親が怖れていること。
毎月十数万円の仕送りをもらっているのだから、親不孝という他ないが、肝心の親は、そうは思っていないようである。
いつだったか忘れたけど、父と二人きりでいる時、
「毎月迷惑かけてごめんね」
と私が言うと、
「そんなことないさ。こうやってお前が頼ってくれて、父さんも嬉しいよ」
と父がポツリと呟いたことがある。毎月十数万円の負担はいかにも重たいが、それ以上に、「息子から頼られて嬉しい」という心境が父の中にあったのだった。
私は十八歳で一人暮らしを始め、その後ひきこもり生活に入るまでの約十年間、ほとんど親に頼らなかった。金銭の援助を求めたこともなく、私のほうから親に電話をかけることすらなかった。経済的にも精神的にも、完全に自立していたのだ。
それは親からしたら、多少なりとも寂しいことだったようだ。息子からまったく頼られることもなく、電話すら来ない。正月に逢いに来ることもなく、手紙の一通も出さない。それはたしかに、親にとっては寂しいことだったかもしれない。
ひきこもり生活に入って、私は毎月父に多額の仕送りを求めるようになった。それは親にとっては大変なストレスだろうけど、それと引き替えに、父はある種の満足感を得ていたのではないか。私がお金や食料を求めるたびに、「あいつは俺を頼っている」という「親の喜び」を感じていたのではないか。
断言してもいい。
親にとって、我が子から必要とされなくなることは、大変な恐怖である、と。
「もう一人で暮らせるから、父さんはなにも持ってこなくていいよ」
そんなふうに息子から言われると、多くの親は喜ばない。たとえ重い負担を課せられても、親というのは我が子から頼られたいのだ。
実際、ある飲食店で働いていた時、常連のお客さん(おばさん)が、自立している私に向かって、
「親がいるうちはどんどん甘えたほうがいいよ。親はそれが生きがいなんだから」
と言ったことがある。そうなのだ。我が子から頼られることこそが、親にとっての喜びなのだ。
自分のひきこもり生活を正当化したい訳ではないけれど、援助を求めることは、自立することより親孝行なことかもしれないと思っている。
自立していた頃より、今のほうがはるかに父との接触は緊密なのだ。
3月 31st, 2012 at 1:22 AM
私は親にうまく甘えることができません。自分が何をしたいとかの欲求を伝えることができないし、甘えようとすることが親にはいい印象じゃないと思うからです。
今まで言いたいことを言えずにきてしまったからかも。
一度は親元を離れて自活していた二条さんが引きこもりになったきっかけって何ですか?
4月 2nd, 2012 at 12:01 PM
みみさん
「親にうまく甘えることができない」というのは、私にもよく分かります。親に悪い印象を与えるのではないかという危惧も、よく分かります。私も今まで、親に言いたいことを言えずにきてしまいました。
親も高齢。そろそろ、言うべきことは言っておく時期に来ているのかもしれません、私の場合は。
私がひきこもりになったきっかけは、就労の失敗ですが、その裏には「低い自己価値」や「自信のなさ」などが起因しており、就労の失敗以前に、親子関係のねじれが隠れていると思っています。