ひきこもり急増の理由。

ひきこもりの数は、ゆうに百万人を超えるという。なぜ、これほどまでに、ひきこもりは増えていったのだろうか? 逆に、三十年前は、どうしてひきこもりは少なかったのだろうか?

普通に考えてみれば分かるが、三十年前だって、内向的な人や孤独を好む人は沢山いた筈である。人付き合いが苦手な人や、働くことが向いていない人は、沢山いた筈である。だが、三十年前は、ひきこもりが社会問題になることはなかった(「ひきこもり」という言葉すらなかった筈だ)。せいぜい、「登校拒否」の子供が問題になるぐらいで、三十代や四十代の大人が自室に数十年籠もるようなことはなかった。なぜ、最近になってこのような事態が起こったのか。

明らかに、最近の劣悪な労働環境が影響している。

私の親の世代は、「頑張って働けば、認めてもらえる」という時代だった。「一生懸命働けば報われる」という時代だった。今のように、「頑張って働いても、気に入らないという理由でクビになる」ということはなかった。少しはあったかもしれないが、三十年前は働く人の組織がそれなりに機能していたし、百万人が労働から撤退するような劣悪さはなかった。

アルバイトや派遣で働いた経験のある人なら分かるが、最近の労働環境は本当にひどい。一生懸命働いていても、報われることは、まずない。

以前、ある工場で派遣社員をしていた頃、仲間でA君という真面目な青年がいたのだが、彼は「笑い声がうるさい」という理由で即日解雇になった。笑い声がうるさければ本人に注意すれば済むことなのだが、それが簡単に解雇に結びついてしまう。

今の世の中、解雇はおそろしく簡単に行われる。「即日解雇」というのが、まかり通っている。経験のある人なら分かるが、一生懸命働いていて、「明日から来なくていい」と言われた時のショックは、相当なものである。こんなことが二回も三回も続けば、働くのが本当に怖くなる。健康な精神を持った人でさえ、社会に出るのが怖くなる。間違いなく、劣悪な労働環境は、ひきこもり急増の主要な原因になっている。

「ひきこもりは甘えだ」

という皆さん。

あなたは、

「明日から来なくていい」

と三回続けて即日解雇になっても、まだ社会に出られますか?

5 Responses to “ひきこもり急増の理由。”

  1. haryu Says:

    おそらく、30年前だと本人が「ひきこもる」ことに抵抗感があり、
    家族にも「ひきこもらせる」余裕がなかったのではないかと思います。

    >「明日から来なくていい」と三回続けて即日解雇、、、
    ふつうはこうなる前に自分自身の行動を反省し、次に繋げるはずですが?

    ただし、これまでの文章を読めば、あなたがその努力を十分なさったことも
    わかります。先日の芥川賞受賞インタビューにおけるT氏の態度も
    さることながら、人と人との距離を適切に保つことのむずかしさを感じました。

    因みに、私も一人っ子の故か、人付き合いが苦手です。大学の教師を
    もう30年近くしておりますが、いまだに慣れませんね。ただ、講義以外は
    すべて一人でやれる仕事なので、何とか惰性で続いているだけです。
    こんな職業に就くつもりはなかったものの、何となく勉強を続けている内に
    成り行きで就職、、、というところでしょうか。他者との関わりを最小限にする
    という点では、「大学教師」(ただし、文科系)はおすすめかも知れません。

  2. 二条淳也 Says:

    haryuさん

    >おそらく、30年前だと本人が「ひきこもる」ことに抵抗感があり、
    家族にも「ひきこもらせる」余裕がなかったのではないかと思います。
     
    ……そうでしょうか? 私から見れば、三十年前のほうが、家族に「ひきこもらせる余裕」があったと思います。労働者の窮乏は、現在のほうが深刻ですから。

    また、解雇というのは、反省して防げるものではありません。使用者のモラルが信じられないほど低下しているため、信じられない理由で即日解雇は下されるのです。以前、働いていた飲食店では、給料日に給料が支払われず、「きちんと給料を下さい」と言ったら、その日でクビになりました。21世紀にバイトや派遣をしていないと、この辺の事情は分からないと思います。

    芥川賞受賞者のTさんの会見は、かなり不快なものに映りましたが、なんとなく、私に似た不器用さを感じました。

    haryuさんは、大学の先生ですか。一人でできる仕事とのこと。とても羨ましいです。「こんな職業に就くつもりはなかったのに成り行きで」という記述には、笑ってしまいました。そうですね。人の人生は成り行きで流れていくものなのかもしれませんね。

    年齢的にも能力的にも、私が大学の先生になることはできませんが、それでも「他者との関わりが少ない職業がある」と紹介して頂けて、少し救われる想いがしました。

    haryuさんがストレスの少ない生活を送れることを願っております。

  3. 二条淳也 Says:

    りゅまさん

    了解しました。

  4. りゅま Says:

    上の世代の人たちは今の非正規の職場の荒廃ぶりを知らない人ばかりのようです。仕事がいくら単純作業でもちょっと気に入らない事があれば簡単に辞めさせますからね。ぜひ1日だけでもその世代の人たちに非正規で働いてみてほしいですね笑

  5. 二条淳也 Says:

    りゅまさん

    りゅまさんのおっしゃる通りです。現代の非正規雇用の現場のひどさを分かっていない人が多すぎますよね。

    上の世代は、このような働き方をさせられたら、自尊心が傷ついてすぐに逃げ出すかもしれませんね。

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