ひきこもりの軽症化。

「ひきこもり」と聞くと、世の中の人はどんなイメージを思い浮かべるだろうか。汚い服装と伸びた髪の毛。陰鬱な表情と締め切った暗い部屋。母親に食事を自室まで運ばせ、家庭内には常に緊張感が漂う……。こんなイメージを思い浮かべる人も多いと思う。

外食をしたり外に遊びに行ったりしていると、「あなたはひきこもりじゃないよ!」と言う人がいる。だが、そうではない。外出できて友人や恋人がいても、働くことに強い恐怖感があり、自室が生活の拠点になっている以上、やはりそれもひきこもりだと思うのだ。

母親に食事を運ばせる「重度のひきこもり」に比べれば、確かに私なんかは軽症かもしれない。普通に買い物に行けるし、普通に電車に乗れる。周りの人から見れば、あたかも就労はすぐそこにあるように見える。

だが、そうではない。どんなに外出できても、「働くこと」の前には大きな段差がある。私は、このような「ひきこもり軽症者」が現代のひきこもりのメインであり、重度のひきこもりは案外少ないのではないかと見ている。そして、このような「ひきこもり軽症者」こそが、大きな社会問題だと思うのだ。

我々ひきこもり軽症者は、「無職」であること以外、なんら一般人と変わりないように見える。まるで働いていないことは「怠け」であり、「気が向けば」働けるように見えてしまう。

だが、そうではない。一見、普通に外食し、普通に電車に乗っているように見えるが、その行動の一つ一つに緊張が伴い、その行動の一つ一つに罪悪感が伴っているのだ。それらのマイナスの感情は、重度のひきこもりのそれと何ら遜色がない。見た目は普通でも、心理的にはかなり死に近接し、追い詰められた感情を伴っている。

「ごく普通に」行動しているひきこもり軽症者を見ると、多くの人は、

「あと一歩踏み出せば働けるのに」

と言う。なるほど、そう見えるかもしれない。

だが、どうも私にはそうは思えない。「あと一歩」どころか百メートルも二百メートルも踏み出さないと、就労という到達点に届かないように感じる。そこに、「単なる無職」と「ひきこもり」の違いがある。

ここに書いたことは、あくまでも私が勝手に考えたことである。私以外のひきこもり軽症者は、また別のことを考えているかもしれない。

だが、軽症のひきこもりも重度のひきこもりと同じように、そう簡単に就労できないことは事実だと思う。

重度のひきこもりのように問題視されないぶん、かえって厄介な問題のように感じるのだ。

6 Responses to “ひきこもりの軽症化。”

  1. とり Says:

    ときどき拝読しております。
    鋭い分析が多く,勉強になります。

    >どんなに外出できても、「働くこと」の前には大きな段差がある。
    (中略)
    >我々ひきこもり軽症者は、「無職」であること以外、なんら一般人と変わりないように見える。
    >まるで働いていないことは「怠け」であり、「気が向けば」働けるように見えてしまう。

    この部分に,特に強く共感しました。
    自分が相当の割合をコントロールできる「外出する」と,他者のコントロールを強く受ける,さらには
    自分も他者に影響を及ぼす「働く」では大きな隔たりがあると思います。
    他者のコントロールにうまく乗れなかったり(是々非々の姿勢を取れない)人は,
    そうでない人からみれば「働かない=他者のコントロールに乗る努力をしていない=怠けている」
    となるのだろうと考えます。

    私自身,冬に退職し,現在,再就職活動をしていますが,
    前職で人間関係がうまくいかなかった思い出から,働くことが怖いと感じています。
    そういった対他者の対応方法が分からずに大人になってしまった人間は,
    どう生きていくべきなのでしょうか,あるいは,どうそれを学べばいいのでしょうか……。

    末文ですが,「コミュ障」・「発達障害」・「閉塞感」・「自己不全感」などについて,
    いつか二条さんの分析を伺えたら,と思います。

  2. 二条淳也 Says:

    とりさん

    読んで頂いて、ありがとうございます。

    本当に「外出」と「就労」はまったく違いますよね。

    前職で人間関係がうまくいかなかったとのこと。働くことが怖いと感じるのは当然だと思います。私もそのような想いを何度もしましたから。

    「人間関係の下手な人」は現代社会で大量に生み出されており、それに対応するためにも「自宅でできる仕事」を社会はもっと真剣に模索するべきだと思います。コンピューターの発展は、たしかに不器用な人間を大量に生み出しましたが、逆に「自宅でできる仕事」の可能性も広げたからです。

    お互い、ストレスの少ない人生を歩んでいきたいですね。

    これからもお時間がございましたら、遊びに来て下さい。

  3. 非24時間睡眠覚醒症候群 Says:

    「持続して」働けるかの問題ですからね。
    「いつ来てもいい」というわけではないので、睡眠障害の問題もある。
    こういう(易疲労性、睡眠障害)状態だと、「いやなことが」が積み重なっているわけで、普通の状態で働いているのとは、事情が違う。
    本人が負担を感じない仕事があれば、良いんだろうけど。それも、難しいね。

  4. 二条淳也 Says:

    24時間さん

    軽症のひきこもりでも社会に出て行けるようになりたいですね。

  5. りゅま Says:

    自分は一人でホテルに宿泊した事があるのですが、ある人に「一人でそんなとこに泊まるなんてとてもできない。勇気があるね、それが出来るなら就職くらい簡単に出来るだろう」と言われました。外出できる=就職できる。と思ってる人がほとんどでしょうね。

  6. 二条淳也 Says:

    りゅまさん

    へえ、そんな反応があったんですか。外出と就職はかなり次元の違う問題なんですけどねえ。。。

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