私が出会った職場②
一ヶ月働いたバイト先を、突然辞めた。いちいちつっかかってくる同僚がいたからである。「辞めます」と電話で告げて、受話器を置くと、とても開放的な気分になった。身も心も解き放たれたような、とてもすがすがしい気持ちになった。
だが、しばらくすると、強烈な自己嫌悪が襲ってきた。「職場にいた親切な人たち」のことを思い出したからである。このバイト先では、私のために熱心に、かつ優しく仕事を教えてくれたおばさんがいた。あのおばさんは、私がある日突然辞めたことを知った時、どう思ったのだろう。
(あんなに親切に教えたのに)
そう思って、裏切られたような気持ちになるのではないか。そう思うと、私は激しい後悔を感じる。そして、優しく接してくれたのに、それを裏切るようなかたちで辞めたことを、謝りたくなる。
私は今まで、二十以上の仕事を経験してきた。だから分かるのだが、どんなに「どうしようもない職場」でも、必ず一人ぐらいは、親切な人がいた。必ずである。孤立していた私に笑顔で接してくれたおばさん。穏やかな口調で仕事を教えてくれた先輩。冗談ばかり言って笑わせてくれたおじさん……。そんな彼らのことを思うと、本当に、
「裏切ってごめんなさい!」
と謝罪したくなる。仕事を辞めるにも、辞めかたというものがある。人間関係に耐えられなくなって、電話で辞意を告げて、突然来なくなるというのは、裏切り以外の何者でもない。
辞めるその日まで、自分なりに頑張ってきた。そして、どうしても我慢できなくなったから辞めたのだけど、それでも優しく接してくれた人たちに、とても申し訳ない気持ちになる。
あの人たちの笑顔を、もう一度見たい気がする。
(ひきコミ92号掲載文)