友達が一人もいない②

高校生の頃、自宅でくつろいでいる時に、父からこんなことを言われた。

「学校が楽しくて楽しくてしょうがないだろう?」

どうやら、父の目には、高校生というのが「楽しくて仕方ない時期」のように見えたらしい。父から見れば、高校生は「人生で一番楽しい季節」に思えたらしいのだ。

だが、当時、私には友達が一人もいなかった。情けない話だが、学園祭の時、自分が属するグループが一つもなく、帰宅時間までずっと校舎を一人でうろついていたのだ。

経験者なら分かるが、学校で孤立するというのは、とてもつらいことである。会社で孤立するのとは訳が違う。会社なら極端な話、イヤになればいつでも辞められるが、学校の場合は、卒業まではどんなにつらくても、そこにい続けなければならない。さらに、会社と違い、構成員の精神年齢が幼稚なため、過酷ないじめが起こりうる。会社なら一人で食事する人は結構いるが、学校で一人で食事をしている人はめったにいない。学校での孤立は、格段につらいのだ。

私はそんな境遇を家では話さないから(言える筈もない)、父には、私が世の中の高校生と同じように、「若さを楽しんでいる」ように見えたのだろう。

(父さん、違うんだ! 俺、学校に友達が一人もいなくて、孤立してるんだ)

心の中でそう強く思ったが、どうしてもそれが言えなかった。

私一人が恥をかくだけならいいが、父にまでつらい想いをさせてしまうように感じられたのだ。大切な息子が学校で孤立していることを知ったら、父はとても悲しむだろうな。そう思うと、胸が張り裂けそうなほどつらかった。嫌われることに慣れている私はまだいい。だが、息子が学園生活を楽しんでいると無条件に信じ切っている父に、「父さん、俺、友達が一人もいないんだ」と伝えることは、とても親不孝なことのように感じられた。

中学生時代、違うクラスの孤立している男子を見たことがある。給食の時間は、好きな人同士で机をくっつけるのだが、彼は机をくっつける相手がおらず、ポツンと一人の机で食べていた。それは中学生として、とても残酷な姿のように見えた。

彼のお父さん、お母さんは、彼が一人で給食を食べていることを知ったら、どんな顔をするだろう。机をくっつける相手が一人もいないことを知ったら、どんな想いがするだろう。そう思うと、彼と彼の両親が、とても気の毒に思えた。

「学校が楽しくてしょうがないだろう?」

父のそんな問いに、適当に頷いたことは、今でも正しかったと思っている。

大好きな父を悲しませたくなかったから。

8 Responses to “友達が一人もいない②”

  1. 憂愛 Says:

    はい、またしても学生時代孤立しまくりの私がやってきましたよ(苦笑)

    中学〜大学時代まで、お昼は殆ど一人で食べてました。あと、「好きな人同士でグループ組んで」と言われたら、いつも余り物。。。
    私の親は、私が学校で孤立していることを知っていたし「一人でご飯を食べる」こと自体は普通のことで惨めではないという価値観だったようですが、数年前に「実は私、学生時代はお昼の時間が辛くて、トイレで食事してた」ということを打ち明けたら相当ショックを受けていました。

    一人で食事をすること自体は、可哀想だと思わない。ただ、トイレで隠れて食事をする・・という精神状態まで追い込まれるのは悲劇すぎる・・と。
    究極の親不孝娘ですよね。

  2. 二条淳也 Says:

    憂愛さん

    いらっしゃいませ。ようこそ来て下さいました(笑)

    「好きな人同士……」というのは、今考えると、とても残酷なグループ分けですよね。教師も、孤立している生徒が存在していることを知っていながら、そのような方法を採用する。教師特有の陰湿さだと思います。

    親御さんにとって、憂愛さんがトイレで食事していることは、とてもつらかっただろうと思います。ですが、一番つらいのは、憂愛さん本人なわけで、そのつらさは、親には代わってあげることができない。そのへんに、孤独の深刻さがあるように思います。

    「親を悲しませたくない」と思っているけど、どうしても人に好かれることができない。自分が生きていることが本当に親孝行なことなのか、私は未だに疑問に思っています。

    とはいえ、学生時代の孤独を生き抜いたということは、私も憂愛さんも、案外逞しいのかもしれませんね。

  3. エリナ Says:

    こんばんは。私も中年といわれる年齢ですが、人間関係苦手で、仕事を何回か変わったり、今も行くのが辛くて、ひきこもりしたくなります。
    私は人間関係の悩みを親によく話していた時期があります。でも具体的には話せなかったと思います。
    親と家の中のできごとで、言い争いみたいになった時に、「だからお前は嫌われる」みたいなことを言われて、それからもう親に話すまいと思いましたね。

  4. 二条淳也 Says:

    エリナさん

    こんにちは。

    人間関係が苦手な人にとって、仕事をすることはとても大変ですよね。

    実の親から「だからお前は嫌われる」と言われるなんて、とてもつらかったでしょうね。「もう話すまい」というのは、とてもよく分かる心境です。

    私も、母親に対する「徹底的な不信感」が、根っこにあります。

  5. うり Says:

    ウチの高3になる息子が今ひとりぼっちです。
    まだ始まって1週間ですが、音をあげてしまいました。
    行きたい大学もあるしがんばらなければいけないのだけど、孤独に疲れてしまってがんばれない。

    深いところには受験のプレッシャーもあるのだと思いますが。

    やはり、学校で一人ってつらいのですね。
    もう、クラスに近づくのもダメだと言っています。

    しかし、高校は卒業したいし、でも学校に行って具合が悪くなるくらいなら、いっそやめて
    受験に専念したい。

    私は「学校やめてもいいし、大学行かなくてもいい。私は親だから、おまえが元気でご飯食べてれば
    それで満足だよ」と言いました。

    こんな甘い親だから、彼は今悩むことになったのだろうか?

    何をしていてもいいから、どうか元気で、自分の人生を歩んでもらいたい

    でも、社会はキビシイ面があるから、甘やかしてはいけない

    厳しくしなくては子どものためにならない

    少しほうっておいて成長するのを待つのがいいのか

    のんきに様子を見ている場合ではないのか

    親はとてもとても悩むのです

  6. 二条淳也 Says:

    うりさん

    高三になるまで、色々あったかもしれないですね。学校での孤立はかなりこたえます。少年は学校以外に居場所がないことが多いですから、本当に追い詰められた気持ちになるものです。

    「お前が元気でいてくれさえすれば」というのは、私からみれば百点満点の答えです。それは「甘やかし」ではなく「受容」であって、息子さんの大きな支えになると思います。我が子を否定する親は多いので、とても羨ましいです。

    どうか息子さんを肯定し続けてあげて下さいね。

  7. ゆー Says:

    私も憂愛さんと同じでトイレでご飯食べてる高校三年です…

    私は、中学の時から色々言われて、でも、友達が一人いたからなんとか無事中学は大丈夫でした。
    しかし、その友達は、他校で友達もいて、彼氏もいてすごく羨ましいです。その友達は、彼氏ばっかりで会うこともありません。
    そして、高校三年でみんながグループになってるので、入れないし、受験生なのにすごく孤独です。
    中学の時の友達がいたらいいのに。なんて思う日々です。高校三年生は、受験生なので他の学年よりは、終わるのがはやいからがんばれっていろんな人に言われました。でも、耐えられなくて、母に学校やめたい、通信にしたいって泣き叫んだ日もありました。精神科行くとまで。
    でも、自分が頑張らなきゃいけないんだって、今も夜泣いてますが、頑張って学校に行ってますが、相変わらず、トイレでご飯です…最近は、もう食べるのが本当に辛くなってきたので、あまり食べなくなりました。

    本当にどうすればいいのでしょうね。

  8. 二条淳也 Says:

    ゆーさん

    高校生の方がコメントを残してくれるのは非常に珍しいです。

    私自身のことを思い返してみても、中学高校は非常につらかった時期でした。人生八十年としても、そのうちで最もつらい時期だったかもしれません。親が逃げ場所を残してあげない場合は、命を絶つような結末になりかねません。

    私は、とにかく学校には行きました。で、友達作りは完全にあきらめていました。この期間をとにかく耐えれば、楽になるんだと思っていましたね。

    「どうでもいいような人間は相手にしない。たとえそれで孤立したとしても」という姿勢を私は持っていました。

Leave a Reply