ラーメン屋さん②

このラーメン屋から足が遠ざかった理由はまだある。何度も通っているうちに、私がひきこもりであることがバレそうになってきたからだ。

ラーメン屋さんに行くのは大抵、ランチタイムなのだが、その時間に普段着で来る人はあまりいない。来るのはタクシー運転手やトラック運転手、それに会社員ばかりであって、近所の住人がふらりとやって来ることは、あまりない。

「お客さん、今日は休みなの?」

そんな問いかけをされたことがあって、その時は、

「ええ、まあ」

などと答えたのだが、週に何度も普段着でラーメン屋にやって来たら、当然お店の人も「この人、何をやっている人だろう?」と疑問に思う。私は平日でも普段着でラーメン屋の近くを徘徊している訳で、誰から見ても、まずまともな勤め人ではない。それが発覚することが怖くて、だんだんそのお店に行かなくなってきたのだ。

自分が不審に思われていることを、私は敏感に感じ取るほうだ。お店のおじさんの何気ない視線でも「あ、今このおじさん、俺のこと不審に思ったな」と、すぐに感じ取ってしまう。それが的中しているのかどうかは分からないけど、そう感じ取ってしまったら、それ以降、なかなかその店に行けるものではない。ひきこもりがバレるということは、私にとって何よりも避けたいことだからだ。

自分ではうまく隠しているつもりでも、無職であることは、けっこう簡単に露呈する。ある日、知り合いと会ってしまって、何気なく世間話をしたのだけど、その時、私は「工場で働いている」と説明したのだが、

「……本当に働いているの?」

と疑問の目を向けられ、たじろいだことがある。無職であることを隠し通すことは、かなり大変なことなのだ。

どんなお店でも、常連になってしまえば、必ず職業に対しての質問はされる。その時、私はそれをうまく誤魔化すことができない。「無職なんですよ」と開き直ってしまう手もあるが、そのような度胸は持ち得ておらず、隠し通すことしか考えていない。であれば、常連になりそうになったら、速やかに撤退するしかないのだ。

あのおじさん。私がひきこもりであることを知っても、いつもの笑顔で迎えてくれるだろうか。

4 Responses to “ラーメン屋さん②”

  1. kyotosmoetime Says:

    思いつきの安易な回答ですが、

    ネットショップオーナーになってしまえば如何でしょうか?
    売上月に1万円でも、ネットショップオーナーには違い有りません。

    社会秩序が緩くなったこの時代

    「アメリカのebayや中国のタオバオから個人輸入して、自分のネットショップで販売してるんですわ。。どうも堅気の勤め人が向いてませんでして。。」
    と頭を掻いても

    おじさん族からすれば
    「へえ、若い人は凄いね。インターネットで商売してるんだ。ワシらには付いていけん世界だね。」

    と言う会話も成り立つ気がしています。

  2. 二条淳也 Says:

    kyotosmoetimeさん

    ネットショップのオーナーにはる方法が分かりませんが、自宅でできること、一人でできること、などの理由で、私には向いているかもしれません。私に限らず、全てのひきこもり、そして人間関係が不器用な人にとって、自宅就労は開拓すべき分野だと思います。

    おじさん族にハッタリが効くという意味でも、悪くないかもしれません。

    コンピューターの発展は、ひきこもりに対して、ある種の可能性を示しているので、それをうまく活用したいですね。

  3. あい Says:

    私もお店にいくと緊張してしまいます。店員さんと一度話すと顔を覚えられてしまうのではないか?と怖くなったりもします。次に会った時に”また来てる”と思われるのがこわいです。何か悪いことをしてるわけではないのですけどね。もっと堂々と気にせずにいられたらいいな、といつも思います。

  4. 二条淳也 Says:

    あいさん

    「次に会った時に『また来てる』と思われるのが怖い」というご意見。私もまったく同じです。本当に、「また来てる」と思われることが怖いんです。自分の存在が歓迎されていないと思っちゃうので、どうしてもそんな考え方をしちゃうんです。

    ホント、悪いことをしている訳じゃないので、堂々としたいですね。

    ※あいさん、本当にありがとうございました。こちらこそ、あいさんから元気をもらいました。

Leave a Reply