親に話さない理由②

職場で孤立していることを、親に話さない理由は、他にもあった。親に対する根本的な信頼感がなかったことだ。

幼少期から、私は自分のことを話さなかった。特に、母親には、絶対に自分のことを話さなかった。

普通、小学生は、「今日、みんなと校庭で遊んだんだ!」などと話すものである。だが、私はまず、そのような話を母にしなかった。母はいつだって、私のことを否定してくるからである。

放課後、自宅で一人で遊んでいると、

「クラスの男の子たちは、みんな学校から帰ってくると、ランドセルを放り投げて遊びに行ってるのに、どうしてお前は家の中にいるの!」

と責めてくる。仕方なしに、ランドセルを放り投げて遊びに行くと、

「ランドセルを放り投げて遊びに行くんじゃないッ!」

と怒鳴られた。要するに、母は私のことが気に入らないのだ。そんな人に今日の出来事など報告できる筈もない。なにを報告しても「お前が悪い!」「だからお前はダメなんだ!」というような答えが返ってくるのだ。

「親子のあいだには、信頼関係などあって当たり前だ」

そう考える人は、かなり恵まれた人だと思う。だが、私はそんな境地には立てない。親子間にも相性がある。信頼関係が構築されていない親子など、世の中にいくらでもいる。なかには、親に追い詰められて心を病む子供もいる。「親子」という言葉を聞いただけで、温かい繋がりを感じ取る人もいるだろうが、そんな人ばかりではない。「親子」という言葉を聞いただけで、陰惨な人格否定のシーンを想起する人もいる。

中年期になっても、私は母親に自分のことを話せない。そして母もまた、私に対しては腫れ物に触るように接する。お互いにギクシャクし、「こんなことを言っても大丈夫かな」とビクビクしながら会話している。

「ひきこもっている子供が、なにも話してくれない」

そう訴える親がいるが、そんな親たちに、私は言いたい。

それは、お子さんが親を信頼していないからではないですか? 今までの人生で、お子さんを否定してきませんでしたか? 

我が子を徹底的に受容してきたならば、しっかりした信頼関係が築けている筈である。それがないから、真摯な対話が成立しないのではないか。

ひきこもりの子を持つ親御さんは、まず自分自身に問いかけてもらいたい。

自分は我が子から、本当に信頼されているだろうか、と。

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