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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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サブロウの忠誠

リトネの乗った軍用トラックが、大きく開いた城門に入ってくる。
「勇者リトネ様!」
「アンデス領を救ってくださって、ありがとうございました!」
両側に並んだ民衆からは、感謝の声が投げかけられていた。
それに手を振って答えていたリトネは、少し入ったところでトラックを停める。
前に跪く一団を確認したからである。
「お父様!」
真っ先にナディが降りて、跪いているゴールドに抱きつく。
「お、おい。ナディ」
「……お父様!心配した!大丈夫?」
いつもクールなナディだったが、よほど心配していたのか、涙を流している。
ゴールドは苦笑して、ナディの頭をなでた。
「大丈夫だ。私は何もしてないさ。城の一番奥で座っていただけだ。心配かけたな」
次にゴールドは、車を降りてきたリトネに頭を下げた。
「リトネ様、このアンデスの地を任されながら、民を救えず申し訳ありませんでした」
「何を言うんです。ゴールド様がご無事で何よりでした」
リトネは苦笑して手を振る。
「グールから戻った者たちが外で倒れています。彼らの手当てをお願いします」
「畏まりました。騎士たちはすぐに救護活動に取り掛かるように」
ゴールドの命令を受けて、跪いていた騎士たちが動き出す。
今回の事件でグールになったものたちは、城内に運び入れられて手厚い手当てを受けたことで、ほどなく意識を取り戻すのだった。

ナスカ城
元ソレイユ銀爵の居城だったこの城には、豪華な玉座の間があった。
そこに王様のようにリトネが座り、その後ろに婚約者たちとゴールドが立つ。
この地を支配している豪族である騎士たちが、いっせいにその前に跪いていた。
「勇者リトネ様!ありがとうございました!民たちを代表してお礼申し上げます」
グール事件の後始末が終わった後、改めて彼らに感謝される。騎士たちからは感謝の印として、多くの貢物が献上されていた。
しかし、リトネは笑って献上物を騎士たちに返す。
「我がシャイロック家は、領主としてこの地を治めるもの。ならば、民の安全を守る義務があります。そのために税を徴収している以上、新たな貢物など不要です」
「で、ですが……」
「この貢物は、今回の事件で被害を蒙った民のために使ってください」
そういって笑うリトネに、ますます尊敬の念を抱く騎士たち。
「わかりました。しかし、我々はあなた様に勇者アルテミックに匹敵するご恩を受けました。我らアンデスの地に住むものは、永遠に勇者リトネ様とシャイロック家に忠誠を尽くすことを誓います」
サブロウが代表して宣言し、騎士たちは頭をたれる。
こうしてアンデスの地は完全にシャイロック家の影響下におかれることになるのだった。

「それより、『風の墓場』という場所について、詳しい人はいませんでしょうか?実は私たちのある大切な物を盗んだ盗賊が、そこにいるのです」
リトネがそう尋ねると、サブロウが声を上げる。
「はっ。そこは我がフーマ家が管理しているダンジョンです。喜んでご案内させていただきます」
サブロウの案内で、フーマの里に向う。
その道中で、リトネはサブロウの妹が風の墓場の封印を解いたせいでグールが溢れ出したことを聞くのだった。
「カエデさんですか?」
「はい。まったく不詳の妹でして……あやつのせいでオババは死に、多くの人が傷つきました。我々は奴を絶対に許すことができません」
サブロウは苦い口調で言う。
リトネはそれを聞くと、難しい顔で考え込んだ。
「リトネ君、どうしたの?」
トラックを運転していたリトルレットが聞いてくる。
「実は、残り二人のヒロインのうちの一人の名前がカエデというんだけど……サブロウさん、もしかして、あなたの妹は風魔法が得意とかでは?」
「いえ、確かに風の魔力は強いのですが、ろくに魔法の訓練をしたこともない怠け者でして」
サブロウは否定するが、リトネの不安は消えない。
「……そのカエデさんは、今どこにいますか?できれば会わせて欲しいのですが……」
「それが、現在行方がわからず、手の者が必死に探しております。つい先ほど報告があったのですが、金髪の少年と共に王都に向ったのを見た者がいるそうです」
サブロウが言うと、車内は沈黙に満たされる。
「……アベル」
「あいつか……ひょっとして、封印を解いたのもあいつかも」
「あのバカか……今度会ったらぶちのめしてやるぜ!」
婚約者たちから怒りの声が上がる。
「……畜生!アベルに持っていかれてしまった!これでヒロインの全員攻略は失敗か!」
リトネは地団駄踏んで悔しがるのだった。
「勇者様、どういうことなのでしょうか?」
リトネの様子をみて、サブロウはおそるおそる聞いてくる。
「実は……」
リトネは女神ベルダンティーの予言を話した。
「そんな……本来の勇者はそのアベルとか言う者で、魔王を倒した後に暴君となって世界を滅ぼす。そして勇者を唆す悪女が、我が妹カエデであると?」
リトネから話を聞いたサブロウは、ショックのあまり呆然としていた。
「ええ。王妃カエデは見栄っ張りで浪費家。自分の欲望を抑えることを知らず、子供のように無邪気に贅沢をしたがります。それがどんどんエスカレートしていき、国庫に金がなくなると、金持ちや貴族に重税をかけて絞りあげるように国王アベルを唆すと予言されています」
それを聞いて、サブロウは下を向く。たしかに彼女にはそんなところがあった。
「で、では、世界はこれから破滅に向うのでしょうか」
「そうならないように、私は使命を受けたのです。大丈夫、きっと運命は覆ると信じています」
リトネはサブロウを安心させるように笑った。
「……リトネ様はなぜそう思うのでしょう」
「アベルを唆し世界を破滅に導く悪女として予言されたヒロインたちは、カエデさんだけではなく、六人います。しかし、そのうちの四人は今ここにいて、私に協力してくれているからです」
リトネが辺りを見回すと、四人の美少女が苦笑を浮かべていた。
「私はお兄ちゃんと、ずっと一緒にいたいです」
一番小さな少女、リンはそういって屈託なく笑う。
「……まあ、リトネは意地悪でお金にがめつくて、すぐ私をからかってくるけど、アベルなんかよりはマシ。……その、一応婚約者でもあるし」
ナデイは顔を真っ赤にしながら、プイッとそむける。
「しかたないよね。リトネ君はちゃんと勇者して人を救っているし。ボクも協力してあげる」
リトルレットも照れながらそういった。
「ふっ。ヒロインの一人くらい手に入れられなかったからって、旦那はへこたれるような男じゃねえぜ。サクッと世界を救ってくれるよな。じゃないと落ち着いて子作りもできないからな」
トーラは豪快に笑ってリトネの背中をバシバシと叩いた。
リトネと彼女たちの絆を見て、サブロウは安心すると同時に悔しい思いを感じる。
(……あと少し早くカエデをリトネ様に会わせることができたら、妹自身も救うことができたのに……
いや、こうなったらカエデに代わって私がリトネ様に仕えよう)
サブロウはそう決心すると、リトネの目を真正面から見つめて言い放った。
「リトネ様、かくなる上は、私が妹に代わってあなた様の下に馳せ参じます」
「えっ?」
いきなりそういわれて、リトネは困ってしまった。
「不詳の妹が偽勇者の下にいってしまった以上、私がそのヒロインとやらの代わりを務めましょう」
「か、代わり?」
「はっ。何でも命じてください。身も心もあなたにささげます」
そういうサブロウの目はキラキラと輝き、顔は真っ赤に上気していた。
「……ふむ」
今まで無関心だったマザーがそれを見て、ピクリと反応する。
「その熱き心、女子にも負けぬ清らかさじゃ。リトネ、受け入れるがいいぞ。その忠誠心に免じて、ワラワも乳が戻ったら加護を与えてやろう」
マザーは何かを期待するような目をサブロウに向けていた。
「は、はい。それじゃ、これからよろしくお願いします」
「はいっ!我が君!」
サブロウはリトネの手を握って忠誠を誓う。
なぜかあたりにキラキラと輝くバラの花の幻影が浮かんだ。
「……あれ?なんか不安になってきちゃった」
「……ヒロインの代わり?男が?」
「えっ!?どういうことなの?」
「……『月光の間』でそういう本をよんだことがあるけど、まさかな……」
その様子をヒロインたちは微妙な目で見つめるのだった。
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