私が出会った職場⑤

どこの職場に行っても、必ず挨拶をしない人がいる。挨拶を無視されるだけの理由があるなら、そんな仕打ちも納得できるのだが、挨拶を無視される心当たりがないので、とてもこたえる。

挨拶を無視する人は、「この人には挨拶する、この人には挨拶しない」と、相手を選別している。恐らく、その人の職場内での立場や、反撃の可能性などを考慮して挨拶の無視をしているのだろう。およそスケールの小さい話だが、四十を過ぎた大の大人もこのようなことをするので、恐らくどこの職場にもあることなのだろう。

ある職場では、相手が挨拶しないので、こちらもしなかったら、

「なんで朝来たときに挨拶しないんだ!」

と怒られた。「あなただって挨拶しないでしょ」と言えば良かったのかもしれないが、そのような勇気が私にはなかった。このように、「自分は挨拶しないけど、他人には挨拶を強制する」という人は、かなり多い。

ある飲食店で働いていた時、

「おはようございます」

と入っていっても、一人か二人しか挨拶してくれず、他の十人ぐらいはシーンとしていることが続いた。それが、私には耐えられないことのように感じた。私の働きぶりや性格などにある種の評価が下されたのだろうが、それを「挨拶を無視する」というかたちで表すことが、とても怒りをかきたてるものだった。私はその職場を、ある日突然辞めた。

「どうして挨拶を無視するんですか」

と問い質せば、きちんとした話し合いが成立し、討論による解決という結果になったのかもしれないが、「問い質す」という行為はかなりの衝突を予感させるものであり、私にはできなかった。もしかしたら、そのような「臆病さ」が、挨拶の無視に繋がったのかもしれない。

「挨拶の無視」は、どこの職場に行ってもある。それに耐えられない自分には、やはりひきこもり脱出は難しいと感じる。

(ひきコミ95号掲載文)

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