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気球
数日後、フーマの里に大きなトラックが到着する。
「リトネ、言われたものを持ってきたけど、こんなものどうするんだ?」
トーラが首をかしげながら荷物を降ろす。
それは大きな袋のようなもので、その下に籠がついていた。
「あれ?これって前に危険だからって倉庫にいれていた奴だよね」
リトルレットが袋をつつきながらつぶやく。
「うん。異世界から召喚したものなんだけど、制御が難しいから風の魔力が強い人が見つかるまで
封印していたんだ」
リトネは嬉しそうに笑うが、サブロウと婚約者たちはこれが何なのかわからなかった。
「えっと、リトネ様、これは?」
「『気球』といって、空を飛ぶためのモノですよ」
リトネが言うと、その場にいた全員が驚く。
「……空を飛ぶって?嘘」
「確かに勇者アルテミックは空をも飛んだという伝説があるけど……」
ナデイとリトルレットは胡散臭そうな顔をしている。
「すごい!お兄ちゃん」
「あ、あたいはリトネを信じるぜ!さあ、飛んで見せてくれ!」
期待する目を向けるリンとトーラに、リトネは苦笑した。
「はいはい。それじゃ準備に取り掛かろう。まず、サブロウさん。風を操ってこの袋を膨らませてください」
「承知仕った」
サブロウが短剣を振ると風が巻き起こり、ペチャンコだった袋の入り口が大きく膨らむ。
「よし。次に籠の中の炉に火をつけて、空気を暖めるんだ」
籠の中央に設置されている炉に石油が入れられ、勢いよく燃え上がる。
「トーラは炎の勢いが激しすぎないように制御していて」
「わかった」
トーラは籠の中に入って、炎に向けて手をかざす。
「サブロウさんは熱せられた空気が袋の中に入るように、風を操ってください」
「はっ!」
サブロウも籠の中に入って、風を制御した。
籠に結び付けられた袋が大きく膨らんでいく。
「よし。そろそろかな?」
リトネも籠に入ると、しばらくしてふわっと浮き上った。
「やった!成功だ!」
気球はどんどん高く上がっていき、やがてアンデス領を見渡せる高度に達した。
「こ、これば……なんという景色だ……」
サブロウは初めてみる美しい景色に感動する。下は白銀の世界で、東に城壁で囲まれた領都ナスカが見える。
西には遠くシャイロック領の都エレメントが見えていた。
「こ、こわいこわいこわい……」
対照的にトーラはうずくまって震えていた。
「あれ?トーラって高所恐怖症?」
意外と怖がりなトーラを見て嗜虐心をそそられたリトネがからかう。
「こ、怖いに決まっているだろうが!いますぐあたいを降ろせ!」
トーラは突然暴れだし、リトネの首を絞めた。
「わ、わかったよ。火を消せば、徐々に降りていくから」
トーラはそれを聞いて、慌てて杖を振るう。激しく燃えていた炎は一瞬で消えた。
「リ、リトネさま!火が消えたら落ちるのでは?」
サブロウは慌てるが、リトネは落ちついている。
「大丈夫です。暖かい空気が袋の中にある間は浮き続けます。サブロウさんは少しずつ暖かい空気が外に逃げていくように風を操ってください」
リトネの言うとおりにしてみると、気球の高度が徐々に下がっていく。
やがて元のフーマの里に降り立った。
「よし。初気球は成功だな」
リトネが満足して地上に降りると、婚約者たちに取り囲まれた。
「……リトネ、すごい!」
「ボクも乗せて!」
「お兄ちゃん、お願い!」
目をきらきらさせて迫ってくる。
「ああ、いいよ。トーラ、というわけで、もう一回……」
「ふざけんな!あたいは真っ平ごめんだ!」
目をつぶってブルブル震えていたトーラは、脱兎のように逃げ出していった。
「困ったな。炎の制御をどうするか……って、サブロウさんでもできるかも」
リトネはもう一度炉に火をつけると、サブロウに頼む。
「サブロウさん。空気の中にある『火がよく燃えるモノ』を火の回りに集めてください」
リトネに言われて、サブロウは必死に風を分析する。すると、風を構成するいくつかの成分のうち、二番目に多く含まれているモノを火に近づけるとよく燃えることがわかった。
「えっと……『集風』」
サブロウが短剣を振るうと、大きく炎が燃え上がる。
リトネたちは再び空の散歩を楽しむのだった。
「サブロウさん。風を操って、ナスカの方に進むようにしてみてください」
「はい!」
サブロウが風を吹かせると、気球は進んでいく。地上を進むなら数時間はかかるナスカまでの道を、わずか30分でナスカの上空にたどり着いた。
「すごーい!」
「……みんな、びっくりしている!おーい!」
リンは喜び、ナディは興奮して手を振る。
地上にいるナスカの住人はポカンとして上空に現れた巨大なモンスターを見上げていた。
しばらくすると、誰かが通報したのか、騎士団が現れて追いかけてくる。
「リトネ君、まずいわよ!」
リトルレットがあせった顔になる。騎士団が矢を放ってきたからである。
「やばいな……でも、これからもこの気球は使うから、ちゃんと説明しておこう。サブロウさん。すこしずつ高度をさげながら、街の中央広場に向かってください」
「かしこまりました!」
だんだん気球の操縦に慣れてきたサブロウが風を操り、中央広場に気球を下ろす。
そこでは騎士団が警戒して遠巻きに囲んでいた。
「貴様たち!何者だ!空から降りてくるとは怪しい奴……え?」
降りてきた者を見て、騎士たちはポカンとする。彼らの崇める勇者たちだったからであった。
「お騒がせしてすいません。これは「気球」という新しい発明品です」
リトネが説明すると、騎士たちも納得する。
「まあ、勇者様だからな……」
「我々の想像もつかないことをされるのだろう」
騎士たちは街の人間の不安を鎮めるために、戻っていった。
3/25 反逆の勇者と道具袋 第10巻が発売されました

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