自分に課したルール。

十年近くひきこもり生活を送っていたある日、気持ちの変化があって、バイトの面接を受けてみたことがあった。運良く採用されたのだが、勤務前日になると、イヤでイヤでたまらない気持ちになった。もともと人間関係が不器用な上に、十年のブランクがあるのだ。うまくいかないことは目に見えている。あと十二時間後には行かなければならない。あと十時間後には……などと考えているうちに、逃げ出したい気持ちになった。

そこで、私は自分自身にルールを設定した。

「つらかったら一日で辞めても良い」

「どうしてもつらかったら、昼休みで帰ってきても良い」

「耐えられないほどつらかったら、通勤途中で引き返しても良い」

これが自分自身に課したルールである。

普通、ルールとは禁止事項などを述べるものだが、私は「逃げても良い」というルールを課した。そのようなルールを設定しないと、私の性格上、心が病むまで働いてしまうからである。

本当は、このようなことは、自分以外の人に言って欲しかった。だが、親も恋人もカウンセラーも、ついに誰も言ってくれなかった。誰も言ってくれないのなら、自分が自分に言う他はない。一番頼りになるのは他人ではなく、自分自身なのだ。

結局、この職場は一ヶ月で辞めたけど、それなりの効き目は果たした。「今日が最後だ」と思いながら出勤すると、かなり耐えることができたのだ。「もう、この職場の人とは二度と会わないんだ」と思うと、一抹の寂しさすら感じたほどだ。

こんなルール設定が他のひきこもりにも通用するかどうか、私には分からない。だが、誰も言ってくれないのなら、その「言って欲しい言葉」を自分に言うことも効果がある。

何を言って欲しいかは、自分自身が一番良く知っているのだから――。

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