「危ない仕事ですか?」

汚れた衣類をキレイにするために、近所のクリーニング屋に行った。いつも利用してる店だ。店内に入ると、いつものおばさんが店番をしていた。

「あら、こんな時間にお店に来るなんて、珍しいですね」

そんなことを言われて、そうかな、と思った。ほとんど一日中ヒマなので、いつも何時にこの店を利用しているか、考えたこともなかったのだ。

「いやあ、ははは。時間が不規則な仕事をしているんですよ」

と、私は答えた。「時間が不規則な仕事」と答えれば、ひきこもり生活が誤魔化せると思ったのだ。すると、おばさんは、意表を突いた疑問を投げかけてきた。

「……危ない仕事ですか?」

私はびっくりした。自宅に閉じこもっている自分が、まさか反社会的な人間に見られるとは夢にも思っていなかったのだ。

だが、おばさんから見れば、「危ない仕事をしている人」に見えたかもしれない。スーツを着ることもなく、いつもラフな格好で店内に入り、いつもラフな私服をクリーニングに出す。私がスーツをクリーニングに出したことはないから、まともな勤め人ではないことは、おばさんも充分知っている。

また、普通、男性がクリーニング屋に来るのは、仕事帰り、つまり夕方以降なのだが、私の場合、平日の真っ昼間から平気で来る。およそ、「普通の仕事」をしているようには見えない。おばさんが「この人、危ない仕事をしている人かしら」と思っても、なんら不思議はないのだ。

人間関係が苦手で社会から撤退しているような人間なのに、他の人から見れば、危険な人物のように思われている。それはちょっとだけ面白いことだけど、やはり愉快なことではない。人並みに見られなかったということなのだから。

結局、おばさんには「三交代の工場で働いている」などと言って誤魔化した。「制服で働いているから、スーツは着ないんですよ」などと言って誤魔化したが、一度ウソをつけば、そのウソを守るために、さらにウソをつかなければならない。

今から、三交代の工場について、いろいろと調べようと思っている。

クリーニング屋のおばさんにまで、自分がひきこもっていることを知られたくないから。

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