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責任の取り方
それから一時間後-
サブロウはコダワラ村に侵入してきたグールたちと、必死に戦ってきた。
「くそっ!なんでいきなりグールが攻めて来たんだ!」
グールの攻撃を必死に防ぎながら、サブロウは絶叫する。
せめてきたグールは緑色をした新種だったが、長い年月が経過していたようで体はボロボロだった。それらは簡単に駆除できるのだったが、問題なのは村の住人が新たにグールになったことである。
「ヒヒヒッ!」
中でも手を焼いていたのは、一時間前まで彼らの長老の地位にいた一人の老女だった。
「若!もう持ちません!無事なものを連れて、脱出してください!」
幼いころから一緒に育ってきた、フーマ家に仕える忠実な兵士たちが必死になってサブロウを逃がそうとする。
「だ、だが……」
「お願いです!どうかわれらの犠牲を無駄にせずに……ぐわっ!」
必死にグールの侵入を防いでいた兵士が、ついに押し倒される。
彼の上に馬乗りになった老女のグールは、キヒヒッとけたたましく笑った。
「お、オババ、頼む、許して……」
必死に命乞いをする兵士に対して、グールと化したオババは情け容赦なく顔を寄せてくる。
そして、そのまま濃厚なキスをした。
「ブッチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
精神的なショックに加え、生気と魔力を吸い取られ、代わりに緑の瘴気を吹き込まれた兵士はどんどん緑色になっていく。
オババはそれを見届けると、ゆっくりと彼の上から離れた。
白目をむいてピクピクと震えていたその兵士は、緑色のグールになっていった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
涎をたらしながら叫び声をあげる。その横でオババはニタニタと笑っていた。
「くそッ!やむをえん。オババを倒せ!」
サブロウの命令でいっせいに兵士たちがナイフを投げるが、彼女はひょいひょいとかわしていく。
「くっ……女アサシン、オハナの伝説はほんとうだったのか?」
「若いころはフーマの里で一番の使い手といわれた伝説の戦士が、まさか真っ先にグールになってしまうなんて……」
サブロウは歯軋りする。彼女が一番先にグールとなったせいで、何人もの屈強な若者が犠牲になっていた。
「やむをえん!脱出だ!」
サブロウは村のみんなを率いて、秘密の地下通路から逃げ出していく。
「キヒヒッ!」
逃げていく彼らの耳に、オババの笑い声がいつまでも響き渡っていた。
二週間後-
アンデス平原の領都ナスカは、城壁の扉を堅く閉めて篭城していた。
「グァァァァァァァァァァァァァ!」
「キヒヒッ!」
城壁の外では、何百人ものグールたちが取り囲んでうなり声を上げている。
すべて近隣の村の住人たちだった。
「怖い……」
「誰か助けて!……」
領都ナスカの住人と、迫り来るグールの群れから逃げてきた人々は建物の中で身を寄せ合って震えている。
外から聞こえてくるグールのうなり声は、彼らを確実に追い詰めていた。
「お、お母さん。私たちもグールになっちゃうの?」
幼い子供がおびえて、母親の胸にすがりつく。
母親も恐怖におびえていたが、それでも子供たちに希望を与えようと無理に笑いかけた。
「大丈夫よ。きっと勇者様が現れて、助けに来てくれるわ」
「勇者様?」
「ええ。昔々、アンデス高原にグールの群れが現れたとき、伝説の勇者アルテミック様が……」
部屋の中で飢えと寒さに震えながら、人々は勇者の到来を待ちわびるのだった。
ナスカ城
厳しい顔をしているゴールドと、各村から避難してきた騎士たちが会議室に座っている。
彼らはこのアンデス高原を支配する豪族だったが、誰もが傷つき疲れきっていた。
全員が憎しみの視線をゴールドの隣に座っている若い男に向けている。
彼は打ちのめされたように悄然としていた。
「騎士フーマ殿、何か申し開きがあるかな?」
騎士たちの中で一番年齢が高い男が、憎々しげに言い放つ。
「……何もございません」
若い男-サブロウ・フーマは、判決を受ける罪人のように首をうなだれていた。
「『風の墓場』の管理はフーマ家の果たすべき最も重要な役割」
「そこの封印はソレイユ家の血を引くものしか解けぬ。そして、アンデスの地にいた血縁は二人」
「一人はここにいるサブロウ殿。もう一人のカエデ殿は今どちらにいらっしゃる?」
騎士たちは容赦なくサブロウを責めたてている。
サブロウはただ深く頭を下げることしかできなかった。
「……申し訳ございませぬ。風の墓場の封印を解いたのは、我が不詳の妹カエデに間違いないでしょう」
その場で冷たい床に跪き、土下座を始めた。
騎士たちはそれを見ても怒りが収まらず、罵声を投げかける。
「なんということをしてくれたのだ!」
「わが村民も多くが犠牲となった。それも一番最初にグールになったフーマの里の者によってだ!」
「土下座などではおさまらぬ!」
騎士たちの怒りは当然であり、サブロウは何も言い返せなかった。
「皆様。あのような妹をこの地に連れてきたのは我が不明。この上は、腹掻っ捌いて兄としての責任をとりまする」
サブロウはその場で腹をだし、自ら短剣を突きたてようとした。
その時、落ち着いた声が響き渡る。
「フーマ殿。待たれよ」
声をかけてきたのは、その場の最上席にある領主代行のゴールドだった。
「ゴールド様、騎士の情けである。腹を召させてくだされ」
「そんなことをしても、誰も責任を取ったとは思わん」
ゴールドはサブロウに近づくと、優しく短剣を取り上げた。
「なぜとめるのですか!」
「そやつの妹が引きおこした災いですぞ!」
頭に血が上った騎士たちが責め立ててくるが、ゴールドは平然としている。
「私が言っているのは、責任のとり方の問題だ。フーマ殿が腹を切ってこの事態が収まるのならば、いくらでも切ってもらう。だが、そんなことをしても何にもならん」
ゴールドがそういっても、騎士たちの怒りは収まらない。
「ですが!」
「人の責任のとり方とは、処罰を与えて無にすることではない。犯した過ちをいかに取り返すかということなのだ」
ゴールドはそういうと、いきなりズボンをずり下ろした。
「な、なにを……え?」
ゴールドの股間を見た騎士は驚く。そこにはキラキラと輝く輪がついていた。
「そ。それは『隷属の輪』?なぜゴールド様が……」
「かつて私は、リトネ様が現れたことでシャイロック家の後継者の地位を失った。そのことを逆恨みに思った私は、リトネ様の暗殺を謀ったのだ」
ゴールドは淡々と昔の罪を告白する。
「わが叔父イーグル様は、暗殺を企てた私にこの輪を付けたが、命も奪わず罰も与えなかった。その代わりに一生かけてリトネ様に尽くすことで償いをせよと命じられた。人はだれもが過ちを犯す。しかし、誰もがそれを償うことができるのだ」
下半身すっぽんぽん状態のゴールドは、サブロウの肩に手を置いて話す。この場に集まった騎士たちはあまりの迫力に、何もいえなかった。
「わがシャイロック家の流儀は、罪に対して罰よりも優先して償いを求める。サブロウ・フーマ殿。その命を無駄に散らせるより、償いに使ってほしい」
「ゴールド様!なんでも命じてくだされ!命がけで償いをいたします!」
サブロウはゴールドの足元にすがりついて、すすり泣いていた。
「では、あなたに命じる。ここから単身脱出して、シャイロック家に助けを求めてほしい。跡継ぎであるリトネ様は慈悲深い方。きっと助けにきてくれる」
サブロウにリトネへの手紙を託す。
「死んでも使命を果たします!」
サブロウは白装束に着替えると、グールたちが跋扈する外に脱出していった。

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