ねえ! 入籍しようよ!②

私が結婚を渋る理由は、他にもある。私の父のことである。

私は、どんなことがあっても、父を安心させたくない。いつまでも不安なままでいて貰いたい。そうすることが、私のひきこもり人生にとってベストだからである。

「死ぬに死ねない」という言葉があるように、人は何か思い残すことがあると、本当に死ねないものである。逆に、心にひっかかるものが取れ、安心してしまうと、人間は一気に老け込み、そして死になだれこんでいく。これはあながち間違っていないと思う。

私が独身でひきこもりでいる限り、父は安心できない。その結果、いつまでも働かなければならず、死ぬこともできない。

父が「淳也も結婚したか。一安心だ」と思ってしまったら、父は老け込み、死んでしまうかもしれない。一生ひきこもるであろう私にとっては、それだけは絶対に避けたい。

これを読んでいれば分かるだろうが、私は父のことなど考えていない。自分のことだけしか考えていない。

「ずっと独身でいて、父を安心させないこと」が、ビジネス上、有利に作用すると考えて、独身を選んでいる。また、「父を不安にさせれば、一生懸命父は働き、健康にもいいだろう」という利己的な判断もしている。どちらも、人として許せないレベルのものである。

世の中には「人間は一人では生きていけないんだ!」と叫ぶ人がとても多い。だが、私の場合は違う。私は「一人じゃないと生きていけない」のだ。一人きりにならないと、生きていけないのだ。

だが、そんな気持ちを分かってくれる人は、滅多にいない。恋人の律子だって、「俺は一人じゃないと生きていけないんだ」と言われたら、悲しむだろう。ひきこもりの気持ちは、まず理解されない。恋人にも理解されない次元のものなのだ。

私の最大の望みは、今のままがずっと続くことである。律子とはいつまでも恋人のまま。父からも毎月仕送りを貰う。一人暮らしも今のまま。そうすることが、私にとって、最も望ましい生活形態なのだ。

だが、そんな想いを吐露すれば、律子はとても悲しむだろう。

私と出会ってしまった、ということが、律子にとっては不幸だったのかもしれない。ひきこもりの男を愛してしまったということが、彼女の人生を狂わせてしまった。

なんだか、生きているだけで大勢の人を不幸にさせているような気がする。

4 Responses to “ねえ! 入籍しようよ!②”

  1. 読者 Says:

    うらやましいひきこもりですね。親から仕送り12万貰ってる上に、結婚を求めてくる彼女までいるなんて。

  2. 二条淳也 Says:

    読者さん

    たしかに、ひきこもりとしては、恵まれているほうだと思います。

  3. flowerchild Says:

    親が死んだあとはどうするんですか?
    自分も親に依存してるので、このことを考えると猛烈に不安になります。

  4. 二条淳也 Says:

    flowerchildさん

    親が死んだあと、どうするのか。今、それを模索しています。

    たしかに不安になりますよね。。。

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