仲直りが下手。

二十代前半の頃、バイト先で同僚とケンカをした。その前からかなり険悪な仲だったのだけど、「挨拶しろ」「しない」といった些細なことがきっかけになって、ついに胸ぐらをつかみ合う衝突に発展した。

結局、つかみ合っている姿を目にした別の同僚が割って入って、その日はそれで終わりだったのだけど、その日以降が大変だった。お互い、険悪なまま職場で働いているので、いつも一触即発ムードなのだ。私としては、早いところ仲直りして、また元の関係に戻りたかったのだけど、相手にはそのような意志はなく、結局向こうが転職するまで、その険悪ムードは続いたのだった。

昔の人の話を聞く機会がたまにあるのだが、しみじみ、

(昔の人は仲直りが上手かったんだなあ)

と思う。殴り合いのケンカをしても、ごく自然に和解していったというのだから、驚きである。昔の大学生は、夜通し討論し、時には感情的になって殴り合いになるのだが、すぐに仲直りして一生の友達になったという。今だったら、殴り合いでもしようものなら、永久に決別である。現代は孤独な人がとても多いが、その原因の一つは、「仲直りが下手な人が増えた」こともあると思う。

今の人は、相手にちょっとでも不満を持つと、すぐに「永久に口をきかない」関係にしてしまう。私もそのタイプで、少しでも不満を持った相手は、どんどん決裂にもっていった。

だが、これが孤独を促進していった。

普通に考えれば分かるが、友人をどんどん切っていけば、自分自身もどんどん孤独になっていく。「もうあんたの顔は見たくない!」と決別を宣言すれば、その瞬間にはいくらかの優越感と爽快感を感じられるが、そんなものは、すぐに消え去る。のちにやってくるのは、「会話する相手が一人減ってしまった」という落胆と後悔であり、結局は自分自身を追い詰めることになる。

小さい頃、兄と殴り合いのケンカをすると、決まって父が、

「さあ、二人とも、仲直りの握手だ」

といって、二人を握手させた。今考えると、とても微笑ましい関係の修復シーンだったと思う。

握手をして仲直りをする人は、現代の日本で、どれぐらいいるのだろうか。

 

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