彿とさせる。命を削りながら働くラーメン屋のおじいさんの姿は、見事に父の姿とオーバーラップしており、それゆえ、私はこの店に行くことができない。この店に行くと、私に仕送りをするために命を削りながら働く父の姿が目に浮かんでしまい、食事を楽しむことができないのだ。

この店のラーメンの値段は驚くほど安い。これもまた、店から遠ざかっている原因になっている。おじいさんが一生懸命作ったラーメンを安く食べることが、まるで必死に働く父の労働力を安く買い叩いたような気がして、強烈な罪悪感を感じさせるのだ。

店をめったに休まないのは、おじいさんに何らかの事情があるからなのだろう。もしかしたら、どこかの家庭のように、親不孝なひきこもり息子がいて、彼を養うために休みなく働いているのかもしれない。そう思うと、私はあのラーメン屋にとてもじゃないけど入る気になれないのだ。

必死に安いラーメンを作るおじいさんの姿を、私は正視できない。あの姿を見てしまったら、私は罪悪感で正常でいられなくなる。

私にできることは、おじいさんの健康を願うことぐらいだ。

2 Responses to “ラーメン屋さん③”

  1. 田んぼ Says:

    ラーメン屋って大概の客が帰り際に「ごちそうさま」って言いますよね
    それが億劫でラーメン屋に行く機会が限りなく少ないんですが・・・
    やはり「ごちそうさま」が言える程度の社会性は必要ですかね?

  2. 二条淳也 Says:

    田んぼさん

    そうですね。多くの人が言いますね。私も言うようにしています。

    でも、黙ったままの人も多いですから、気にしなくてもいいんじゃないですか?

    単に「食べる場所」って割り切ってもいいと思いますよ。

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