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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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雪の中の死闘

ナスカ城壁外
白い服をきたサブロウは、一人雪の中を疾走していく。
「私は死んでもいい。グールになってもいい。だが、それは救援を呼んでからだ!」
決死の覚悟でグールたちの目をかいくぐり、シャイロック領方面に進んでいく。風の魔法を身にまとい、音や匂いを可能な限り消して走るが、数人のグールに見つかってしまった。
「グワァァァァァァァァァァァァァァァ」
涎をたらしてサブロウの跡を追ってくるのは、やはり厳しい修行を積んでいたコダワラ村の者たちである。彼らはグールになっても身体能力は失われず、他のグールとは比べ物にならないスピードで追いかけてきた。
「くっ!!」
風で吹雪を操り、グールたちの目をごまかす。
「グアッ?」
次の瞬間、サブロウの姿は地上から消えていた。
一瞬で風を巻き起こして自分の身を高い木の上まで運んだサブロウは、安堵の息をつく。
「ふぅ……勇者様の真似をしたといわれる『風魔流・軽風』をなんとか使えたか」
伝説のアサシンで、フーマ家の祖先であるコタロウ・フーマは、勇者の使っていた『風のように軽やかに舞う拳』に憧れ、なんとか真似をしようと試みた。その結果、自らの体を風で覆うことで、限定的ながら自らの重さを消して超人的な動きができるようになったのである。
ただし、この技は魔力を消費するので、連続使用すると魔力切れを起こして地面に墜落する危険性がある。
「……行くしかないか」
息を整えたサブロウは、次の木を目掛けてムササビのように空を飛ぶ。木を伝って進むことで、地上を探しているグールを避けて進むことができていた。
「……なんとか、撒くことができたみたいだな」
領都ナスカから数キロ離れたところの木の上で、安堵の息をつく。しつこく匂いをたどって追ってきたグールは、あきらめたようにナスカに戻っていった。
「よし。なら地上に降りて……はっ?」
地面に飛び降りようとしたサブロウだったが、ヒュルルーという音と風を感じて身を隠す。
「『失恋風刃(ロンリーカッター)』!」
澄んだ声と共に、さっきまでいた木の幹にハートマークの形で傷が付いた。
「ば、ばかな!!何者だ!」
驚くサブロウの前に、緑色の影が降り立つ。
すらりとした長い髪にほっそりとした、見るも艶やかな若い美女だった。
「お、お前は?」
「ヒッヒッヒ!ほれっ!」
出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んだナイスバディの若い美女は、笑いながら投げキッスしてくる。そのキスをかわすと、再びハートマークの傷が木についた。
「ま、まさか……」
「そのまさかですじゃ。ワシですじゃ。オハナですじゃ」
多くの若者の精気を吸い取り、若返ったオババがそこにいた。
「オババ、正気に戻ったのか?」
「残念ですが、正気ではないですじゃ。我が魂はシーフ様にささげましたじゃ。おかげでこんなに若くなりましたじゃ」
オババ、いや若返ったオハナは愛おしそうに自分の身を抱きしめる。
「なぜ私の邪魔をする!」
「このアンデスの地に、われらグールに災いをもたらす者が近づいていますじゃ。シーフ様、そしてあの方の邪魔をするものは、許しておけんのですじゃ!」
そう言い放つと同時に、オハナはサブロウに斬りかかっていった。

吹雪舞う白銀の世界に、白と緑の人間が死闘を繰り返している。
「ほれほれ!その程度の腕で風魔流の後継者とは、片腹いたいですじゃ!」
白銀の世界にオハナの笑い声が響く。彼女の言うとおり、戦闘技術においては彼女のほうが数段上だった。
すでに白い装束の数箇所に傷を負って、赤い血がにじんでいる。オハナのほうは無傷だった。
「ほっほっほ。坊ちゃんも先代党首シンタロウ様に似たいい男になった。ワシは50年も恋慕しておったのに、振り向いてもらえなかったのじゃ。ほい。『失恋風刃』」
オハナの口から吐く息は、風魔法によって強化されハートマークの凶器となってサブロウを襲う。
あまりの強さに、サブロウは逃げ回ることしかできなかった。
「くっ!かくなる上は!」
ついに追い詰められたサブロウは、傷つくことを覚悟でオハナに抱きつき、すべての魔力を使って竜巻を起こす。
巻き上がった竜巻は、二人を上空へと舞い上げた。
「『風魔流奥義・木の葉流れ』ですかいのぅ。格上の相手と相対してどうにもならなくなったとき、すべての魔力を使って相手を空中に飛ばして叩き落す技」
サブロウと共に竜巻に翻弄されながら、オハナは笑う。
「お忘れですか?坊ちゃんの師はワシですじゃ。こんな技、ワシの風魔法で……」
オハナが余裕たっぷりに風魔法で自分の身を浮かそうとしたとき、何かが抱きついてきた。
「な?」
「魔法は使わせない。私の身をもって封じる!」
サブロウはオハナの背中から抱きつき、両腕を捕らえてロックし、同時に足を絡め、首の後ろに額を押し付ける。
「この程度で……ふぐっ!」
さらに口に猿轡をかまされ、風魔法を封じられる。両手両足を拘束されて後ろに回られたため、オハナは身動き取れなくなった。
「ふがっ!ば、ばかな!これでは坊ちゃんも!」
「ああ。自分ごと地面に叩きつけられるだろうな!『風魔流奥義・木の葉落とし」」
二人の体は木の葉のように空を舞う。風がやんだ瞬間、十メートルの高さから、オハナを下にして地面に向かって落下していった。
「ぐはっ!」
「ぐっ!」
二人でもつれ合うように地面に激突した結果、オハナは顔面から地上に激突し、サブロウの下敷きになってまともに衝撃をうける。地面とサブロウの頭に挟まれたため、ゴキッという音と共にオハナの首の骨が折れた。
「ぐっ……ゲボッ」
サブロウも地面にぶつかった衝撃で血反吐を吐くが、なんとか立ちあがる。
「……くっ。グールの体は前に比べて強化されると聞いていたので、落下のときにクッションにしたが……賭けだったな」
ふらつく体を立て直し、オハナを見下ろす。彼女は倒れたままピクピクとうごめいていた。
「もうこいつは動けないな……ぐっ」
持っていた剣を杖にして、シャイロック領のほうに歩きかけた時、突然ブロローという唸り声が響いてきた。
(まさか!魔物か?くそっ!こんなときに!)
痛む体に鞭を打って、木の上に上って隠れる。すると、ギラギラと輝く二つの目を持った巨大な魔物が近づいていた。
(あ。あれは……なんだ!)
必死に気配を隠しているが、その魔物はどんどん近づいてくる。
さらに、首を折られたはずのオハナの声まで聞こえてきた。
「ボッチャン……ドコ……ニゲテモムダ……」
壊れた人形のようにボロボロになったオハナが、広い道の真ん中に仁王立ちして、鋭い視線を四方の木に向けている。
(くっ……ゲホッ。これまでか!)
どんどん近づいてくる未知の巨大な魔物と、不死身のグール。
もはやこれまでと観念して、サブロウが目をつぶった時ー
いきなり下からドーンという大きな音がした。
「へ?」
目を開けて下を見たとき、サブロウは何が起きたのか理解できなくて固まる。
なんと、オハナの体が、巨大な鉄の魔物に轢かれてバラバラになっていたのだった。
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