挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
191/205

株式

「リトネ様、これはすばらしいものですね!」
興奮したサブロウが話しかけてくる。
「ええ。サブロウさんたちソーマ家には、この気球の運用を任せます。これを使って、全国から情報を集めてほしいのです」
「情報ですか?」
サブロウはよくわからないというふうに、首をかしげる。
「ええ。この気球はモノは大量に運べませんが、空を飛んで早く動けます。これを使って、各都市の情報を集めてほしいのです。あそこの都市では小麦が高いとか、こちらの都市では魔石が不足しているとかがいち早くわかれば、有利になります」
リトネに説明されて、サブロウの顔に理解が浮かぶ。
「わかりました!一族の総力を挙げて運用してみせましょう」
サブロウは胸を叩いて、この仕事を請け負うのだった。
「ただ、その代わり、我慢してもらわないといけないことがあるのですが……」
リトネがあることを要求すると、サブロウの顔が曇る。
「ですが……」
「お願いします。我々シャイロック家はアンデス領の騎士たちに公平に接しなければなりません。ソーマ家だけにこのような技術を提供したとなれば、ほかの騎士たちの反感を買うでしょう。それに、風の墓場の魔石を独占するのは、ソーマ家にとっても良いことにはなりません」
リトネに頭を下げられて、逆にサブロウのほうが決まり悪くなる。
「わ、わかりました」
しぶしぶとリトネの要求を呑むのだった。

数日後
ナスカ城に騎士たちが呼ばれる。
彼らは重大なことを告げられると聞いて各村から集まったのだが、実のところ少しシャイロック家に訴えたいことがあった。
「リトネ様はフーマ家のサブロウ殿を重宝しておるが、そもそも今回のグール事件を引き起こしたのはフーマ家の子女カエデだ。そのことに対する罰はないのだろうか?」
「我々を救ってくださったリトネ様には感謝するが、問題を起こしたフーマ家が処罰がないどころか、『風の墓場』の魔石鉱脈まで手に入れることになるのは……」
「サブロウ殿はリトネ様に取り入って、やがてこの地を支配してしまうのではないだろうか……」
各地の豪族である騎士はお互いに話し合う。彼らはアンデス領を救ってくれたリトネに対しては感謝し、シャイロック家の支配も受け入れる気にはなっているが、それとは別にフーマ家が優遇されることに対しては嫉妬の感情を持っていた。
「……これは!」
会議室の騎士の不平不満を、隣の隠し部屋で聞いていたサブロウは驚く。まさか彼らがこんなにフーマ家に対して隔意を持っているとは思わなかったのである。
「どうです?納得していただけましたか?」
一緒にいるリトネが言う。実は今からフーマ家に対してある意味厳しい処分を下すことになるのだが、それをサブロウに納得してもらうために騎士たちの不満を聞かせたのである。
「……すべてリトネ様にお任せします。ご存分にご成敗ください」
サブロウは覚悟を決めた様子で頷いた。
「では、いきましょうか」
「……ええ」
二人は連れ立って隠し部屋を出て、会議室に向かうのだった。

会議室
そこには6つの席が並んで用意され、すでに5人の騎士たちが座ってリトネを待っていた。
彼らの正面には豪華な椅子が用意されている。
ドアが開いてリトネとサブロウが入ってきたとき、騎士たちはサブロウに不快そうな視線を向ける。
豪華な椅子にリトネが座り、開いていた残りひとつの席にサブロウが着席する。
リトネはまず騎士たちに民のことを聞いた。
「グールから戻った民たちは、元気になりましたか?」
「リトネ様のおかげをもちまして、民は元通りの生活に戻っています。彼らに代わって、お礼申し上げます」
一番年長の騎士が代表して頭を下げた。
「それはよかった。では、これから今回の事件についての処分を言い渡します」
リトネが厳しい顔をして言うと、騎士たちはいっせいにサブロウのほうを見た。
彼は覚悟を決めたように、目を閉じて項垂れている。
「騎士フーマ殿。『風の墓場』の封印を解いて、グールを開放したのは貴殿の妹であるカエデ・フーマに間違いありませんね?」
「間違いございませぬ」
サブロウは神妙に答える。
「フーマ殿は事件解決に尽力していただきました。しかし、その功を差し引いても、アンデス領に多大な迷惑をかける原因を作った罪は償えません」
リトネの言葉に頷く騎士たち。
「よって、『風の墓場』はフーマ家から没収。その権利はシャイロック家と他の騎士家に分割されるものとします。異議はありますか?」
「……寛大なるご処分、ありがとうございました」
サブロウはその場で深く頭を下げた。
リトネの処分を聞いて、騎士たちも色めき立つ。
(『風の墓場』が没収されるだと?)
(あの鉱山の権利の一部がわが騎士家にも与えられる!)
(ううむ……リトネ様はフーマ家を優遇するのかと思ってしまったが、公平な裁定ではないか!)
フーマ家が災害の原因を引き起こしたのに、かえって利益を得てしまうと思って理不尽を感じていた他の騎士たちも、『風の墓場』が没収されると聞いて納得するのだった。
「他の騎士には、権利の1/10が渡されます」
リトネが上質の紙で作られた何かの券を騎士たちに配る。
そこには「『風の墓場』持分1000株」と書かれていた。
「リトネ様、この紙切れは何でしょうか?」
騎士たちはそれを見て首をかしげる。
「それは『株券』というものです」
「『株券』ですか?」
「ええ。要するに権利の証明書みたいなものです」
リトネは株券について説明を始めた。
「一口に『風の墓場』の権利を分けるといっても、場所をそれぞれに分けるのには無理があります。必ず魔石の採掘量に差が出て、不公平感を感じるでしょう」
「……たしかに」
騎士たちは頷く。実際、魔石の鉱山はこのアンデス領を支える主産業で、過去にはその権利をめぐって騎士同士で争いが起こっていた。
何度か鉱山の権利を分割して和解ということも行われていたが、同じ鉱山で別な家が入って採掘をしていると必ず揉め事が起こる。結局力づくで解決しようとして、過去には争いで滅びた騎士家もあったのである。
「よって、『風の墓場』の魔石の採掘はシャイロック家が一括して行います。各騎士家からは監査をするための人員を派遣してください。毎年いくら利益が出たかを監査の人の立会いのもと決算し、その利益を株に応じて配当として分配します」
リトネは具体的に数字を出して説明していく。もし風の墓場の魔石採掘で、経費を除いて10万アルの利益が出た場合、5000株をもつシャイロック家に5万アル、1000株をもつ各騎士家に1万アルが分配されるというシステムである。
「なるほど……」
説明を聞いて騎士たちも納得する。これは彼らにもメリットがあるやり方だった。鉱山に兵を派遣して場所を死守しなくてもよい。採掘する手間もはぶける。要はしっかりした人間を一人派遣して監査を任せるだけで、何もしなくても利益が転がり込んでくるのである。
「さらに、その券は金額が折り合えば、売り払うこともできます。もちろん担保にしてお金を借りることもできます。とりあえず、最初の金額は一株10アルと設定しました。今の時点では当家でその金額で買取りいたします」
それを聞いて騎士たちは頭の中で考え込む。手に持っている紙切れが、10万アルの価値があるとシャイロック家が保証しているのだった。
思わずにやける騎士たちだったが、一番年上の騎士が手をあげる。
「質問よろしいか?」
「どうぞ%8