バカにされたくない!
長いあいだ、夜の銀座で働いてきたが、ホステスたちは「バカにされたくない」という言葉を非常によく遣った。
「あたしは男から食事に誘われても、付いていかない。ホステスだからってバカにされたくないから」
「あたしはなるべく本を読むようにしている。ホステスだからってバカにされたくないから」
そんなセリフを、ホステスたちは頻繁に口にした。だが、私から見て、ホステスたちがバカにされるのは、ある意味で当然のことのように見えた。
ホステスたちは、とにかくウソをよくつく。年齢に関しては、ほぼ全てのホステスがウソの年齢を言った。学歴に対するウソもよくついたし、職歴に対するウソもよく言っていた。「自分がどんなに裕福か」をウソまみれで語るホステスもいたし、「自分がどんなに苦労しているか」をウソまみれで語るホステスもいた。
彼女たちは、ウソで塗り固めた経歴を語ることによって、相手に対してしきりに優位に立とうとしたが、話を聞いている側は、彼女たちの話がウソであることを、きちんと見抜いていた。実際は年をとっていること、甘えてきただけであまり苦労していないこと、そんなことを、客たちはきちんと見抜いていた。客として来る男性はそれなりに社会経験のある人ばかりだったので、ホステスのウソなど全て見抜かれているのだ。
ウソをつけばつくほど、信用の失墜を招き、結局は人間的評価の下落に繋がる。「バカにされたくない!」と言いながら、自分の言動がどれほどバカにされる行為なのか、彼女たちはまったく気付いていないようだった。「ホステスだからバカにされる」と彼女たちは言っていたが、私から見れば、「ホステスだから」ではなく「ウソばかりついているから」バカにされているように見えた。そして、そのような境遇を、ホステスたちはどうしても受け入れられないようだった。
だが、もしかしたら、周囲の人間は、現在の私のこともそんなふうに見ているかもしれない。私だって、
「ひきこもりだからってバカにされたくない」
という想いがある。だが、中年の男が「働くのが怖い」と言って自室に籠もっているのだ。バカにされて当然である。私もまた、「自分の境遇を受け入れられない者」のうちの一人である。
バカにされたくない、バカにされたくない、と言いながら、今日もまた、私は自室に籠もっている。
自分が軽蔑に価することを、うすうす知っていながら。
2月 26th, 2012 at 10:08 PM
律子さんからの信用を失墜させるような言動を、ご自身はなさっていませんか?
2月 27th, 2012 at 8:29 AM
安室怜二さん
自分では、していないつもりです。
たとえば、私はデートの待ち合わせに遅刻してくることは絶対にありませんし、彼女以外の女性とやましいことになったことも一度もありません。
私はかなり個性的な考え方をするので、「あなたのことが理解できない」とたまに言われますが、「あなたのことが信用できない」と言われたことは、一度もありません。
彼女が心の底でどう思っているかは、また別の話ですが。